雲の上の友
日曜日。目が覚めて時計を見ると、午前9時半だった。今日は譲一は朝から家を出ていないし、小枝子も出勤日だ。
因みに、この前応募した仕事は一次選考で落とされた。金曜日の午後に派遣会社から、
『今回はお仕事をご紹介するには至りませんでした』
というメールが届いた。面接もして貰えない。して貰ったとしても、
『選考から漏れてしまいました。また何かありましたら宜しくお願いします』
虚しい電話。同じような内容の連絡を何回受け取ったか、自分も記憶が定かでない。
譲一は「面倒は見きれない」の言葉通り、一切口出ししなくなった。小枝子は、「何で派遣に拘るの!?」「この前駄目だった所、裕介の気持ちの問題なんじゃないの?」などと口喧しい。最近は小枝子と顔を合わせる事ですら鬱陶しくなって来た。
オレみたいな子供がいれば、何処の親だって口を出さずにはいられないだろう。それを理解しているのに、自分を苛むだけ。
1階に降りてリビングに入ると、秋久がソファに寝そべってテレビを観ていた。
「オッス……」
秋久は振り返ってオレを一瞥し、「オッス」と返した。
コーヒーを淹れ、椅子に座ってぼんやりとテレビを観た。一週間の出来事をまとめた報道番組が終わり、10時になると、情報バラエティ番組が始まった。番組に出ているリポーターは、全てディレクターやAD達。拙いながらも面白おかしく情報を伝え、スタジオの出演者達がそれにツッコんで行く。
画面はスタジオに切り替わり、司会者に紹介されたコメンテーターの中に、「あの人」が居た。最近忙しそうだな。
「この人話題になってるか」
秋久に訊いてみた。
「オレの周りじゃそうでもないけど。本が売れてんでしょ?」
「みたいだな」
秋久は「あの人」がオレの友達だとは知らない。
「あの人」=夕起という女性小説家。本名は渋谷文夏。18歳で風俗店に入店し、20歳の時に風俗嬢を続けながら、オレが通っていた定時制高校へ入学した。学年はオレが一つ上だが、年齢は夕起さんが三つ上だ。
愛嬌のある笑顔で人気を博すると、風俗サイトや雑誌のグラビアを飾るようになる。遂にはテレビの深夜番組で特集もされていた。
26歳で引退した後、今年初めに半生と風俗時代のエピソードを綴った本『デパーチャー』を出版。この本が現在までに5万部を売上げ、夕起さんはメディアへの露出が増えた。今や全国放送のコメンテーター。オレとは雲泥……いや、雲と地中の差はある。
友達になったきっかけは、当時人を遮断していたオレに夕起さんが興味を持ち、向こうからバンバン話し掛けて来たからだ。
友達の活躍を素直に喜べるゆとりはないが、ワンショットになった夕起さんを観て、自然と微笑んでいる自分もいた。




