「ヤキモチ、ですよ?」
休憩なんていらないのに。
そんな思いで五分早く切り上げ、スタッフルームを出た。
宮川さんは今ごろ、いつもみたいに一人で掃除でもしているだろうか。
誰もいないからサボればいいのに。
そういう生真面目なところが、ものすごく好きだ。
「俺結構ここ来てんのに気付かなかった。いつ入ってる?」
店内に戻って聞こえたのは、低い男の声。
目に映ったのは、宮川さんが俺の知らない男と話している光景だった。
チラッと見えた男の顔が、とびきりという言葉で表現できる程のイケメンで。
身長は宮川さんより随分と高い。
「火曜と水曜の午前中」
そこまでならまだいい……いや、よくはないが。
まだ許容範囲内として、俺の胸の痞えは、そいつを見つめる宮川さんの嬉しそうな顔だった。
俺の前では見せてくれない表情。
悔しい……悔しい、悔しい。
手のひらに痛みを感じ、見ると爪で傷ついた皮膚が血で滲んでいた。
「あれ、榎本? 休憩終わったの?」
はっと我に返ると、宮川さんが俺のほうを見ていた。
ついでに楠とかいうあの男も。
「バイトの子?」
これは俺に言ったのだろうか。
無碍にするわけにいかないので、軽く頭を下げておく。
「榎本俊一、す」
やべ、すげー無愛想になった。
だけど楠は、俺の態度を気にすることなく朗らかに微笑む。
「宮川とは専攻が同じでさ、気が合うんだ」
なんだこれ、仲良しアピールですか?
苛立ちを抑え、適当に相槌をうってやり過ごす。
横目で宮川さんを窺うと、落ち着かない様子で下を向いていた。
俺とこいつを話させたくないのか?
本命だからバレたくないとか?
本当に俺は、彼女にとって論外なんだな。
どう頑張っても生まれ持った顔は変えようがない。
服を整えても、手入れをしても筋トレしてみても。いっそ髭でも生やしてみるか?
違う、たぶん。
なにをしても俺が、彼女の好きに届くことはない。
ていうかなんだよ、この男。どうして俺に話しかけてくる? 隣に宮川さんがいるだろ。いや、宮川さんには話しかけるな、だけど俺にも話しかけるな。
……他人を恨んでも仕方ない、そもそも宮川さんの嗜好が
と、自虐が治ると次は怒りが込み上げて、頭がおかしくなりそうだった。
そして相変わらず、陽気に話しかけてくる楠。
ベルが鳴って別の客がやってきた時には、俺の頭は爆発寸前だった。