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アリエルとアリル  作者: 第三者臨海


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9/21

08 いつもと変わらない朝



 アリエルが住んでいる地域とは違う場所。

 セントスターの国境近く、深い森の隅にとある屋敷が立っていた。


 それはシャナ・ホムランが住む邸宅、ホムラン邸だ。


 十階以上もあるその屋敷は、この世界でも珍しい。


 最高峰の腕を持った建築家がデザインし、最高の技術を持った建築作業員が建てたものだ。


 内部にはいくつもの部屋があるが、そこには様々な人間が住んでいる。


 シャナに仕える何百人の使用人だけでなく、考古学者や魔道具職人、魔法研究科などがいた。


 彼らはシャナに生活費と研究資金を出してもらいながら、その邸宅で生活している。


 数で数えると約100人ほどがいた。


 そんな彼らが研究しているのは、女神の呪いと祝福についてだ。


 過去の文献を漁ったり、様々な国の歴史を調べる彼らはいつも忙しい。


 その中の一人、ぼさぼさ頭の研究者が、仮眠を取っていた部屋の中でベッドからころげ落ちた。


 寝ぼけ眼のその人物は、髭もぼさぼさに話した40代の男性だ。


 サイーズ・ダニィ。


 黄緑の髪に、深緑の瞳を持つ人物である。


 体格は息子と似て、非常に痩せている。


 そんな彼は、カイラス・ダニィの父親であった。


 息子と同じように、自分がやっている事にはとことんまで夢中になる性格だ。


 そんなサイーズは、ベッドの近くにあるテーブルを見つめ、その上にあるものにしs年を向けた。


 手を伸ばし、開封したばかりの手紙を手に取る。


「そういえば、カイラスからもらったんだっけ」


 寝ぼけ眼の彼は、回転不足の頭に悩みながら、手紙の文面に視線を走らせる。


 すると、そこに書かれていた内容にぎょっとした顔になった。


 ちなみに、眠りにつく前にもざっと読んだはずだったが、疲労のせいか頭の中に内容が定着していなかった。


「狙撃? 学園を狙った犯行? 街中に弾丸が落ちてた? 不審者の侵入騒ぎとの関係生は、被害者の自害で分からず終いか。こりゃ、偉い事になってるな。シャナ様に早く報告しないと」


