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アリエルとアリル  作者: 第三者臨海


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06 仲良くできない



 その後も、いくつかの授業が行われたが最後の授業には、アリルが戻ってきていた。


 家に帰ったと思われたアリルだが、心配している両親を馬車の中でなだめた後、授業に出るため学園にもどってきていた。


 アリエルはその授業でも教師に質問されたが、これも運よく知っている事だったため、トラブルなく切り抜けた。


 途中、エイガスが飛行機の折り紙を作って、アリエルに質問の答えを教えようとしていたが、首を振って阻止した。




 授業が終わった後、席を立とうとするとアリルが話しかけてきた。


「アリエル、少し話があるんだけど」


 アリルは友好的な笑みを浮かべているが、アリエルはそれが演技だと知っている。


 アリエルはアリルを無視してその場から去ろうとしたが、生徒の一人が行く手をふさいだ。


 アリルの友人である女子生徒の一人だ。


 アリエルは、強引に退かしたり、避けようとするのは面倒になると判断した。


 彼女はうんざりした表情で立ち去るのを諦め、アリルを見る。


 アリルは、アリエルの前に立ちはだかった生徒に「そんなことしてはだめよ」と注意する。


 しかしそれが言葉だけで、気持ちの伴わないものだった。


「早く帰りたいのだけど、何の用かしら?」


 アリエルはうんざりした表情で口を開く。


 するとアリルは、申し訳なさそうな顔をして「ごめんなさい。何か用事があったんでしょう。後にする?」と言った。


 選択肢を潰された状態であるアリエルは、白々しく心配げな顔を見せるアリルに物申す事なく、眉間に皺を寄せながら「別にいいわ」と言い、「それで?」と先を促す。


 アリエルの言葉を聞いたアリルの取り巻き立ちが、見る見るうちに剣呑な表情になっていく。


 アリルにとっての(自称)友人達の変化を知ってか知らずか、呑気な声が続く。


「実は、カイラス先生に話しがあって。アリエルはあの方と親しいでしょう?」

「親しい?」


 アリルが頬を染めながら、指をもじもじとさせた。

 アリエルは脳裏に該当の人物を思い浮かべる。


 カイラス・ダニィはこの学園に勤める教師の一人だ。


 薄緑の髪に、深緑の瞳を持つ男性である。


 非常に痩せていて、見る者に枯れ木の様な印象を与える体格だった。


 そんな彼は変わりもので、三度の飯より実験好きな人間である。


 ご飯を食べたり風呂に入る時間があるなら、新しい魔法を開発すると豪語するくらいだ。


 そんな変人であったため、学生間のパワーバランスや噂などには興味がなく、アリエルにも他の生徒と同じように平等に接する人間だった。


 特に性格が悪いわけでもなく、私腹を肥やすわけでもないため、アリエルにとっては比較的付き合いやすい人間であるが、だからといって親しく話しかけたりはしていなかった。


 アリルのお気に入りだとしても、嫉妬されるような関係ではないと、アリエルは考えている。


 アリエルが首を傾げる中、アリルは勝手に話を続けていく。


「だってこの間、仲良く二人で談笑していたのじゃない? シャナ様が見たら嫉妬しちゃうなって思いながら、見ていたんだから」


 そんな出来事は存在しなかったが、アリエルの言葉は嘘であっても、真実として扱われる。


 その言葉を聞いたアリエルは、アリルの狙いを悟った。


 婚約者がいるにも関わらず色目を使った女として、アリエルに関する噂を広めたいのだろうと考える。


 特にカイラスと親しくしたいというわけではなく、それは純粋にアリエルに対しての嫌がらせだった。


 事実、アリルの取り巻きたちは蔑んだ目でアリエルを見る。


「私、カイラス様が落としたハンカチを返したいの、今どこにいるか知ってる? 仲良しのアリエルなら分かるでしょ?」


 アリエルがここで「カイラスとは全然仲良くなんてない」などと言ったら、「白々しい」とアリルの(自称)友人達に罵られるだけだと思った。


 だから、アリエルは「他の教師から渡してもらえば良いじゃない」と言う。


 アリルは頬を膨らませながら「それはそうだけど」と続ける。


「こういうのって直接渡したいじゃない。他の先生を信用していないわけじゃないけど、途中でなくなったりしたら大変だし」

「そう。でも残念ね。あの人のスケジュールなんて把握してるわけないから、どこにいるかなんて知らないわ。力になれなくてごめんなさい」


 アリエルは言葉だけで謝って、今度こそその場を去った。




 アリエルは、苛々した気持ちで校門を出て、徒歩で歩いていく。


 他の生徒達は馬車に乗って移動していくが、アリエルは今日も徒歩だった。


 そんなアリエルに声をかけてくるのは、バルバトスだった。


 イケメンとして目立つ彼は、声も大きく、身振り手振りも激しいため、人目を引く要素に事欠かない。


 今も、周囲にいる者達は視線を向けてくる。


「おい、アリエル。聞いたぞ。さっき教室でアリルにつっかかったんだってな! お前とアリルは姉妹なんだだろ? 仲良くできねぇのかよ」


