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アリエルとアリル  作者: 第三者臨海


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03 愛される妹は無傷で無事



 どうのようにこの事態を収拾つければ良いのかと、アリエルは悩む。


 そこに、警備員と教師が到着する。


「今すぐ生徒を離しなさい。今ならまだ罪は軽いぞ!」

「うるせぇ、邪魔をするな!」


 彼等が不審者に話しかけるが、相手は聞く耳をもたなかった。


 アリルは不審者に告げる。


「私、あなたの事なんて知りません。お願い、誰か助けて」


 涙を浮かべるその様子は、普通なら庇護欲を掻き立てる姿だ。


 思わずといった風に、アリルを守るためにと正義感に駆られた生徒達が、飛び出していこうとした。


 それを、教師や警備員が必死で制止する。


 しばらく彼らは混乱していたが、突然状況が変化する。


 いきなり不審者が怒り狂ったからだ。


 生徒達は確かに騒がしくしていたが、それは今に始まった事ではない。


 不審者が怒りだした事には脈絡がなかった。


「アリル、知っているぞ! お前の本性! 俺の事はやっぱりどうでも良いんだな! 利用価値がなくなったら、会ってもくれないんだ!」


 情緒不安定であるのか、顔を赤くして怒鳴る彼は、時折り涙を流したり、笑顔を浮かべたりしている。


「何を言ってるんですか! 私は本当にあなたの事なんて知りません! お願い離して!」


 騒ぐ不審者の様子は普通ではなかった。


 喋っている内に興奮しすぎたのだ。


 透明だった涙は血の色に染まり、口から大量の泡を吹き始めた。


 その様子は誰がどうみても以上だった。


 生徒達は不審者が薬物を使用していると考えて、ひそひそ声で話し始める。


「お、おいあれ。ヤバい薬でもやってるんじゃ」

「普通じゃないわよ。あんなの」

「そういえば最近、王都で変な薬が流行ってるって話聞いたぞ」


 先ほどより騒がしくなくなったのは、人が狂う様を見せつけられたからだった。




 アリエルは、薬の影響で不審者の思考が読めなかった。


 これまでじっと不審者の様子を観察していたアリエルは考える。


 アリエルも最近、おかしな薬が流行っていると、とある情報通の男子生徒から聞いていた。


 そこでアリエルは、「もしかしたら、薬物で正常な判断ができないのかもしれないわね」と考える。


 その場合、説得は無意味だろうと結論付けた。


 駆け付けた教師や警備員が不審者を説得するために話しかけているが、相手は聞く耳をもたない。


 アリエルが思考を巡らせている間に、再び状況が変化する。


 不審者の男が体を痙攣させはじめた。

 ナイフも小刻みに震えるため、アリルの喉に傷がつく。

 アリルの細い喉に赤い血が流れた。


 その姿を見て、生徒達がざわめいた。

 悲鳴を上げてその場に倒れる者もいる。


 アリエルは不審者が使用した薬について考える。


「薬の種類によって対処法は異なる。今王都で流行している薬はいくつかあるけれど……」


 アリエルには薬草の知識が備わっていた。


 怪我をした時に自分でで当てするためだ。


 アリルと対立しているアリエルは、妹や使用人の悪戯のせいで怪我をする事がある。


 それでなくても食事にありつけない事が多く、狩りを行って怪我をする事が少なくないため、薬草の知識が自然と身に着いたのだ。


 そんなアリエルは、頭の中にいくつかの薬とその応急処置ができる薬草を思い描いた。


 王都で流行している薬の中、一番副作用が出やすいのはサマーズという薬草で作ったサマー薬だ。


 一度使うと二、三時間ことに薬を使わないと、症状が出てしまう。


 サマーズを使用している人間の特徴は、初めに体が震えて、紫色の胃液を吐く点。

 

