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アリエルとアリル  作者: 第三者臨海


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09 レオンと闇の気配



「じゃあ最後に、とっておきの恋愛指南書を教えよう」


 といってレオンが懐から薄い本をアリエルに押し付けてきた。


 内容は素人がかいたもので、夜の営みについてのイロハが書かれている。


 アリエルは思わず、レオンに投げつけた。

 

 レオンは笑いながらこれをキャッチする。


 質の悪い悪戯だったとアリエルは判断するが、アリルの時のような気落ちにはならない。


 友人同士のやりとりとはこういったものなのだろうかと彼女は考えたが、長い間そういった付き合いと縁がなかったため、分からなかった。




 ひとしきり薄い本を投げ合ったところで話が変わる。


 レオンはシャナとの仲についてアリエルに尋ねる。


「婚約者とはどうよ。新天地での情報をお求めなら、調べてくるぜ」

「そうね。お願いしようかしら。お金もたまったし」

「了解」

 

 アリエルはたまに、時間がある時にあちこちで色々な店の手伝いをしている。

 その時に稼いだお金がたまったため、新しい依頼をするつもりだった。


 お金と依頼内容についてしばらく二人は話し合う。


「じゃあ、一週間後にまたここでな。あ、結婚式とかは調べなくてオッケー? 土地が違うと様式とかゼンゼン変わるらしいぜ」

「それはお金が足りないから無理よ」

「そうかい」


 レオンはお金以上の事は基本しないが、この時ばかりは頼んだこと以外の事まで調べていた。


 そのおかげで、アリエルはシャナのいる土地での結婚式のやり方に詳しくなったのだ。


 それは、現在から一週間後に知る事だった。


「卒業式が終わったら会えなくなるのが残念だよ。お前さんは定期的に依頼をよこしてくれる上客だからな」

「そう」


 メリットがあるから付き合っている仲ではあるが、これから二度と顔を見れないとなると、アリエルも少しは残念に思えた。




 レオンと別れた後、アリエルは授業に出るため、教室に戻る。


 その途中、今朝届いた手紙を思い返した。


 家を出た後、アリエルの目の前で立ち止まった野良犬が手紙をくわえていた。


 その犬がアリエルに見てほしいとばかりに手紙を差し出したので、少し驚いた。


 手紙に書かれていた名前がシャナであると分かった事で、(あの変人なら)と少し納得しかけたのは、それなりに相手の事を知るようになったからだろう。


 アリルが不審者に人質にされた後、マーカスが定期的にアリエルを馬車で送り迎えしてくれるようになった。


 その際にシャナの話を聞いたりするため、少しだけ詳しくなったのだ。


 シャナは普通とは異なる面を持つ天才で、魔道具の開発や女神の祝福と呪いの研究に力を入れているらしい。


 しかし、領地の事にもしっかりと気にかけているようで、評判はそれほどわるくないとマーカスから聞いた。


 婚約者が奇人であるのはどうしようもなかったようだが、悪人ではなくて良かったと現愛のアリエルが安心している所だった。


 ちなみに、手紙の中身はなんともない近況の内容だ。


 天気が良いとか、マーカスがどうとか、そのような話が綴られている。


 しかし、なぜ今日は犬が運んできたのだろうかと、アリエルは首を傾げながら廊下を歩いた。




 学園の中で授業が行われる午後の時間帯。


 レオンは授業をさぼって、敷地の外へと出ていた。


 嘘の体調不良を装い、保健室に向かった後、うまくして抜け出したのだ。


 旧校舎と違い、現在使われている校舎の保健室には、一応保険医が待機しているっが、お金や情報をちらつかせれば抜け出すのは容易だった。


 しかし、学生服のまま外をうろつくわけにはいかないため、人目につかない場所で服を着替える必要があった。


 そうまでして学園を抜け出すのは、先日起こった不審者の侵入事件を調べるためだ。


 その事件は、アリルに一方的な恨みを募らせたストーカーによる犯行、として表向きは処理されている。

 

