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アリエルとアリル  作者: 第三者臨海


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19/21

18 襲撃者



 クララが解雇されてから数週間が経過した。


 アリエルはシャナの妻として扱われ、本邸にそこそこなじんでいた。


 邸宅に研究者達が多いのは不思議に思ったが、込み入ったことは追及しない事にしていた。


 しかし、ただ世話になるだけは心苦しいと思ったため、アリエルは彼らの手伝いをする事に決めた。


 基本的にはお茶を入れたり、資料を整理したり、小道具を用意・運搬するだけだったが、研究者達には有難く思われた。


 いずれ、夫人としてホムラン邸の帳簿の管理なども任される事になるが、それまではこれらの手伝いを続けるつもりだった。


 そんなふれあいの中、カイラスと再会したのは思わぬ出来事だった。


 カイラスは父親のサイーズと共に、何らかの研究に夢中になっているようだった。


 指名手配されている彼が邸宅で働いている事に思うところはあったが、アリエルは彼についても何も聞かなかった。




 夜が深まる頃。


 リムスターの隣にある国、コスモクラウンの中心部。


 とある屋敷の中でアリルは、彼女のために用意された広い部屋のベッドに腰掛けていた。


 アリルを家に招き入れた人物の名前はハワード。


 国で上から数えた方が早い富豪の息子だった。


 ハワードの父親は、商人として有能であり、多方面に顔が利く。


 そのため彼の息子は、アリルに便利な人物として目をつけられたのだった。


 アリルが望まぬ結婚を強いられていると手紙で知った彼は、息子がアリルに心奪われている事を考え、アリルを助けることに決めた。


 そうして、アリルを自分の家でかくまっているのが現状である。


 そんなハワードのおかげでアリルは、不自由のない贅沢な生活をしていた。


 部屋の中は、豪華な家具だらけで、服もキラキラとした宝飾品がふんだんにあしらわれている。


 家具の上には、流行りの小物や芸術品が置いてあった。


 そんな部屋の中で過ごしていた、アリルは窓を開けた


 窓枠に、鳩が止まっていたからだ。


 その鳩の足には手紙がある。


 手紙を開いて読んだアリル眉間に皺を寄せて、それを握りつぶした。


「まさか失敗するなんて」


 険しい表情になるが、部屋の外から使用人に話しかけられて、表情を変える。


 にこやかな笑顔になったアリルは、手紙を細かく破った後、返事をしながら、扉に向かって歩いた。


 対応に出た使用人が困った顔になって、「お客様がいらしているのですが」と言う。


「男性の方が、アリル様に会わせろと」


 その男性は、アリルとともに国境を越えた人物だった。


 しかしアリルにとってもう用済みであったため、捨てられたのだ。


 アリルは不安そうな顔を作った。


「私、そんな人なんて知らないわ。怖いわね、早く追い払って」

「わかりました」


 使用人が出て行ったあと、アリルは真顔になる。


 彼女の頭の中には、自分が利用した男の姿などどこにもなかった。


 アリエルの事でいっぱいになっていたからだ。





 国の中央の王宮内。


 ダイアは執務室で頭を抱えていた。


 それは、アリルに篭絡された第一王子が暴走して金遣いが荒くなっているからだ。


 学園を卒業した後、アリルは結婚相手の元に嫁いだ。


 しかし、アリルは大人しくしていなかったらしく、ちょくちょくその家を抜け出しては色々な男性と会っていたのだ。


 その対象の一人が第一王子だった。


 兄の素行はもともと悪かったが、アリルと出会ってからそれは悪化する一方で。


 国の財政を圧迫し続けている。


 ダイアは今まで仮の姿を用いてアリルの事を調査してきた。


 それは、アリルが女神の転生体だという事実を知っているためだ。


 昔不思議な石に触れたとき、古の時代の出来事が頭の中に流れ込んできた。


 そして、その時代に生きていた女神達がどんな風に転生を繰り返してきたのかも、記憶に刻まれたのだ。


 それを知ったダイアは、女神の一人が悪さをしないように、今日まで秘密裏に動いてきた。


 しかし、女神を倒すために、命の石版を壊す事が必要だと判明したものの、探索が難航。


 行き詰まっていたのだ。


 ため息を吐くダイアは、学園の友人の顔を思い出す。


 たまにアプローチしたものの、まったく手ごたえがなく、友達止まりだった女性の顔だ。


 心を射止める、特別な男性にはなれなかったが、友人として彼女を助ける力になりたいと思っていた。







 一方、ホムランの本邸宅にて。


 アリエルは本邸宅の私室で眠っていた。


 時刻は日付を超える頃。


 シャナは執務室で執務をこなしながら船を漕ぎ始め、チータは使用人用の部屋で眠っている頃だった。


 マーカスは、屋敷の内部を歩いて見回っている。


