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アリエルとアリル  作者: 第三者臨海


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04 落ちこぼれの姉は怪我の手当て



 怪我をしているアリエルは、目立っていた。


 学園の廊下を歩くが、すれ違う生徒達が視線を向ける。


 たまに教師が、義務として面倒臭そうに声をかけてくるが、アリエルは無視した。


 アリエルにとって、上っ面だけの心配は不快だったからだ。


 心のない親切をされるよりはまだ無関心でいられる方がマシだと思っていた。


 それは昔、友達だった少女を失ってから思うようになった事だ。


 アリエルの脳裏に、他の少女と共に陰口を叩いていた「友達だった少女」の姿が浮かんだ。


 アリルと対立するようになってからすぐ、7歳だった頃に、最後の友達を失った。


「私はずっとアリエルちゃんの友達だよ」

 

 そう言っていたが、陰ではアリエルの悪口を言っていたのだ。


 それからはアリエルは、他人と距離を置くようになっていた。


 過去の事を思い返しながら学園の廊下を歩いていると、向かいから歩いてくる生徒がいた。


 その生徒は騒動を聞きつけて、中庭へ野次馬しようとしているのだった。


 生徒達がアリエルの存在に気付く。


「あら、アリエルさんじゃないの? 落ちこぼれがこんなところで何してるのかしら」

「ちょっと、怪我してるじゃない。まさか、騒動ってアリエルさんが起こしたの?」

「気になってきてみて損した。こんなお姉さんが家族だなんて、アリルさんは可哀想ね」


 アリエルが自身の怪我の状態を見ると、先ほど見た時よりもさらに血が制服を濡らしていた。


 振り返ると、廊下に血痕が点々と続いている。


 アリエルが傷口を強めにおさえると、血の流失がとまったが、少しだけクラクラした。


 真っ赤な血を見た事で、その場に倒れそうになったが、ふんばる。


 ここで倒れたら、目の前の生徒達にどんな悪戯をされるか分からないからだ。


 アリエルは彼女達に言い返す事なく、その場から歩き去る。


 女子生徒達は背後でなおも何かを言っていたが、アリエルにとってはどうでも良い事だった。


 そのまま保健室へ向かうと、不審者の手当てをしている者達の邪魔になり、彼らもアリエルを邪魔に思う事は明白だ。


 そのため、アリエルは旧校舎の保健室へと向かう。


 ビジョンスター学園の敷地には、本校舎とは別に今は使われなくなった旧校舎がある。


 老朽化で新しい建物が建てられたが、つい数年前までは普通に使用されていた。


 そのため、アリエルは何かあった時に旧校舎の保健室を使用していたのだ。


 それだけでなく、人気のない旧校舎は何かと居場所のないアリエルが時間を潰すのにぴったりの場所だっため、日ごろからうろついている場所だった。


 アリエルは旧校舎へ向かう。


 今使用している校舎よりも、ほんの少しさびれた校舎の中へ入ったアリエルは、迷いなく目的地へ。


 廊下はさすがにところどころ蜘蛛の巣がはっていたり、埃が積もっていたが、目に見えてボロボロになっていたり、汚れたりするようなところはなかった。


 運び出す過程で何か予定でも変わったのか、置き去りにされたままの荷物の箱を横目に見ながら、後者の奥へ足を進めたアリエルは、保健室へとたどり着く。


 アリエルは扉を開いて、室内を進んでいく。


 白を基調でまとめられたその部屋には、高級感を感じさせるために、ところどころ邪魔にならないように飾りが施されている。


 高級な鉱物を使った絵具で書かれた画が、壁に、天井に描かれていた。


 そんな部屋の広さは十分にあり、ちょっとした民家三つ分はある。


 旧校舎でも、貴族のご令嬢やご子息を預かる学び舎として、相応の設備が揃っていた。


 大抵は新しい校舎に運び出されたが、まだ残っているものもある。


 保健室に並んでいるベッドは三十ほどで、三つほどベッドが使用されていた。

 それらのベッドのカーテンが閉められていて、内部は見えない。


 全部、中身入りだ。


 病弱なご令嬢やご子息が、学園在籍という箔をつけるために、登校だけしているのだ。