 アリエル目の前で、男は紫の胃液を吐いて、苦しそうにうめいた。


 私用した薬物が判明したため、アリエルは治療について考える。


 症状を緩和させるために、この学校にある薬草室で薬草をもってくる必要があった。


「確か薬草室に行けば何とかなるかもしれないわね」


 この学校にある薬草室には、いくつもの薬草が揃っている。

 サマーズの症状を和らげる薬草もあるはずだった。


 ウィンターという薬草を煎じて、お湯と合わせて飲ませるのが良い方法だ。


 しかし、この知識は一般的なものではない。

 そのためこれらの情報を口に出せば、アリエルがサマーズを使っていると怪しまれる恐れがあった。


 調査されてもどんな反応も出ないが、人から疑れるのはアリエルにとって面倒な事だった。


 だからアリエルは、色々考えた末、この情報を他人には何も言わない事を選択した。


 他人の、それも不審者のために自分の身を危険にさらそうとは思えなかったからだ。


 考え事をしている間に状況が動いた。


「おい、あの不審者やばいぞ」

「このままだとアリルさんが危険だわ」

「誰か助けられないの?」


 普通の生徒達に交ざって状況を見守っていたイケメン三人衆は、ナイフの刃先で喉を傷つけたアリルを見て、我慢の限界が近づいていた。


 バルバトスを抑えきれなくなったジョシュアが疲弊している。


 そんな中、アリルが不審者の注意を引こうとした。


「ねぇ、もしかして薬物中毒者……? あなた、何か薬をやっているんですか。病院で治療を受けないと。そのままだとあなたの体に良くない影響が……」


 アリルは心配そうな表情で不審者に話しかける。


 しかし、その行動は逆効果だった。


 アリルの言葉を聞いた不審者は激高した。


「白々しい言葉をかけるな! 誰のせいだと思ってるんだ! お前のせいだろうが! 他人事みたいに言いやがって!」


 怒りで顔を真っ赤にした不審者は、アリルに向かってナイフを振り上げる。


「きゃあああっ!」


 アリルは悲鳴を上げてその場に硬直するが、それは救出のチャンスでもあった。


 アリルの喉からナイフが離れる。


「今だ!」

「すぐに助けます!」

「そこから動くなよアリル!」


 状況を見ていたイケメン三人衆……バルバトス、ジョシュア、ダイアがそれぞれ動きだした。


 まず、バルバトスが突進して不審者を吹き飛ばす。


 そして、ジョシュアが水の魔法を使い、地面に転がった不審者を拘束した。


 水でできた球が不審者を閉じ込め続ける。


 更に、ダイヤが雷の魔法を放って、水球に閉じ込められた不審者を痺れさせ、気絶させた。


 彼らは数秒にも満たない時間で、完全に不審者を制圧したのだった。


 その鮮やかな手並みに、アリエルは心の中だけで彼らを賞賛する。


 バルバトスの突進に巻き込まれた影響で、不審者と同じく同じく地面に倒れていたアリルが起き上がった。


 不審者から無事に解放されたアリルはイケメン三人衆に駆け寄った。


 それを見て危険が去ったと判断した生徒達も、皆妹の元へ。


「私、とても怖かった! でも皆が助けてくれるって信じてたわ! 本当にありがとう!」


 アリルは、涙をこぼして笑顔を浮かべる。


 おびえつつも気丈にふるまうその姿は多くの人の胸を打つ。


 生徒達が歓声を上げ、教師や警備員もほっとした顔をする。


 イケメン三人衆がアリルに話しかける。


「お前が無事で良かった」

「ええ、怪我はないですか?」

「気分は悪くないか? ショックだっただろう?」


 イケメン三人衆に気遣われるアリルは、微笑みながら「あなた達こそけがはない?」と気遣う。


 生徒達だけでなく、その場に駆け付けた教師たちも妹の心配ばかり。


 目と鼻の先に不審者転がっているが、そのまま放置されていた。


 このまま放っておくと薬物の副作用で死にかねないため、早急に手当てを受けさせなければならない。


 それはアリエルが、不審者の生死を案じているという意味ではなかった。


 罪にふさわしい罰を受けてもらうために。

 そして、詳しい事情を事情聴取で明らかにするためだ。


 アリエルは、不審者に近づく。


 吐しゃ物などで窒息しないように、気道を確保した後、脈拍や呼吸の様子、顔色などを観察。


 動かしても大丈夫だと判断した。


 その後、アリルの近くにいる保険医に話しかける。

 しかし、保険医は「生徒の無事を確認する方が先だ」と言ったきり、アリエルの言葉を無視したのだった。




 アリエルがため息をついていると、ダイヤが話しかけてきた。


 アリエルが気が付かないうちに、アリルを心配する一団から抜けてきたのだった。


「不審者の様子はどうだ? 横になっているがこれは何か意味があるのか?」


 アリエルからは、責任ある立場という自覚が、ダイヤをほんの少しばかり冷静にさせているように見えた。


 アリエルはダイヤに応える。


「吐しゃ物で窒息する可能性があったので、体勢を変えさせてもらいました。あと、早く手当てしないと、この人死にかねませんよ。相当中毒が強いみたいですから」

「それはいけないな。保険医! こいつを運んでくれないか!?」


 アリエルが話しかけても無視だった保険医は、ダイアの言葉には反応して、アリルを囲う一団から飛んできた。


「これは早く処置しないといけませんね。分かりました。ですが、学園に侵入してきた不審者を保健室で手当てするとなると、保護者の方がなんと言うか」

「そこは、私が何とかする。罪を犯したとはいえ、裁きを受けるまでは我が国の民だ。なんとか診てやってほしい」

「ダイヤ様……。全力で対処いたします!」


 感極まった表情の保険医が警備員や教師の手を借りて不審者を運んでいく。


 その姿を見たアリエルは、これ以上面倒に巻き込まれたくなかったため、その場を去っていく。


「お前も手当てを受けたらどうだ? 怪我を……」


 ダイアはアリエルが怪我をしている事に気づいていた。


 だから、怪我の手当てをさせようとしたのだが、アリエルはすでのその場にいない。


 ダイアがアリエルを案じる言葉は、誰に聞かれる事なく、空中に消えていった。




 地面に倒れた不審者……ロイドは、朦朧とする意識の中で、これまでの人生を振り返っていた。


 ロイドはこれまでの50年の人生を、ぱっとしないものだと考えている。


 そんな人生の中、唯一胸を躍らせたのは、アリルと過ごす時間だった。


 王都の花屋でお金が足りなくて困っていたところを助けたのがきっかけだ。


 それから、アリルと話すようになった。


 ロイドはアリルに恋をしていたが、相手との年齢差を考えて、気持ちを胸に秘めるのみにしていた。


 だが、アリルが自分への好意を口にしたため、段々と本気になっていったのだ。


 それからのロイドは、アリルの気持ちを薄れさせないために、何でもした。


 アリルがねだれば、欲しい物を何でも買い与えた。


 そのせいで、借金まみれになり、ストレスから薬物に手を出すようになってしまった。


 それでも、アリルに見切りをつけられるだけなら、学園に侵入し事件を起こすなどという暴挙にはでなかった。


 薬物で朦朧とした意識の中、家で倒れていたロイドにアリルが暴言を吐かなければ。


 冷たい瞳で「役立たず」と罵った彼女を見て、ロイドは自分が利用されていただけだったと気づいたのだ。


 そこからは、薬物の使用が多くなり、気が付いたら学園の中庭で倒れている始末だ。


 ロイドは朦朧とする意識の中で、後悔する。


 アリルと出会わなければ良かったと。



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