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悪役令嬢だと思っていたら思いの外好かれていたみたいです

作者: 奏志
掲載日:2026/03/25

初めましての投稿です。

 豪華に飾り付けられた王宮のホール。

 ドレスアップした令息令嬢、そしてその家族達が満開の花のように鮮やかに会場を彩っている。

 ホールの端に並ぶのは王宮のシェフ達が腕によりをかけた渾身の料理。


 王立高等学園の卒業祝いの晩餐会がかつてない程の豪華さで行われている。


 その玉座の近くにソフィアは王太子と聖女と共に友人達に囲まれていた。


 この豪華な卒業式は、王太子と聖女が共に卒業を迎えるとあって王家主催で行われたものだ。


 ソフィアは目の前で談笑する王太子と聖女、二人の様子を注意深く探った。


──とうとうこの日が来たのね。


 ソフィアは知っていた。王太子と聖女は道ならぬ恋をするものだと言うことを。

 なぜならソフィアには前世の記憶があるからだ。と言っても前世をはっきりと覚えているわけではない。


 本やゲームが好きで色々なジャンルのものにハマっていた事や、平凡なりに幸せな人生だった漠然とした記憶だ。


 そして、この生活が前世で読んだよくある転生ものの世界とよく似ている事も。


 記憶を取り戻して、自分と周囲との関係を整理すれば、自ずと自分が悪役令嬢の位置にいることは理解できた。


 聖女を虐めたりせず無難に学園生活を過ごせばよかったのだが、強制力のせいなのか三年間でソフィアが聖女を泣かせた数は数えきれない。そして、泣かせる度に王太子に泣きつく聖女とそれを慰める王太子の姿も同じだけ見てきた。


 この国の宝である聖女様。そんな彼女を何度も泣かせたソフィアは自他共に認める悪役令嬢になっている。


──国外追放かしら。それとも過酷な修道院行き? 絞首刑とかじゃなければいいんだけど……。


「ソフィア」

「はい」


 王太子の低い声で呼ばれ、ソフィアはカーテシーで応える。いよいよか、と緊張してドレスをつまむ手も震え、手の平にじわりと汗をかく。


 王太子の手がスッと目の前に差し出された。


「ダンスはいかがかな? 我が婚約者殿」


──最後のダンスというところかしら。


 ダンスはその場で最も位の高い者が最初に踊る。これは、この国のしきたりだ。


 王族である王太子が最初に踊らなければ後が踊ることが出来ない。


 折角の場を最初から滞らせる訳にはいかない。そう言うことだろう。


 十年近くも共に過ごしてきた王太子の馴染んだ手に自分の手をそっと添える。


 ふわりとドレスの裾が広がり、緩く握られた手も腰に回った手も親しんだ温もりで。


 一曲踊り終えると王太子は聖女の手を取ってホールへと出ていく。


──このダンスが終わればいよいよですわね。


 仲睦まじく踊る王太子と聖女。

 戻ってきたらその時、そのまま断罪される。


──断罪をするには絶好のチャンスだわ。


「あー楽しかった!」

「君のダンスは独創的過ぎる」


 王太子は近くまで来ると聖女の手を離し、ソフィアの隣に立つ。


 そして、聖女はソフィアを挟んだ反対側に立った。


「???」

「どうしたソフィア、そんな可愛い顔をして」

「本当だ、可愛い」

「ええっ!?」


 王太子と聖女の思いもよらない言葉を聞いて戸惑いの声を上げてしまったが、一つ咳払いをすると。


「私は国母には相応しくないのでは?」

「は?」

「え? なんで? 逆に聞きますけどソフィア様以外に国母に相応しい方がいます?」

「居ないな」


 ソフィアの頭の中を疑問符が埋め尽くす。


「断罪は? 断罪はしないのですか?」

「断罪? なぜ?」


「なぜって……私は聖女を数えきれない程泣かせてきました。 国にとって聖女は貴重で居なくてはならない存在。そんな彼女に嫌われてしまった私が未来の王である王太子の婚約者のままでは問題があると思います」


「え、え、待って! いつから私がソフィア様を嫌ってるなんて! えぇ、うそぉ」


 なぜか聖女がショックを受けている。


「聖女を泣かせた者は数多くいるけれど、確かに君が聖女を誰よりも泣かしているだろうね」


 王太子に言葉にソフィアは素直に頷く。


「しかしそれは理由あっての事だろう?」

「そうですよ! 確かに色々言われて泣いちゃいましたけど、理不尽なことは何一つ言われていません! むしろ学ばせてもらって、お姉様とお慕いしてるくらいです」


「そう……なのですか?」

「はいっ! ソフィア様大好きです」


 そう言って飛び付いてくる聖女を受け止めた。


「断罪か……ふむ。ソフィア」


 差し出された王太子の手を取る。

 連れて行かれたのはホールの真ん中。少し距離を取って王太子と向かい合って立つ。


 何が起こるのかと聴衆は静まり返った。


「ソフィア公爵令嬢!」


 鋭い声で名を呼ばれ、ビクッと肩が震えた。

 ドクドクと心臓が早鐘を打つ。


「貴女は教育と称して聖女を厳しく叱りつけ、何度も泣かせた。それは間違いないな?」


 騒めきが広がっていく。戸惑いの声や驚きの声に包まれ、ソフィアはいよいよかと構えた。


「はい」


 聖女を泣かせたのは事実、ソフィアは神妙に頷く。


「ちょっ……なんで?」


 聖女の戸惑う声が聞こえた。


「貴女のお陰で、聖女は淑女……とはまだ言えないが随分と礼儀作法を覚えたと思う。泣きながら私のところに泣き言を言いに来た時はどうなることかと思ったが、随分と根気強く教えたものだ」


思い出したのか、苦笑を浮かべている。


「これからも私には貴女の助けが必要だ。そして、恐らく聖女にも」


 聖女に目を向けるとコクコクと頷いている。


 王太子が片膝をつく。


「え?」


 王太子の行動をソフィアは呆然と見下ろした。


「これからもずっと私を支えてほしい」


 王太子は深く呼吸を一つして、顔を上げ──


「私と結婚してください」


 しんと会場が静まりかえっている。


 王太子の言葉がじんわりと身体中に浸透して、ぶわっと歓喜が溢れた。


「はい」


 と頷くとドッと会場が大きな歓声と拍手に包まれた。


 遠くでは、やったー! と叫ぶ聖女の声も聞こえた。


 王太子に抱きしめられ、ようやく安心できた。


 私は断罪される令嬢だと思ってた。


 なのに──


 なぜか王太子の婚約者として腕の中にいたのだった。


 賢王と名高い王と稀代の聖女と言われた聖女が国を栄えさせた時代、その二人に愛された王妃が国の礎を支えていた。


「聖女、貴女わたくしのことをお姉様って仰いましたけど、わたくし達同い年ではなくて? なんなら誕生日、貴女の方が二ヶ月早いじゃない」

「え? 私の誕生日覚えてくれてて嬉しい!」

「何を仰っているの? 今年の誕生日、プレゼント贈ったじゃない」

「あー、あの淑女にしか使えないお高そうなティーセット! 私にはまだまだ使えないなぁ」

「すぐに使えるように、明日からビシバシ教育していきましょうね〜」

「笑顔が怖いよ〜!」

「確かに、私は妹っぽくありませんし、貴女も姉にはなれませんわね」

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