 彼らの両親が自分本位な理由で、本来なら勉学に励む事のできない者も送りつけていたのだった。


 アリエルはそれらのカーテンの閉まっているベッドに視線を向けずに、応急処置を行うスペースへ。


 壁にそっていくつもの棚が並んでいるが、アリエルは迷いなく、歩みを進める。


 棚の一つを開けて、勝手に包帯や消毒液を拝借した。


 実態はどうあれ使用してる者がいるならば、急病や怪我に備えないわけにはいかない。


 そのため応急手当品が一通りそろっていたのが幸いだった。


 室内にある椅子に座って、ハンカチをとり、服装をまくりあげ、患部を確認。


 そこにはナイフで刺突されてついた怪我があった。


 出血はしているが、傷は浅い。


 アリエルは、動機がするのを自覚しながら怪我の手当てを進める。


 自覚はしていないが、呼吸が荒くなり、脂汗が額に浮かぶ。


 薬物を使用してた不審者のナイフは馬鹿にはできない。


 アリエルは目をそらしたい気持ちを抑えて、慎重に怪我の状態を見る。


 傷口が特に変色していたり、おかしなことになっていない事を確認してから、消毒液をかける。


 アリエルは顔をしかめた。


 患部を消毒した後、アリエルはとある物をとりだす。


 それは小さな水晶がはまった魔道具だ。


 砂時計の形をしたそれは、アリエルの婚約者からもらった魔道具で、怪我を治してくれるものである。


 魔道具とは魔法の効果を発揮する便利な道具だ。


 特別な技術で作られた高級品であるため、誰でも持てるものではなかった。


 そんな魔道具を渡したのは、アリエルの婚約者だ。


 名前はシャナ・ホムラン。

 五歳年上の二十歳の男性である。


 リムスターの辺境の領地を統治している。


 婚約者は変人として有名であったが、実の両親のようにアリエルを軽んじたり、アリルのように害したりはしなかった。


 特別な好意は抱いていないが、敵意もない。


 しかし、どうでも良い第三者でもなく、相手からはむしろ親切にされる事があるため、無下にはできない他人。


 アリエルにとって婚約者は、そんな相手だった。


 家に居場所がないアリエルとしては、嫁いだ後は、互いの邪魔にならない程度に生活し、自分にできる事があればシャナの仕事を協力するという契約を結んでいる。


 愛情のない契約だけが存在する、将来の結婚相手だ。


 シャナについて巡らせていた思考を止めたアリエルは、傷口にその魔道具を近づける。


 婚約者から聞いていた通りに、魔道具を操作すると、魔道具が光り始めた。


 すると、傷口が見る見るうちに癒えていったのだった。


 八割ほど傷口が癒えたのを見たアリエルは、包帯を巻いて服を着替えた。




 手当が終わった頃を見計らって、カーテンが一つ空いた。


 ベッドで眠っていたはずの女子生徒が目覚めたのだ。


 本来なら起きているのも苦痛のはずのその少女は、不治の病を患っている。


 どこの家の令嬢なのかアリエルは知らないが、家族に見放され、休みの日までここにいた。


 その少女がアリエルの怪我を見て話し掛ける。


「あの、大丈夫……ですか?」

「平気よ。ちょっと怪我しただけだから」

「そう……ですか。今日は先生は来ないみたいです」

「ええ、知っているわ」


 一応生徒がいるのだから、保険医はこの旧校舎の教室にも来る。

 だが、その頻度と滞在時間は褒められたものではない。


 一日五分もいれば良い方で、普段は二、三日に一度、数分しか滞在しない。


「私の事は気にしないで」

「はい」


 彼女は、アリエルがちょくちょくこの旧校舎の保健室に来るものだから、同じ病弱認定していたのだった。


 あえて訂正する事でもないため、アリエルはそのままの認識状態で付き合いを続けている。


 その少女の体調的に長時間話す事もできないため、それで良いと考えていたからだ。


 心配そうな女子生徒は、再びカーテンを閉める。


 寝息が聞こえてきたのを聞いて、アリエルは部屋を去ろうとした。


 そうして出口から出たところで、友人の男性と顔を合わせた。




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