彼へと続くこの物語LAST2
私と入れ違いで榎本が休憩に入った。暇すぎるので掃除に没頭して時間を潰す。
暇だっていっても、お金貰ってるんだから給料分は働かなきゃ!
雑誌を引っ張りだして並び替えていると、ベルが鳴って客が入ってきた。
「あれ、宮川?」
店に入ってきたのは、私が通う大学一のイケメンとして有名な楠克哉。
彼とは専攻するゼミも同じで親しい仲だった。芸能界でも十分通用する容姿と、百八十近くある長身が映えるモデルスタイル。
面食い女が放っておくはずがない。
無意識に顔が綻び、楠のもとへ駆け寄る。
「楠じゃん、どうしたの?」
「暇だから立ち読みでもしようかと思って。俺の家、すぐそこだから。宮川はバイト?」
「見てわかるでしょ、お仕事中です」
「いつから?」
「そろそろ半年経つくらい」
「マジかよ。俺結構ここ来てんのに気付かなかった。いつ入ってる?」
「火曜と水曜の午前中」
「午前中授業ない日じゃん、俺寝てるって」
「起きてランニングでもしたら?」
「うっわ、すげー健康的。無理だわー」
そう言いながらも、楠の身体は程よい筋肉がついて逞しい。それにこの整った綺麗な顔。
榎本が休憩中でよかった。
イケメンを目の前にすると、ついつい顔が緩んでしまう。そんな情けない姿を見られたくない。
こいつマジで面食いなんだなって呆れられるのも嫌だし、なにより勘違いして欲しくない。
私が好きなのは榎本だから。
誤解されてあんな顔されるのは嫌なんだよね。
冷たい目をして呆れ顔で私を見つめる。
ちょうど今、そこに立ってる榎本がしているような、冷たい目の……え?
「あれ、榎本? 休憩終わったの?」
榎本が、スタッフルームの入口で私たちを見ていた。
気付かなかった、いつから居たんだろう。
「バイトの子?」
話しかけたのは楠だった。
榎本はちらっと私を見て、楠に向かって軽く頭を下げる。
「榎本俊一、す」
「俺、楠克哉。宮川とは専攻が同じでさ、結構気が合うんだ。な、宮川」
「え、あ、うん。そうだね」
初対面の相手にも気さくに接する楠の陽気な性格が、今は恨めしい。
私のドジさとか意外と勉強出来るとかを語る楠に、榎本は怒りを押し殺した時の愛想笑いを浮かべていた。
あれ? 榎本って人見知りだったっけ?
不機嫌が顔に出てる……
でも、それに対する楠はちょっと、空気読めなさすぎじゃない?
私を放って私のことを話しする榎本と楠。
居た堪れないと俯いたとき、来客を知らせるチャイムが鳴った。
「いらっしゃいませ!」
今度の客は全く知らない他人だった。ここぞとばかりにレジの中に入り、店員の役割を果たす。
楠は片手をあげ、また学校でという挨拶を口にして店を出ていった。
早く行け! という心の声は胸に収め、笑顔で楠を見送った。