独
「ねぇ、榎本。この雑誌に乗ってる女子高生モデルと、この肉まんのポスター飾ってるお笑い芸人、どっちがかわいいと思う?」
榎本の目が私の指について動き、肉まんで止まった。
ふっくらと丸い肉まんと、同じような体型の女性。
「肉まんの子のほうが可愛いに決まってるじゃないですか」
それが当たり前、という風に榎本は笑った。
改めて見てもやっぱかわいいよなぁもっといろんなもののパッケージ飾ればいいのにいっそのこと向こうのチューハイのポスターもこの子になればいいのになぁかわいいなぁ。
私なんかそっちのけで、榎本は自分の世界に入り込みブツブツと一人ごとを言っていた。
かなりの重症。
冗談ではなく本気で言っているのだ、彼は。
最初は場を盛り上げるための冗談かと思っていた。
『なに言ってるの榎本くんあはは』と肩を叩いた私に対し、榎本はポカンとしていた。
彼の嗜好を理解していくにつれ、彼の印象はかわいい男の子から変なやつに代わった。
それが好きな男性になった瞬間は、よく覚えてない。
とにかく榎本は普通と少し違っていて、私が恋をするには最悪の相手だった。
宮川さん、性格はいいっすよね。
初期の頃に言われた言葉。
一瞬聞き流してしまい、ワンテンポ遅れて私は彼に向って首を傾げる。
あ、ははっ。なに言ってるの、榎本くん。
あ、いや。顔が不細工ってわけじゃないですよ。大丈夫です。ただ、性格はいいのにもったいないと思って。内面美人ってめったにいないから。そうだ、もう少し太ったらどうですか? あと三十キロくらい。そしたらめちゃくちゃかわいいと思う。
彼の言葉が全く理解できなかった。
なに言ってるの、この子。
そんな会話を何度か交わしたら嫌でもわかるだろう、私は榎本のタイプじゃない。
全くの論外。
可愛い顔に生まれた自分をうら……むことはない。
怨むべきは榎本の嗜好。
なんでそんな……
いや、結局のところそれも違う。
世の中星の数ほど人がいるんだから、無限の嗜好があるのは当たり前、だからみんな丁度よく結婚出来るのだ。
恨まなきゃいけないのは、榎本を好きになった自分。
気持ちを消せない、自分。
この恋心。
重症なのは私のほう。
そして次に怨むべきは、榎本と私がいつも一緒のシフトだということ。
火曜と木曜の午前中、お互いその時間は大学の講義が入っていない。
私は三年だから暇だとして、榎本は何故この時間なのだろう。
一緒のシフトがいい、とか思ってくれてたら嬉しいな。
いやいや、絶対にない。
だってあの榎本だよ、不細工芸人を絶世の美女と思ってる榎本だよ?
一緒のシフトがいいからって店長に嘘までつくのなんてきっと、私だけ。