過去
一息ついてコーヒーを飲んでいると、玄関のベルが鳴った。
カイがドアを開けると
「カイ ありがとう‥お陰で助かったよ。」
カイが連絡を入れたザックが先に…フォルが後から入って来た。
(ザック…確か 今はフォルの秘書‥前は世話役としてずっとフォルに付いていた‥確か あの日も‥)
「これがフォルセティの潔白を証明できる資料だ。これで明日の話し合いも有利になるだろう。」
フォルとザックは資料を受け取り目を通している。
「それにしても短時間で良くここまで調べられたな。」
ザックが言った。
「彼女が教えてくれたから‥」
カイ君はあたしを見る。カイ君は続けて言った。
「何で本当の事を言わなかった?」
「ラングレー氏は あたしを自分の事に巻き込まない為に‥あたしに迷惑をかけない為に言わなかった。そうですよね。でもその為に自分が窮地に追い詰められてどうするんですか!!手遅れになる前にあたしの耳に届いたからいいものの…そうじゃなかったら避けようとしているそのお相手と結婚する事になっていたのよ。ラングレー氏が少しでも しょうがないそのお相手でもと考えているなら構わないけど、そうじゃないみたいだから‥これからもあたしが関係していて、困った事があったらカイ君に連絡して‥いいですね ラングレー氏。」
「エイル嬢 ありがとう。でも呼び方が戻ってしまったんですね。俺を名前で呼ぶのは呼びづらいですか?」
「はい 少し‥慣れていないのでごめんなさい。」
「謝らなくていいですよ。名前で呼んでくれる日を楽しみしています。」
「はい‥頑張ります。」
「ところでエイル嬢 俺 君に聞きたい事があって会いたいと思っていたんだ。」
「聞きたい事 ですか?何でしょう?」
「実は変な話しなんだが、あの知り合ったパーティより前にエイル嬢と会っているような気がするんだ。俺の記憶にはないんだけど…本当にあのパーティ前には会っていない?」
「会ってないですよ。あたしの記憶にもありませんから‥」
「ザック 彼女がエイル嬢だ。」
「ああ この間お話しになっていた方ですね。」
ザックが言った。
「そうだ…ザック 君はずっと俺と一緒にいる…俺の世話役として…今は秘書として…その君に聞きたい…君は エイル嬢に見覚えがないか?」
(フォル‥まさか思い出しかけている‥?でもこの反応は‥多分 あたしに関する記憶はないはず‥じゃあ 何故?ザックもあの時 一緒に薬を飲まされた。だから答えは‥)
「あのパーティでお会いしたのは覚えていますが、それ以外は‥」
ザックは答えた。
「そうか‥やっぱり思い違いか‥」
フォルセティは言った。
「どうした?フォルセティ‥」
「いや すまなかった。カイがエイル嬢を紹介してくれたパーティで彼女と初めて会ったはずなのに、前に会っている気がしたんだ。とても懐かしくて覚えがある気がしたんだ。変だよな‥彼女との記憶はパーティ前にはないのに‥とっても優しくて笑顔になれる時間…そんな時間があればいいのに‥ なぁーんてな。思い違いだ。気にしな
いでくれ‥」
(君といると優しくなれる…笑顔になれる‥俺の大切な時間だ。)
かつて彼が言った言葉を思い出した。そんなあたし見ているカイとフローラの視線をさっきから感じている…。
それに気づかないふりをしているあたし…でもそんなのお見通しなんだろうな‥あの二人‥
「そろそろ帰るよ。明日 協議があるから…潔白を証明してくるよ。」
フォルセティが言った。
「ああ 頑張って。証人がいるようなら呼んでくれ。」
少しフォルセティに近寄ると言った。
「この書類全てに変更出来ない魔法がかけてあるので安心してくれ。」
「ありがとう カイ‥」
フォルセティはあたしを見ると言った。
「エイル嬢 送りますよ。」
「あっ エイルは今日 泊まる事になっているのよねっ エイル‥」
フローラに微笑みかけられた。
(そんな約束はしてないけど‥やっぱりね)
