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Femto Boy  作者: 弘田宜蒼
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達成

 7月6日日曜日。『カフェラテ』の生放送を終え、午後、陣内さんと『オンカン――』の宮崎ディレクターと共に、新宿のデパートに向かった。

 番組内には映画などのDVDを紹介するコーナーがあり、2週間後の放送では、石川県内の女性市議、本田氏が出演するDVDを取上げる事に決まった。


 本田市議は「美人すぎる市議」として、当選直後から何かと報じられている。確かに美人だとは思う。だが「すぎる」とは、誰をボーダーラインにしているのか? 謎だ。


 6月に市の知名度アップと観光PRの為、DVDを発売。ショッピングサイトでは、予約段階で受付が殺到したらしい。売上は慈善事業に役立てて欲しいと、全額寄付するらしく、更に話題を呼んでいる。

 今日は、本田市議が新宿のデパートでイベント(特産品のPR)に参加する為、上京した事に合わせて、18時のイベント終了後に打合せをする事になっている。


 コーナーでは、たまに作品の出演者にVTRやスタジオへの出演を依頼する事がある。今回は駄目元でスタジオ出演を依頼した所、「市のPRに繋がるのなら」と快諾して貰ったそうだ。

 デパートに着き、控え室に行く前にイベント会場を覗いた。日曜という事もあり、どのブースも盛況だったが、会場を見渡して!!!!……衝撃が走る。にこやかに試食品を持つコンパニオンの中に、頭から消し去れない顔が一つ。あの人も石川出身だと言っていた。


 やっと逢えたな。早稲田望……。放送作家を目指した理由の一つは早稲田を見返したい。スタジオか何処かで擦違って、自分の存在を知らしめたい、だった。

「中山君? もしもーし!」

 陣内さんに眼前で手を振られ我に返った。

「っあ、済みません」

「行くよ」


 控え室に入って本田市議を待つが、落着かない。安定剤を一錠飲み、深呼吸した。

「調子悪いの」

 心配した陣内さんが小声で訊いた。

「大丈夫です。(薬を)飲む時間でしたから」

「なら良いけど」

「どっか悪いの」

 宮崎ディレクターに訊かれ、「大した事ないですから」と笑顔で答えた。

 薬は平静状態を得られる手助けをしてくれるだけ。活かすか無駄にするかは自分次第だ。

 

 待つ事約20分。丁度薬が効き始めた頃に本田市議が現れ、挨拶を済ませて打ち合わせが始まった。

 最初にコーナーの趣旨説明をし、早速話を伺う。

「初め(DVDの)お話を頂いた時にはお断りしたんです」

「政治家がやる事ではないと判断されたからですか」

 陣内さんの質問に、

「それもありますけど、市民以外に自分をアピールする意味を見出せなかったんです」

 本田市議は物腰柔らかな口振りで答えた。


「それから承諾しようと思ったきっかけは何だったんですか」

 宮崎ディレクターが問掛けた。

「後日プロデューサーの方から、私の知名度を活かして、市内の観光名所を紹介する作品にしてはどうかって持ち掛けられたんです。数日考えて、市のプラスになるならと思いました」

 政治家ならば、郷土や国の事を一番に考える。これ、言わずもがなの筈。

 

 次に陣内さんが内容に触れた。

「テーマは春と夏です。私が名所を訪れて解説しています。名所に合わせた衣装もポイントです」

 やっと本田市議が笑顔になった。

 1時間程で打合せは終わった。本田市議は所属政党の党大会の前夜パーティがあるとの事で、一足早く出て行った。


 オレ達は帰り支度をし、デパートの人達に挨拶をして出口を目指した。廊下を歩いていると、前から他のコンパニオンと会話しながら歩いて来る、早稲田望を見付けた。


 『ドック! ドック!! ドック!!!』。鼓動が大きく鳴り響き始めた。手は涌き水でも涌いたように、脂汗で濡れている。

「中山君。来週の『ルーム――』のメールまとまってる」

 陣内さんから訊かれた。番組内で読むメールや葉書候補を選び、何処の件を読むのかを決める作業だ。

「っあ!……明日にはまとまります」

 裏声気味で答えた。その内に早稲田は直ぐ目の前まで来ていた。そして、目が合う。早稲田は「何処かで見たような?……」というような怪訝な表情をした後、思い出したのか、はっとした顔になった。以上、飽迄もオレの推察。


 オレは早稲田望の表情を見届けて目を逸らし、会釈もせずに通り過ぎた。作家に成る前に夢見た事が、1年半で実現した。ちんけな夢……。

 やっと緊張から解き放たれ、バカらしくなって「フン」と鼻で笑う。

「何笑ってるの?」

 陣内さんは呆れて笑っている。

「思い出し笑いです」

「人間笑う事が大事さっ」

 宮崎ディレクターが息を抜くように言った。


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