 アリルから加害者への面識はなく、思い込みの激しい男が薬物によって暴走したと考えられていた。


 しかし、レオンは色々な伝手から入手した情報を考え、そうでないとみている。


 カイラスが王都の道端で銃弾を見つけたという話や、学園の外から何者かが狙撃しようとしたという情報を耳にしたレオンは、犯人か犯人に関する情報を得たいと考えていた。


 そうでなければ、おちおち安心して学園を歩けないからだ。


 レオンは身分や正体を隠してはいるが、隣国の王家の血を持っている。


 こちらの国では身内での争いで血が流れる事は少ないが、隣国では親族間での争いは度々起こっていた。


 その回数は、権力や国の頂点にいる立場の者ほど多い。


 そのため、レオンは絶対に安全な場所で十代の時間を過ごしたいと考え、こちらの国に来たのだ。


 だが、その貴重な時間が何者かによって邪魔されるとなれば、対策を講じずにはいられなかった。




 レオンはそういったわけで、貧民街へと足を向けた。


 貧しい者達があふれるその区画には汚臭が漂い、ごみが散乱している。


 だが、レオンは何度もこの区画へ足を踏み入れているため、慣れた様子で歩いていく。


 途中何度か、すれちがう人間がレオンの持ち物を盗もうとしてきたが、それらをかわしながら……。


 たまに道端に倒れて動かない人間がいるが、レオンにとってそれらは慣れた光景だった。


 怪我をしている者、病気で起きあがる気力がない者、空腹と飢えで余計なエネルギーを消費しないようにじっとしている者。


 貧しい人間といっても、様々な事情があるが、誰もが荒んだ目をしていた。


 学園で明日の事を語りながら、談笑する貴族の子息、ご令嬢とはまるで違った者達だ。


 自分に危害を加える者がいないだろうかと用心しながら歩いていくレオンは、とある店にたどり着く。


 そこは店とも呼べないような布を張っただけのボロ小屋だ。


 店先でガラクタを整理していた男性の店主が、レオンの来訪に築く。


 顔に傷のあるその男性は、レオンに対して慣れた態度で話しかけた。


「なんだまた小僧か。何が聞きたいんだ?」


 それはレオンがなんどもここに訪れている証拠だ。


「なんでもいい。アリルって名前の女性について、何か情報はないか? それか、町の中で変な連中を見かけたとかいうのでも構わない」


 レオンは小銭の入った袋を投げ渡しながら返答を待った。


 すると、店主が中身を確かめながら答える。


「さあな。フードをかぶった怪しげな女をよく見るようになったとは、知り合いが言ってたが、それが女なのか、男なのかは分からん。一人で見る時もあれば数人で見る時もあるそうだ」

「それだけか? それじゃ中身を半分くらい返してもらう事になるが」


 店主は眉間に皺を寄せながら、こめかみをとんとんと人差し指で叩く。


 思ったよりお金が多かったため、店主は収入を得るために記憶を必死で漁っていた。


「ちょっと待て、そういや一人で目撃する時は、フードをかぶった人間は女ものの香水の匂いがしたそうだ。集団で行動している時はそんな匂いはしてないと聞いた。ああ、あと服の模様が微妙に違うって話もあるから、別の集団なのかもな」

「なるほど。まあまあってとこだな。もうちょい何かないか」

「これ以上は出てこん」


 腕を組んで考え事をするレオンは、これからの事を考える。


 レオンは、目撃証言があるなら地道に調査を行えば、もう少し何らかの手がかりが得られるはずと考える。


 要注意であるのは、目撃すらされない類だが、そうでないのならいつかは真相にたどり着けると考えていた。


「分かった、ありがとう。親父さん。ちょっと多めにサービスで渡すよ。またなんかあったら教えてくれ」

「そりゃ助かるが。レオン、お得意様になってくれるってなら大歓迎だが、またなんか持ち込むって、それ……面倒ごとじゃねぇよな?」

「さてな? それをはっきるさせるための調査だからな」


 自分の名前を覚えられてたという事を意外に思いつつ、もうこの地にやってきてから三年経つのだと、レオンは改めて自覚した。


 レオンは、頭を掻く店主に手を振って、その場を離れる。


 帰り際、同じ道を通ると先ほど倒れていた人間が一人いなくなっていた。


 後には血だまりの跡が残っている。


 記憶が間違っていなければ、その人物は怪我人だった。


 先ほどの店の客で、レオンとも何度か言葉を交わした事がある。


 近くには争った跡があり、フードのついた服が落ちていた。


 その服は、店主と話した時に得た情報のものとそっくりだった。


「誰かに魔法で手当てされて、どっか行ったっていうんなら、まあ……おめでとさんってところだけど。ひょっとしたら本当に厄介事なのかもしれないな」


 いつもは一人事を呟かないレオンは、自分以外は聞いている者のいない言葉を口にした後、今度こそ貧民街を離れるために歩き出した。




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