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アリエルとアリル  作者: 第三者臨海


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13/21

12 婚約者と束の間



 数時間後、学園の授業が終了する。


 アリルの件で一時中断していたが、次の授業は普通に再開していた。


 アリエルは事件にこれ以上関わりたくなかったため、何食わぬ顔で授業を受け続けた。


 平然とした顔で全ての授業を受け終わったアリエルは、学園を去る。


 しかし、学園の外にシャナが手配した馬車到着していた。


 この前とは違い、使用人の数が十人に増えていて、アリエルは引いた。


 明らかに目立っていたため、アリエルは知らないふりをして素通りしようかと思っていた。


 だが、マーカスが声をかけてきたため、諦める。


 マーカスが「お疲れ様でした。今日もお送りいたしますよ」と言う。


「あの、忙しいなら無理をしなくても」


 目立ちたくなかったという理由もあるが、形だけの婚約者のために、自分の時間を犠牲にする必要はないとアリエルは伝える。


 しかしマーカスは言った。


「いえ、仕事ですので。何もしないのにお給料だけを貰うわけにはいきません」


 気が引けたが、宗いわれて断れるようなアリエルではなかった。


 人の仕事を奪うわけにはいかないため、アリエルは渋々その好意を受け取る事にした。


「分かりました。よろしくお願いいたします」


 アリエルは他人にこんな風に接してもらった記憶があまりないので、少し戸惑う。


 馬車の乗り心地はかなり良い。

 前回も乗り心地は悪くなかったが、揺れがかなり少なくなり、座っている座席も柔らく心地が良かった。


 どこかの家の部屋にいると言われても気づかないくらいだった。


 アリエルが乗る度に馬車はどこかしら進化していた。


 一体この短期間で何をしたらこうなるのか、アリエルは少し不思議になった。


 アリエルは、この短期間にシャナが魔法使いに頼んで、改造してもらったとは知らなかった。




 馬車で運ばれている間、アリエルは一つ用事を思い出した。


 卒業までに、訪ねなければならない家があったのだ。


 自宅とは反対方向にあるため、徒歩で向かうのは大変だった。


 この際、もう少しマーカス達に甘えてみようと考える。


「少し寄り道しても良いですか? 方向が違うのですが」

「問題ありません。どちらに向かわれるのでしょうか?」


 アリエルがその場所を伝えると、マーカスは少し驚いた顔をした。






 数十分後。


 アリエルが立っていたのは、孤児院の前だ。


 小さな建物があり、その建物の前で数人の子供達が遊んでいた。


 子供達は、アリエルを見つけると、嬉しそうに駆け寄ってくる。


「あっ、アリエルのおねーちゃん!」

「おねーちゃんが来てる!」


 アリエルはすぐに子供達に囲まれた。


 アリエルは、数年前にこの孤児院の子供を助けたことがあった。


 川に落ちた子供を孤児院に送った後、壊れていた建物の修理を手伝ってから、今に至るまで交流が続いている。


 しかし、卒業後には気安く訪れる事ができなくなるため、挨拶しに来たのだ。


 子供達はそんな事も知らずに、次の予定を尋ねてくる。


「おねーちゃん、次はいつ来れるの?」

「もっと会いたい!」


 アリエルは困った顔で、言葉を濁す。


 そんなアリエルの訪問に気づいた従業員の男性が言葉をかける。


 平凡な顔をした、30代くらいの年齢の人物だ。


 坊主頭にした男性で、翡翠色の瞳を持っている。


 体格は一般より少し大きめだ。


「こらこら、困らせたら駄目だろう? もうすぐご飯だから、準備を手伝いなさい」


 するとお腹を空かせていたからか、子供達は渋々ながらも、施設の中へ入っていく。


「アリエル様、今日も子供達に顔を店に来てくださったんですね」

「ええ、もうすぐ会えなくなりますから」

「寂しくなりますね」


 卒業後、アリエルはシャナがいる領地へ向かう事が決まっている。

 その予定は、この施設で働く者達にも伝えていた。


「うちで働いてくだされば……なんて言ったら失礼になってしまいますよね。すみません。忘れてください」

「いえ、大丈夫です」


 人から求められる事の少ないアリエルには、その申し出はとても嬉しいものだった。


 しかし、アリエルは曲がりなりにも貴族の家の娘。


 アリエル自身が環境に適応できるかどうかではなく、周りの人間が自分を放っておかないと考えているため、平民に交じって生活するという選択肢は考えていなかった。