 慌てた彼は最低限身だしなみを整え、服装も整えるや否や部屋を飛び出す。


 しかし、その途中で、扉に足の指をぶつけて何秒かうめく事になった。


 彼は暗い部屋で研究ばかりにあけくれていたため、視力が悪かったのだ。




 一か月後。


 一日の始まりで、店の準備や出勤、通学などで、だんだんと町の喧騒が目立つようになってくる時間帯。


 アリエルは学校へ登校する。


 本日も、馬車ではなく徒歩で。


 当然、アリルは馬車で登校しているにも関わらず、だ。


 季節は冬で、木の葉のついていない寒そうな木が並木道に並んでいる。

 しかし時折、冬でも咲く白い花が、道を歩く者に彩りを提供する。


 エレクトリックスノーと呼ばれるその花は、静電気を蓄える花だ。

 手を近づけると、静電気を放出するため、ぱちっと音がする。


 一般市民の子供達は、よく手を使づけて遊ぶ事があった。


 事実、アリエルの視界の隅で、子供達は花を囲んで楽し気に談笑していた。


「お兄ちゃんすごーい。なにこれ。びっくりした」

「な? すごいだろ? これたくさん積んでいって、あいつ脅かしてやろうぜ」


 誰の事を言っているのか他人であるアリエルには分からなかったが、彼らは友達にサプライズをしかけようとしていた。


 十歳ほどの年齢の兄弟が、はしゃいだ声で花を摘んでいる。


 それを微笑ましい気持ちで見つめながら、アリエルは通り過ぎようとした。


 しかし、兄弟ははしゃぎ過ぎた。


 別の場所にたくさん生えている花を見つけた弟が、周囲も確認せずに走り寄ったからだ。


 その結果、街中を走っていた馬車の前に飛び出す形になる。


 アリエルは、思わず魔法を使用する。


 時の流れが緩やかになりるが、完全に停止しているわけではない。


 馬車は今もゆっくりと走り続け、少年は自分の真横に命の危険が迫っている事に気づかず走り続けていた。


 アリエルは別の魔法を使用しようと考えたか、問題を解決するのは無理だと結論付けた。


 限りなく辺りの時間が停止しているようにメイルこの状況の中、魔法を使って何かを創造する事はできても、それを創り出した場所から動かす事はできない。


 だから、少年を馬車の進路からどかす事はできないし、馬車も同じくだった。


 とんでもなく強固な檻を少年の周りに創造すれば、少年は助かるだろうが、馬車はひしゃげてしまうだろう。


 それに、それほど大きなものはそもそも創造できなかった。


 魔法の行使をやめたアリエルが戻る時間の中で、少年の元へ駆けだそうとする。


 しかし、そうする必要はなかった。


 通りかかったジョシュア・ヒルズが水の魔法を使ったからだ。


 うずまく水流を出現させた彼は、その渦に少年をとらえて、馬車の進路上からどかした。


 少年は水に押し流される形で、難を逃れる。


 結果、少年はびしょ濡れになってしまったが、命に比べれば安いものだった。


「大丈夫か?」


 子供相手だからか、いつもの丁寧なしゃべり方ではないジョシュアが、びっくりしながら硬直している少年を気遣う。


 しかし、自分の身に起こった出来事の衝撃が大きすぎたのか、大粒の涙をこぼして泣き出してしまった。


「ご、ごめんなさ……ひっく」


 ジョシュアが困ったような顔で宥める。


「いや、怒ってないから。こ、こういう時はどうしたら……」


 遅れて兄弟の兄が弟へ走り寄り、子供をひきかけた馬車も停止し、御者が彼らの元へ駆けつける。


「おい、大丈夫か! 馬鹿! あれほど左右もみずに飛び出すなって言っただろ!」

「だ、大丈夫ですか! えっと、あなたは学園の生徒さんですよね」


 自分が出る幕もなかったと結論付けたアリエルは、その場から歩き去るが、そんな彼女の背中にジョシュアが声をかける。


「アリエルさん! もしかしてあなたは……」


 だが、アリエルは一瞥しただけで、その場から歩き去る。


 ジョシュアはなおもアリエルの事を見つめていたが、状況に対応するために視線を外したのだった。


 その日、校内ではジョシュアのお手柄救出劇が話題としてもちきりになったが、その中にアリエルの存在はなかった。




 ジョシュアの話でもちきりだったため、その日のアリエルは誰かに絡まれる事もなく、嫌がらせされる事もなく、半日が過ぎ去った。


 昼放課になったため、アリエルは目的の人物に会うために、学園の裏手へ向かう。


 生き先で待っていたのは、同じ学校に通う男子生徒だ。


「やあ、アリエルちゃん。今日も可愛いね」

「御託は良いわ。依頼した情報が集まったなら、話を聞かせてくれる?」

「ははは、いつも通りだなぁ」


 アリエルが話す相手はレオン・ネスフェ。


 緑色の髪に、黄緑の瞳。校則違反のイヤリングを付けている。

 アリエルと同じ年齢で、髪型はくせ毛。

 女生徒達にモテるが、ちゃらい男子生徒だった。


 アリエルはレオンの事を、色々教えてくれるから便利だと評価している。


 するとアリエルの内心を読んだレオンが、ため息を吐く。


 「便利って言われると傷つくな」


 レオンとしては不服だったため、肩をすくませた。


 アリルとも話す事があるが、レオンは取り巻きになならない人物だ。


 以前その事についてアリエルが「あなたは妹に骨抜きにされないのね」と聞いたら、レオンは「魅力がないからね」と答えた。


 アリエルはチャラいと評されるレオンの好みがよくわからなかった。


 話をしているとアリエルが、匂いに気づく。


 レオンから、香水の匂いがした。


 それは、薔薇の匂いだ。


 アリエルが「校則違反よ」と匂いについて指摘すると、レオンが「流行ってるんだよ」と、答える。


 答えになっていないが、アリエルにとってこういった情報はありがたかった。


 家の恥さらしと言われ、社交界に出る事を禁止されため、アリエルはこういう情報を知らなかったからだ。


 レオンは続けて他の流行っているものについて教える。


「恋愛ものなんかも、結構注目されてるみたいだよ」


 貴族の間だけでなく、一般市民たちの間ではラブロマンスが流行っているらしい


 しかし、調子に乗ると聞いていないことを延々としゃべり続けるため、アリエルが「もういいわ」と止める。


 たまに聞いていない情報をぺらぺら喋って、料金をとろうとするからアリエルにとって油断できない相手だった。


 アリルとは別の意味でやっかいな相手だ。


 そんなにお金を集めてなにがしたいのだろうかと、アリエルはレオンと話すたびにいつも思っていた。




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