第2話 葵、純平 vs 涼太、タモツ(後半戦)
後半です。
私を捕まえる気はあるの?
と、半ば呆れているユーワ。AIなのにしっかりと呆れて見えるから、本当に人間の女の子みたいだ。
ターゲットのAIユーワはゆっくりと回転している。
「麗しの花嫁、そう言っていられるのも、今のうちだよ」
葵が余裕の表情で追いかける。
〈あたしを捕まえるなんて千年早いわ〉
ウェディングドレスのユーワを違う方向からそれぞれ追いかける。
互いにターゲットを挑発する台詞を並べ合う。葵は毎回言い回しが絶妙で、聞いている僕が射止められそうだった。
ドレスの裾を翻し、笑いながら逃げているユーワは、まさに純真無垢な花嫁。可愛くて心臓が止まってしまいそう。
男たちの台詞はすべてインプットされ、心をときめかす順番にAIの彼女は分析して並べている。それも勝敗に関わってくる。
ハートキャッチ・ジョブ……。僕は一度も勝ったことがない。
でも今日こそは--
「捕まえた!」
葵が正面からユーワを優しく抱きしめた。
全員の視界が、青から黄色に変わる。葵がすぐに彼女を離す。注意信号。
「おっと、ダメなのかい?」
すぐに離れる葵。
教会の壁伝いに走ってきたタモツ。僕は目の前に立ちはだかった。
「どけ、純平!」
「嫌だ! 力だけじゃ勝てないぞ」
タモツの腕を掴んで離さない。しかし体重が半分になっている僕は、タモツが軽く腕を回すだけでぐるぐると回転させられる。
「うわぁぁぁぁー」
目が回る僕。
「はっ! バカだな純平、そらっ!」
遠くに飛ばされた僕は、ユニホームに付いているグラビティボタンを素早く押す。重力は一番軽くなって、スローモーションのまま柔らかく地面に落ちた。
タモツは前からではなく、素早く後ろから花嫁を抱きしめた。
「イタズラな花嫁。逃げ回ったら駄目じゃないか」
どうだ俺のバックハグは! と、勝ち誇った顔のタモツ。
その途端、視界は赤く点滅。タモツはユーワに壁に叩きつけられた。壁のブロックが本物のように砕ける。
これは警告だった。
「クッソー!」
ミラージュの瓦礫から立ち上がるタモツ。
ユーワは人差し指をタモツに向けた。
〈おやすみの時間よ〉
「はっ、はい〜♡」
警告を受けた彼は2回ターゲットに仕掛けるの見送らなければならない。
(にしても……タモツ、デレデレの顔だな)
葵がもう一度ユーワに挑んだ。飛び上がって彼女を掴んだ。
「もう逃げられやしないよ」
〈あなたなんて知らないわ〉
腕を振り払うユーワ。彼女の手首を掴む葵。
「待ちなよ」
〈その汚らわしい手を離してちょうだい〉
葵は彼女の手首を、自分の顔の前まで持ってくる。
「でも……嫌いじゃないだろう? 」
〈葵……意地悪〉
「くそ、リーチやで!」と涼太。
リーチ。ユーワに名前を覚えられたのはアドバンテージをとっている証拠だった。
ユーワは沈黙。このときは残りのメンバーは邪魔をしてはいけない。
見ると、タモツは棒立ち。涼太は敵だと言うのに顔を赤らめ祈りのポーズをしている始末。
「さあ、ユーワ、なにか言ってごらん」
〈葵……ワタシ……ワタシ〉
葵は余裕の表情で、落としにかかった。ドンと教会の壁に手ついて、逃げようとするユーワを閉じ込めた。
「うわっ壁ドン!」
僕は思わず声に出した。タモツと涼太からは敗北のオーラが漂い始め、膝を折ってしまう。
ビー!ビー!ビー!
警戒音と共に、辺りは真っ赤になる。先ほどの赤の点滅は警告だが、これを見たのは初めてだった。まさかの--
〈残念ね……〉
「あ? なんやなんや?」
「嘘だろ?」
敵の二人も口をあんぐりあけている。
レッドカード!
