情けないほど
四月になって、事前に宮川さんの授業情報を手に入れていた俺は彼女に合わせて自分の講義を選んだ。
この時間しか出れないですと店長に嘘をつき、留年ギリギリの単位と睨みあう。
あれ、榎本も火曜と木曜の朝? また同じだね!
嬉しそうに笑う彼女を見て、くだらない悩みが全部吹っ飛んだ。
単位なんて上学年になって取り返せばいい、もしくは人一倍勉強して何とかすればいい。
努力は厭わない。
少しでも彼女の傍に居ることが出来るのなら。
生真面目な性格、何事も手を抜かない懸命さ、人を喜ばせる愛想笑い、俺の話に大笑いしくれる単純さ。
全てが愛おしくて、どうしようもなく彼女に惚れていると思った。
好きだ。好きです。
自覚すると堪らなかった。
かなりの重症だと思う、自分でも。
だけど、この恋が叶うことはない。
可愛い顔してるね。と、初対面の九十%の人が言ってくる。
彼女の嗜好とは真逆の顔つきに、低身長。
恥ずかしい話、雑誌やネットで格好のいい男というものを研究してみたけど、いまいちよくわからなかった。
それでも、少しでも彼女に気に入られたくて、顔の手入れや髪のセット、服のセンスなど、外見のチェックは怠らなかった。
いつかきっと、宮川さんが俺を……
そんな夢のまた夢を追いかけて。
それが今、どうだろうこの状況。
カチカチと小銭の擦れる音が耳に痛い。
沈黙に耐えられなくて、もう何十回目かのお金の計算を始める。といっても、頭の中は真っ白で計算しているわけではない。
何か行動しているというきっかけが欲しいのだ。
思えばほんの十数分前、全てはあの男が現れてからだった。