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不器用な私と物好きな彼

 

 入ってきた客は缶珈琲買い、二分もしないうちに店を出た。

 ドアが閉まるのと同時に、雑誌棚の整理をしていた榎本がレジに戻ってくる。

 逃げるのも変だと思い、榎本と目を合わせないようにしてレジの奥に寄った。

 少しのあいだ榎本の視線を感じ、小さなため息が聞こえたかと思うと榎本はレジのお金を数え始めた。

 レジ閉めにはまだ早い時間、コインの擦れる音が耳に痛い。


「イケメンってあんなのですか?」


 振り返ると、榎本は視線を落としたままだった。

 きゅっと、上着の裾を握りしめる。


「楠は、イケメンの部類に入ると思う」


 私の答えに榎本はなにと言わなかったし、反応も示さなかった。

 怒ってる?

 私なにかしたかな?

 話を……話題を振らないと。


「もしかして榎本、ヤキモチ焼いてる? 私があまりにもイケメンってうるさいから、嫉妬したんでしょ。可愛いなぁ、榎本は。ごめんねー、イケメン好きで」


 空気を変えようと発した冗談で、場が凍りついた。

 お金を数えていた榎本の指が止まる。

 しまった、今のは口にしてはいけない言葉だった。きっとある意味、私の言葉は図星だったのだ。

 本物のイケメンを前にして、かわいいだけの自分は男として負けていると、榎本は悔しさを感じたに違いない。

 謝罪の言葉を口にするのも違うと思い、私は下を向いた。

 こんな些細なことで榎本との関係が壊れると思っていなかった。

 この状況を招いた私の自業自得だけど。


「ヤキモチ、ですよ?」

「…………え?」


 耳を疑い、思わず榎本のほうに振り返る。

 彼の視線は変わらず、お金を数えていた。


「ヤキモチ焼いてますよ。俺、あんたのこと好きだから」


 声がうまく出なかった。なにかを喋ろうと思ったわけではないけど、私は言葉を失って榎本の横顔を見た。

 無表情でお金を数える榎本。

 まるで何もなかったかのように。

 今のはなに?

 告白……榎本が私に?

 ありえないでしょ。究極ほブス専の、あの榎本だよ?


 絶対にありえない。

 冗談に決まってる。そうに決まってるけど。


 カチ、カチとお金が擦れる小さな音。

 耳が痒くなるのを指で押さえ、顔を見られないように下を向いた。


 どうかこれが、夢じゃありませんように。


 パニックになっている頭で、それだけを強く願った。

1部「彼女の場合」完結です!


ありがとうございました(^^)

次から「彼氏の場合」を連載していきます

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