 マーカスは使用人の中でもそこそこの立場にあるが、屋敷内部の事を把握するため、定期的にこうして見回りをしていたのだ。


 そんなマーカスは異変を察知する。


 開けた覚えのない窓が開いていたからだ。


 わずかに数センチだけ開いていた窓を見て、マーカスは周囲を注意深く観察する。


 すると、床に土で汚れた足跡が付いている事に気づいた。


 マーカスははっとした様子で、自分が持っている……警報音を鳴らす魔道具を使用した。




 同じ屋敷の中、アリエルが眠っている部屋に音もなく忍び込む人間がいた。


 足音を殺すその人物は、全身を黒い布で覆っているため、顔が見えない。


 怪しい人物はベッドに近づき、自身が持っていたナイフを振りかぶる。


 しかしその寸前、どこかでけたたましい音が鳴り響いた。


 ナイフを振り下ろそうとした不審者の動きが一瞬止まる。


 その数秒で起床したアリエルは、襲われそうになっている状況に気づいた。


 それからのアリエルの動きは、寝起きとは思わないほどキビキビしたものだ。


 それは、実家で散々深夜の時間帯にアリルや使用人に悪戯されていた影響だった。


 アリエルは、自らを襲う襲撃者のナイフを避ける。


 襲撃者のナイフがベッドを引き裂くが、アリエルは飛び起きて、その場から離れたのだ。


 アリエルは、部屋の壁に飾ってある装飾品を手に取り、投げつける。


 その後で、怯んだ襲撃者に近寄り、腹を殴って気絶させたのだった。


 物音を聞いた使用人達が駆けつけて、襲撃者の姿を見て驚く。


 アリエルは遅れてやってきたシャナやマーカス、チータに、状況を説明したのだった。




 襲撃者を尋問した結果、その人物の口からアリルの名前が出た。


 詳細を知ったのは次の日だった。


 シャナが翌朝、アリエルの部屋にやってきて、詳細を報告した。


「君の妹は、家族の命を狙うほど、性格が終わっているらしいな」

「正直ここまでやるとは思いませんでした、迷惑をかけてしまってすみません」

「君が謝る事じゃない、悪いのはアリルだろう?」


 尋問の結果、アリルからアリエルの殺害を依頼されたと襲撃者は言ったらしい。


 襲撃犯は、アリルの事を「あの方、女神」と発言している。


 アリエルは、襲撃者がアリルの事をかなり信望している事に若干恐怖する。


 人を操る事にかけて、アリルの上に立つものなどいないのではないかと彼女は思った。


「これからも似たような事が起こるかもしれない。どうする?」


 アリルは目標を一度決めたら撤回しない人間だ。


 その事実をアリエルは身を持って学んでいた。


 だから、次もあると考えて、対策を練らなければならない。


「とりあえず護衛を、腕の立つものを雇う必要がありますね。ちょっとした情報屋からの情報で、この辺りの腕の立つ人間を知ってるので、お声がけしようかと思っています」


 それは二か月の馬車旅で、レオンと再会した時に得た情報だ。


 シャナは興味深そうに耳を傾ける。


「ほう、それは?」


 アリルが口にした人物名と組織名にシャナが驚く。


「深き闇のゼイード。シャナ様はご存じでしょうか?」

「それは……裏社会の人間ではないか?」


 アリートの名前はシャナも知っているものだった。




 うすぐらい路地の中。


 血だまりの上に立つ二十代ほどの男性はくしゃみをした。


 彼の名前はゼイード・カート。


 灰と黒が混ざったまだらな髪の色が特徴で、瞳は左右で色が違い、右は黒、左が灰色だ。


 元々は名家の人間だったが、血を好む性格を恐れ、当主が彼を捨てる決断を下したのだった。


 五歳にして孤児になった彼は、裏社会の人間に拾われ、生を繋いだ。


 ゼイ―ドには、特に目標や夢があるわけではないが、育ててくれた者達のために恩義は返していくべきだという考えがある。


 そのため、裏社会に身を置き続けていた。


「へっくしょい。うう、さむっ、今夜は冷えるな」


 腕をさする彼は、つい数分前に暗殺をしたばかりだ。


 彼の手にかかった被害者の男が、地面に倒れている。


 驚愕の顔のまま息絶えた被害者は、自らの死から逃れようともがく暇もなく、黄泉の国へと旅立った。


 死はもたらされたが、これまでやってきたことを考えれば、苦しまなかったことは、彼にとっての幸運だった。


 地面に倒れた男は複数の女性を持て遊び、搾取し、罪を隠蔽してきた。


 天狗になり、さらに罪を犯そうとする男は、誰がどう見ても改心する余地などなかったからだ。


 今日ここで命を落とさなければ、自らがもてあそんだ女たちに、凄惨な復讐をされただろう事は明白だった。


 しかし瞬間的菜な死は、罪人や悪人に対する思いやりなどではない。


「悪人に慈悲をっていうよりは、予想外の状況をなくすためにって感じだけどな」


 ただ仕事を完全に、確実にこなすために気を使った結果だった。


 死体になった男をもう一度確認した後、暗殺者は背を向ける。


 その人物は、夜の暗闇で見通せない薄暗い裏路地を音もなく歩いていくのだった。




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