「ええ そうね…お気遣いありがとうございます。お気をつけてお帰りください。」
「そうですか…それでは‥おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
三人揃って答える。
フォルセティを見送り玄関ドアを閉める。カチッ やけに鍵を閉めた音が大きく聞こえた。
「エイル 座って‥」
フローラにソファーを勧められた。
あたしは黙ってソファーに座る。
テーブルの向こう側にカイ君とフローラが腰かける。
「エイル どういう事かな?説明してくれるよね。」
フローラが言う。
「エイル フォルセティと初めて会ったのはいつかな?正確に教えてくれる‥」
カイ君が強めに言う‥
「フローラ カイ君 やっぱり気づいた?」
「当たり前だろ。それから三人なのでいつも通り君抜きで呼ぶように‥いいな。」
「はい分かった。」
あたしは答える。
「それでフォルセティと初めて会ったのはいつだ?」
カイが聞く。
「初めて会ったのはジュニア学院に入る前だから五、六歳位の時だと思う。」
あたしは遊園地で 迷子になった。フォルセティさんも迷子になった。別々で迷子になった二人が出会って手を繋いで迷子センターに行った。
「彼がいてくれたから、心細い思いをしなくてすんだの。そしてお互い 親の所へ戻った。」
あたしは言った。
その次に会ったのは 十歳の夏休み‥どの学院に入ろうか迷ってて、一人でゆっくり考えたくて蛍が見られる別荘に兄上とメイド長と三人で滞在していた時だった。
朝は早起きして涼しいうちに木陰の道を散歩する事が好きだった。何日かした頃いつも会う少し年上の男の子から声をかけられた。それがフォルセティさんだった。
「あの 違ってたらごめんね。小さい頃 遊園地で迷子になった事ない?」
あたしはその男の子の顔をじっと見る。そして気づいた。
「もしかして あの時 手を繋いで迷子センターに一緒に行った…」
「当たり!なんか似てるなって思って声かけたんだ。」
「それからは向こうにいる間 毎日 朝 二人で散歩したわ。そして二人で蛍のツリーも見た。水辺の木に蛍が集まってとまっていて、本当にツリーみたいで凄く幻想的で綺麗というより美しかった。そんな 夏を過ごしていたら不思議な事に自分の気持ちは決まっていた。そしてオール学院に入った。十五歳の時 また彼と出会ってあたし達は恋に落ちた。でも既に中央に入る事が決まっていたあたしには、その恋は許されなかった。」
「そんなバカな…だって同じ一族でなくても結婚している人達はかなりいる。」
カイが言う。
「カイ‥それは わたし達は同じ時を生きる者だからよ‥その中でもエイルは後継者と呼ばれるその長の一人‥だからでしょ。」
「ええ 普通なら魔力があれば結婚する事によって、あたし達と一緒に生きられる。でもフォルセティさんには、魔力がなかったの。それは守りがないという事…普通に生きて行くなら魔力がなくても大丈夫‥この国には魔力がない人も多いから‥でもあたし達と一緒に生きて行くならそれはとても危険な事…狙われる事もある。分かるでしょ。ましてやあたし達は長い時を生きる一族‥その中でも語り継ぐ使命を担った同じ時を生きる者…だから恋する相手を忘れさる忘却の薬をフォルセティとあたし いつも彼の側にいたザックが飲まされたの。でも 目が覚めたあたしは覚えていた。涙が溢れて止まらなかった。
ある日 中央の神殿に入った時
「あなたに忘却の薬は効かないのよ…あなたは語り継ぐ者の長の一人だから」
その声は直接 頭の中に伝えられた。
それから まもなくそれが発表された。
あたしは 全てを受け入れる事を決めたの。だから二人共 これからもよろしくね。フォルセティさんとの事は秘密で…」
「でも フォルセティの様子がおかしかったな…」
カイが言う。
「少し 様子みましょう。」
フローラが言う。
あたしは彼との接触をなるべく控え、カイとフローラが様子を見る事になった。




