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Femto Boy  作者: 弘田宜蒼
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不実、でもステキな関係は続く

 6月に入った。チハルとの約束のデート……まあ、オレが楽しんだだけだけど。も果たした事で、彼女との関係はTHE ENDと思っていた。だが腐れ縁ってやつか、夜中に会議が終わり、彼女にアフターが入っていなければ2人でカラオケに行ったり、午前中時間が合えば、食事や映画に行ったりする。そんな関係が続いている。


「最近表情明るいな。彼女でも出来たか」

 加藤さんが悪戯っぽく笑って訊いた。

「そんな人欲しくても暇がないですよ。単に仕事が楽しくなって来ただけですって」

 こう返したものの、仕事は勿論だが、チハルとの関係も楽しんでいた。でも、彼女はキャバ嬢。オレは客じゃないけど、彼女はこの関係をどう思っているのか……。


 6月中旬の月曜日。『東チャンリーフ』の会議が終わった後、大谷ディレクターに呼止められ、18日の本番前のホンの手直しを兼ねて、再ミーティングとなった。

 20時少し前に終了したと思ったら、今度は『カフェラテ』の戸田ディレクターから、千代田区の支社まで来いとのお呼出し。19日のロケを前に、打合せが行なわれた。約1時間半で終了し、戸田ディレクターが「一杯やるか」と言い出して近くの居酒屋に入った。


 終電に乗る為には、23時半過ぎには駅に向かわなくてはならない。前にスマートフォンで時刻表を検索していたら、「電車気にすんな!」と注意された。以来、大体の終電時間はインプットしている。だけども……帰して貰えれば良い方で、始発で帰る事もあれば、事務所に泊まる羽目になる事もざらだ。


 その23時半になった。

「済みません。僕、そろそろ終電なんで失礼します」

 努めて丁重に申し上げる。戸田ディレクターは「何だよ帰んのかよ」と渋い表情になった。

「仕方ないっすよ。こいつうち遠いですから。良い夢見ろよ!」

 加藤さんはフェローしてくれて、オレに向かって親指を立てた。よっしゃ! 今日は帰れる。喜びを押し殺し、奢って貰ったお礼を言って駅を目指した。

 

 その時、またスマートフォンが振動した。見るとチハルからのメッセージ。また呼出しかよ……。確か彼女は月、火と休みだ。

 今日は断わろう。直ぐに結論が出た。


 約20分後、オレは自宅がある最寄駅……ではなく、渋谷に……いた。結局、断れなかった訳だよ!

 いつものようにカラオケかと思ったら、今日はゆっくり飲みたいらしい。

「アフターで居酒屋行ったりするの?」

「たまに行くよ。仲の良いキャストとも」

 今日のチハルは笑顔の中に疲れが滲んでいる。店に入って最初の内は普通に会話していたが、サワーが3杯目になると……。


「ハー。私も疲れちゃった」

「何かあったの?」

「今に始まった訳じゃないけどさ、売上上がんなかったら店長の目は厳しいし、客は客で身体目当ての連中ばっかだし……」

「一見華やかな職業は厳しいからな」

「キャストの誰かがAVやってるの吹込んだらしくて、それで余計に身体目当ての客が増えて。倍疲れる!」


 チハルはグラスを見詰て言った。頷く事しか出来ない。気の利いた言葉を掛けられれば良いのかもしれない。でも、余程間違った考えでもない限り、黙って受入れるのも優しさだと思う。


 愚痴を言うと、「皆苦労を抱えてるんだよ」とか説教じみた事を言う人もいるが、多くの人はそんな事は解っていると思う。只、苦悩を抱えて他人の事を忘れているだけ。それを思い出す為に、蟠りを吐き出して溜飲を下げる。これを交替交替で繰返して行くのも人間関係の一つだと僕は考えるのですが、間違っていますかね?


 約2時間後、店を出た。

「ユウ、今日は一緒にいてくんない?」

「……まあ良いけど、何処に行く?」

 電車はもうなくなった……となれば、2人の足はホテル街へと向かっていた。こんな事が……オレの人生と縁があったのか。


 そんな事を考えている内にあるホテルに入り、チハルは慣れている様子で独りで部屋を決めていた。部屋に入りあちこち見て回る。

「こういうとこ初めてなんだ?」

「いや、前に一度だけ……」

 泊まった事はあるが、部屋をじっくり見るのは初めてだ。


 彼女に右手を握られ、抱きつかれた。背中に手を回す。酒の力か、以外に落着いていた。

「もっと優しく」

 女性の身体は柔らかく、思わず力が入ってしまう。

ゆっくりと唇を合わせた。『カチッ』と歯が当たり、「慣れてないね」と嗤われた。

 そして、チハルは服を脱ぎ出した。その光景を見て、何故か頭の中で『Over The Rainbow』が流れ出した。そのくらい穏やかで、優しい気持ちだった。


「脱いでよ」

 2人でシャワーを浴び、ベッドへ行く。チハルは髪で顔が隠れる度、髪をかき上げて耳掛けヘアにする。女優は顔が命なので……。その仕草を見てオレが嗤ってしまう。

「何がおかしいの?」

「別に」

 

 明け方に眠り、昼近くに起きた。

 人生、何処で誰と出逢い、何がどう転がるか解らない。酔いが醒めて心底実感した。


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