 アリエルはうんざりした表情になったが、視線を合わせないようにして無言で足を進めた。


 しかしバルバトスはアリエルの横に並び立って、一緒に歩く。


「おいってば、俺の言葉聞こえてるんだろ! 無視すんな!」


 これ以上叫ばれると目立つため、アリエルは渋々立ち止まって振り返った。


「それはそれは申し訳ありませんでした。次からは仲良くできるように努力しますので、これで失礼させてもらいます」


 話をさっさと終わらせたい一心で心にもない謝罪をしたが、相手に見抜かれた。


「いや、絶対嘘だろ。そんな棒読み」


 突っ込まれたアリエルは立ち止まらず、歩き続ける。


 アリエルは、(今のを見抜けるくらいの知恵はあるのね、脳筋なのに)と心の中だけで思った。


「なあ、なんでお前らそんな仲悪いんだよ。年上ってのは年下を守るもんだろ? 家族なのに、仲良くできねぇってのが理解できねぇよ」


 バルバトスは兄弟の多い家庭で育ったため、いがみ合う姉妹と言うものが信じられなかった。


 だからたまにこのようにして、アリエルに仲良くしろと説教してくるのだ。


 アリエルは、はぁとため息をつきながら、口を開く。


「親しき中にも礼儀ありという言葉を知っていますか? 家族だって、愛想がつきる事はあるんですよ」

「その言い方、まるでアリルが悪いみたいな言い方じゃねぇか。お前がアリルを虐めてるんだろ?」


 咎めるような感情と不可解そうな視線をバルバトスから受け取ったアリエルは、ため息を吐かずに飲み込む。


 その代わりに、バルバトスに告げる言葉があった。


「あなたはもう少し人の言葉を疑うところを努力した方が良いわね」

「あ?」


 それは想像し得なかった言葉だったため、バルバトスはその場で硬直し、足を止める。


 百個以上の疑問符を頭に浮かべていそうなバルバトスが硬直していると、彼の横を通った馬車から挨拶の言葉が聞こえてきた。


「おーい、バルバトス。何やってるんだ。今日俺の家に来て、遊ばないか?」


 相手は、バルバトスの知り合いだろう。

 彼がそれに応えている間に、アリエルはさっさとその場から離れたのだった。




 そんなこんなで学校の時間が終わった後。

 道端を歩いていたアリエルの目の前で、シャナの馬車が止まった。


 それは、アリエルのためにとシャナが寄こしたものだった。


 馬車から出てきた、使用人の男性がアリエルに話しかけてくる。


 相手は六十代ほどの年齢の男性だ。

 愛用している帽子に珍しい青い花を挿しているのがトレードマークだが、日によって紫になったり、水色になったりしている。


 名前はマーカス・アドバン。


 茶色の髪に、少し白髪が混じっている。


 落ち着いた黒色の瞳が、静かにアリエルを見つめる。


 マーカスは、落ちこぼれであるアリエルにも丁寧な態度で接する人間だった。


 アリエルが落ちこぼれであるという話は社交界でも有名であるが、シャナや彼に使える者達は、気温的にアリエルに対して丁寧に接する。


「アリエル様、お疲れさまでした。学園で事件が起きたというお話を耳にしたので、シャナ様が、馬車を用意しました。お屋敷までお送りいたします。今日は大変でしたでしょう」

「婚約者といっても、そこまでしてもらうのは……」

「どうか私達に仕事をこなす機会を頂けませんか」


 他人の世話になるのは抵抗感があったが、そこまで言われると断る理由がなくなるため、アリエルはありがたくその好意をうけとることにした。




 家に着いたアリエルは、マーカスにお礼を言って見送る。

 マーカスの馬車が見えなくなってから、家に向かって歩き出した。


 アリエルは屋敷に入るが、出迎えの人間はいない。


 通りかかった使用人がアリエルの姿に気づくが、一瞥しただけの反応だった。

 それはアリエルにとって珍しい事ではなく、いつも通りの光景だった。


 アリエルは、廊下を歩いて自分の部屋へと向かう。

 そこまでに、すれ違う使用人たちは何人かいたが、誰もアリエルに話しかけようとはしなかった。


 無言で自分の部屋にたどり着いたアリエルは、服を着替える。


 そして、屋敷の裏手の目立たない場所へと移動した。


 それは魔法の訓練をするためだ。




 雑草が生い茂っている屋敷の裏手に移動したアリエルは、魔法を行使する。


 しかし、その威力は大した事がなかった。


 炎の魔法を行使すればマッチの火よりも小さな火にしかならない。


 水の魔法を行使すれば、雨粒よりも小さな水滴にしかならなかった。


 指の腹に申し訳なさそうに出現した水球を見た後、アリエルは適当に吹くで手をぬぐった。

 

 この世界の魔法はざっと、火、土、水、雷、氷に分類される。


 これらに分類されない珍しい魔法もあるが、おおよそはこのような五つにわけられる。


 アリルは、この中のすべての魔法をつかえた。


 このような魔法が使えるのは貴族だけだ。


 平民で使える人も一応いるが、落ちぶれた貴族が先祖にいたり、貴族に手を出された使用人の子供だったりする。




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