葵は棒立ちのまま、壁に強制的にスッーっと追いやられ場外へ立たされた。
AIにはNGワード、もとい「NGジョブ」が設定されている。葵は真っ青な顔で立ち尽くした。
このゲームの真の目的。それは相手が何が嫌で、何を求めているかを考えること。言葉の知識や教養に加え、思いやりも必要なのだった。
葵はそれが一番優れていた……のだけど。
「嘘だろ? 壁ドンがNGジョブだったのか」
タモツが呟く。
〈あら? これでおしまいかしら?〉
「涼太、試合続行中だぞ!」
タモツが叫ぶ。
そうだった。まだハートキャッチ・ジョブは続いていた。膝をついていた僕は立ち上がった。
涼太もピンクの頭をぶんぶんと振っている。タモツはまだ仕掛けられない。
あれ?
眩しいほどの白いドレスが視界から消えた。
「え? ユーワは?」
「ユーワおらんで。どこや」
目の前にいたはずのユーワがいない。3人とも周りを見渡す。
(葵は撃沈中)
「ユーワ!」
僕は大声で叫んだ。教会全体を見渡しながら走る。葵の無念を晴らしたい。
「どこに行ったん? ユーワちゃんー!」
涼太も叫ぶ。一体どこに?
呆れて帰ってしまうなど、そんな設定が新たに加えられたのか?
「レッドカードが久しぶりに出たからな。全員が負けとか?」
タモツが腕組みをして考えている。
「どこだ、ユーワ! いなくなるなんて、ひどいじゃないか!」
僕はイラついて叫ぶ。
「出てきてくれ! 隠れるなんて卑怯だぞ!」
「……転校生、必死やで」
あっ……。
教会の隅の椅子にちょこんと座っているユーワを僕は見つけた。
僕の目の前! しかも背を向けている。こんなチャンスは稀だ。
「ちきしょう、チートや!」
ユーワを見つけた涼太が叫ぶ。だけどこれはチートじゃない。ハート・キャッチジョブの醍醐味だ!
味方の退場、身体機能、試合出場回数……。
分析の結果、ユーワは僕にハンデを与え、目の前に現れてくれた。今の捨て台詞も、もしかしてポイントが付いたのかもしれない。
涼太は爆速で正面から走ってくる。でもこの距離では間に合わない。僕はそっと後ろから近づいてーー
彼女の目を両手で隠した。
そのとき、ありえない身体能力で追いついた涼太。
「取ったぞ! ユーワ!」
「亮太さん?! 嘘だろ?!」
走り幅跳びのように、涼太はジャンプをして突っ込んできた。僕はユーワを守るように、彼女の体を引き寄せる。
「危ないっ!」
亮太はユーワの前髪とベールを、指の先端でかすめる。身軽な涼太は勢い余ってユーワを通り越し、そのまま地面に突っ込んだ。全くイカれてる。
彼女の目を隠している僕。平静を装っているが心臓はバクバクだった。僕は囁く。
「だーれだ? ユーワ……」
彼女は僕の両手を包み込む。柔らかな感触が、しっかり僕の手に伝わる。そして僕の両手首をキツく掴んできた。
初めてだ。彼女はこの後、僕の名前を呼んで抱きしめてくれる。勝った! 勝ったんだ!
その瞬間-
天井がぐるっとスローモーションで動いて、背中を床に打ちつけた。
え?
なにがあった?
…………一体なにが?
転がっている涼太に歩み寄るAIユーワ。
〈涼太、好きよ。頭ポンをしてくれたのね〉
ええええーーー!?
涼太を起こし、ユーワはしっかり彼を抱きしめた。ピンク色の髪をくしゃくしゃと触られている。そんな……。
〈あなたの勝ちよ、涼太〉
ず、ずるい……と、3人がそう思っても、なす術はない。
A Iユーワは頭をぽんと、軽く触られることが今回のNo. 1ジョブだったんだ。
彼女は笑いながら、空を舞うように飛び上がって、蜃気楼の中に帰っていった。
僕は目を閉じ、ゴーグルのスイッチを切った。体育館の冷たい床が、熱い体に気持ちいい。
頬を赤らめた涼太が、嬉しそうに僕の肩を叩く。
「新人君、もうちょっとお勉強せな」
「いや、涼太さん……転んだだけだし」
ユーワから、背負い投げをされた背中がまだ痛い。
いや、痛いのは心のほうか……。
おわり
いかがでしたでしょうか?
ハートキャッチ・ジョブ、ほかのペアでの試合も見たいですか?まさかの主人公……こんなオチとは笑笑
女の子たちが争うバージョン見たいですか?もしよければ感想ください。短編なのでここで終わりですが、続きがあってもいいですね。リベンジマッチとか。