「短い間でしたが、楽しかったです。子供達によろしく伝えてください」

「わかりました。アリエル様もどうかお元気で」


 アリエルは別れの言葉を伝えて、孤児院を去った。




 馬車に乗ったアリエルは、今度こそ家に帰っていく。


 しかし、家の前に婚約者であるシャナが立っている事に驚いた。


 何度も手紙をもらってはいるが、本人と顔を会わせる事はまめだった。


 簡単に来れる距離ではないため、アリエルは自分の目を疑ってしまう。


 しかし、馬車から降りて近づくと、まぎれもない本物だと分かる。


「お忙しいでしょうに、こちらにお越しになられてもよろしいのですか?」


 遠回しにどうやって来たのか尋ねるが、シャナは応えなかった。


「少しこの辺りを歩かないか」


 本来なら、屋敷に招いて持て成すところだが、アリエルの両親はアリル贔屓だ。


 シャナにも失礼な言動をとる可能性があり、実際以前顔を会わせたときそうだったため、アリエルは彼の提案に頷いた。




 アリエルは、屋敷から少し離れた通りを並んで歩く。


 雑談をして、シャナが最近野良犬を保護していると聞いた。


 その犬をシャナは、伝書鳩ならぬ伝書犬として働かせていた。


 夕飯を食べていなかったため、シャナがレストランを見つけて、入る事にした。


「お腹がすいたな。何か食べようか」


 屋敷で食べられる夕食などたかが知れていたため、アリエルは内心嬉しく思ったが顔には出さない。


 庶民でもギリギリ利用できる、少し高めの店に入った二人は、思い思いの食べ物を注文した。


 シャナが頼んだのはビーフシチュー。


 アリエルが頼んだのはクリームシチューだった。


 二人は、それらを静かに口に運ぶ。


 先に食べ終えたのはシャナだが、特に何をするでもなく、アリエルが食べ終わるのをじっと待つ。


 やがてクリームシチューを食べ終わり、食後の飲み物を待つ時間で、やっとシャナが口を開いた。


「大丈夫だとは分かっているが、怪我はないか」

「私は大丈夫です」


 昼間も赤い犬を使って接していたため、シャナはアリエルに怪我がない事は分かっていた。


 昼間起こった不思議現象は、赤い犬に憑依する魔法だった。


「それはシャナ様も知っていますよね。先ほど説明してくださったように、あの赤い犬に憑依していらしたのですから」

「それでも、心配だったんだ」


 分かり切っている事を確かめる。


 アリエルにはその行動の意味が分からなかった。


「以前の事件の時も心配だった。だからこうして、転移魔法を開発して犬を送り込んだり、私自身もここまで来てしまった。迷惑だったらすまない」

「いえ、迷惑ではないですけど……」


 アリエルが困っているのを見て、シャナが話をかえる。


「前回に引き続き、大変だったな。君の妹はトラブルを集める体質なんじゃないだろうか」

「その言葉には大いに同意します」


 これまでアリエルの周りでは何度かトラブルが起こったが、それらの多くはアリルが原因だ。


 孤児院の件も、アリルが急に走り出して子供とぶつかった事が原因だったのだから。


 あの時のアリルは、珍しく「アリエルと一緒にお買い物がしたいの」と言ってきたため、雹でも振るのかとアリエルは思った。


 結局、人数合わせで景品をもらいたかったからだと知って、そんな事だろうと思ったが。


 過去の事を思い出していると、シャナが真面目な顔でアリエルに話しかける。


「アリルには気をつけろ。彼女は危険だ」


 それは異性を不用意に魅了したり、姉に嫌がらせをしたりするといった、些事のニュアンスではなかった。


「場合によっては国を揺るがしかねないかもしれない」


 その言葉を聞いたアリエルは、昼間の犯人たちの言動を思い出す。


 首を突っ込むべきではないとは思いつつも、何も知らないでいる事のリスクも無視できなかった。


「何か知っているんですか? 教えてください」


 シャナは、数秒悩む。


 その結果、この場で話す事ではないと判断したのか、忠告だけに留めた。


「君が私の元に嫁いできてくれたら、その時に改めて話そう。今はそんな気分にはならなかったようだ。卒業後、再び君に会える日を楽しみにしているよ」


 婚約者の事はいまいちよく分からないでいたが、想像していたよりはアリエルを良い方に思ってくれているのだろう。


 と、アリエルは推測する。


 卒業後の結婚生活について、少しだけ気持ちが明るくなった日だった。



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