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Femto Boy  作者: 弘田宜蒼
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トイルガール

 ユウは済まなさそうな顔をして外を見た。売上が減るのは経済のせいだけじゃない。キャバの世界は営業力がすべて。口下手だったりアフターや同伴をサボれば、いくらルックスが良くても結局飽きられちゃう。

 お客の心をつかみ続けるだけでも大変なのに、店じゃキャストどうし、表向きは仲良さげにしといて、裏ではあら探しして足の引っ張り合い。


 じゃあAVの世界はっていうと、誰でも撮ってもらえるわけでもなく、なかなか面接には受からない。倍率何十倍って世界。

 放送作家も、少し前まで売れっ子だった人が、番組が終わったりしてアルバイトしなきゃいけなくなったって、聞いたことがある。

 人気商売に進んだ人間の辛いとこだよね? 中山裕介さん……。


 その後もいろいろ話してるうちに、ユウとは同い歳だと解った。私が6月でユウが7月生まれ。私のほうがちょっとだけお姉さんだった。

 電車に乗って1時間以上が経って小田原に着いた。でも降りない。

 そこから一駅過ぎて、やっとユウが「降りるよ」と立上った。

 でも初デートが歴史に関係あるとこなんて……シブっ!


 駅を出て山道を無言で登っていく。歩いているのは私たちと、おじいちゃんおばあちゃんの集団だけ。ユウは私を気づかう気ゼロでどんどん進んでいく。さっきから腰イテー。

「ちょっと待ってよ!」

 やっと追いついてユウの右腕をつかんだ。

「ハー、ハー……山登るんだったら言っといてくれる?」

「渋谷で最終決定したもので。言ったら絶対嫌だって言うだろ?」

 みごとな開き直りだ。

「そりゃそうよ!」

「それより見てみな。青い空に陽光を一杯に反射した海。輝かしいばかりだな」

 話をそらすなよ!


「そんな余裕なーい」

 すねた感じで言ったけど、半分マジだから。ユウは聞かないふりをして、「行くよ」と言って歩きだした。

 ユウの腕をつかんだまま歩くこと約30分。2人とも汗だくで入口に着いた。

「もーう。メイク台なし! せっかく丁寧にしてきてあげたのに!!」

「そりゃわるーございました」

 ハンカチで汗をふきながら看板を見た。


「石垣山? 一夜城? お城の跡?」

「豊臣秀吉が小田原征伐の時に築いたんだよ」

「オダワラセイバツって何?」

 ヤバッ! 歴史に興味ないのバレちゃった……。っまいっか。

「後で説明するよ」

 ユウに続いて先に進むと、一面芝生の広場に出た。

「あー、そよ風が当たって清々しいな」

「私は最悪。ユウはキャップ被ってて良いけど、紫外線あたりまくり」

 化粧品はUVカットのやつだけど、汗で取れちゃっただろし。日焼け止めも持ってくれば良かったと後悔する。


「で、ここはどうゆうお城なの?」

 嫌な予感はするけど、一応話をふってみる。

「1590年3月(旧暦)から、秀吉は自分の家臣になろうとしなかった小田原城の北条氏を攻めたんだ。それが小田原征伐。そして4月6日から、小田原城を見下ろせるこの山に築城を始めた」

 ユウは語りながら歩き始めた。ストーリーテラーのつもり? タモリじゃあるまいし。ほっとこうかとも思ったけど、ベンチがある所までついていくことにする。


「3万から4万人が動員され、工事は昼夜突貫で行なわれた。結果、石垣造りの城が僅か3ヶ月で完成する。それがこの石垣山一夜城」

 展望台に着き、ベンチがあったので喜んで座った。 ユウは私に背を向けてるからメイク直しに都合が良い。


「北条一族と重臣が徹底抗戦するか降伏するかで紛糾していた時、余裕綽々の秀吉はここに側室の淀殿を呼んで、連日のように茶会を開いていた」

 まだ続くな。嫌な予感的中。男は自分の世界に入ると周りが見えなくなる。

「そして、夜の内に山の木を伐採。朝になって向かいの山を見た北条方は驚愕。一夜にして城が出来たと戦意を消失したっていわれてる。それが、一夜城の由来」

「ふーん。ビックリするよね」

「7月5日に北条氏政と氏直の親子は降伏。秀吉は戦後処理をして、8月9日、天下統一を完了させた」

 はい。カンペも私の顔もいっさい見ないで良くできました。


「っておい! 聞き流しやがったな!」

「聞いてたよ。解りやすく説明してくれてありがとうございます」

 コンパクトを持ったまま開き直ってやった。

 私を展望台に残して、ユウはあちこち回ってスマートフォンで写真を撮っていた。戻ってくると、あっちが相模湾で、遠くに見えるのが三浦半島と房総半島だと説明してくれる。汗が引いて風が気持ち良い。やっと眺めの良さを実感できた。


 小田原駅に戻ったとき、

「おなかペコペコなんだけど」

 笑顔だけどうんざりぎみに訴えた。だって朝からほとんど何も食べてないから。

「ちゃんと調べて来たよ」

 ユウはそう言って駅ビルの中の食事処に入った。ご当地グルメの「小田原どん」を注文する。地元で獲れた魚や野菜のてんぷらが盛りつけられていて、結構ボリュームがある。食べたらすごく美味しくて完食した。食器は伝統工芸品の小田原漆器なのだとか。

 

 このご時世に、キャッシュレスじゃなくて現金派? ……少しビックリしたけど奢ってくれるのだから黙っておく。お金を払ったユウは外に出てくると、

「機嫌が直ったとこでもう一ヶ所」

 こう言って今度は小田原城も見たいと言いだした。なんだとお!!


「これ、私にお詫びするデートじゃなくない?」

「申し訳ない。でもせっかく近くまで来たかさ」

 こいつどこまでも開き直るつもりでいやがる。でも、なんか憎めない。

 ユウくん誰の子、ふしぎな子……。今まで逢ってきた男とはちょっと違う。


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