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Femto Boy  作者: 弘田宜蒼
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不実、でもステキな関係

 ゴールデンウイーク明けの木曜日。23時55分からの30分間、『姫さまのギモン』が放送された。

 チハルは自宅マンションで取材を受けていた。声は加工されていなかったが、顔は磨りガラス状にモザイク処理されていた。エンドロールに自分の名前はクレジットされなかったが、やっと仕事を終えた感じでほっとした。


 翌日。『オンカン――』の収録前の打合せ中、スマートフォンが振動した。本番の為スタジオのサブ(副調整室)へ移動中にチェックすると、チハルからだった。デートはいつなのかと催促する内容。覚えていやがったか……。

 サブに入り、傍らにいた陣内さんに愚痴りたくなった。

「この前オレに絡んで来た子覚えてます?」

「……ああ、チューハイで出来上がってた子?」

「ええ。あの後お詫びにデートに誘えって言って来たんです」

「ハハハッ。逆ナンじゃない。暇がある内に行って来たら?」

 他人事だと思って……。


「どんな所が良いですかね?」

「そう難しく考えなくても、遊園地とか、近場で済ませたいんなら映画でも良いんじゃない?」

 生まれて此の方、デートで遊園地になんか行った事がない。まあしかし、オレの知合う女性ときたら、元風俗嬢にキャバ嬢兼AV女優……オレが引き寄せてんのか?

 そうこうしている内に、

「本番5秒前ー、4、3、2……」

 オンエアのランプが光った。

「さあ今週も始まりました『オンカン』――」

 黙って収録を見守りながら物思いに浸った。


 5月中旬の火曜日。天気は快晴。チハルとのデートが「決行」される事になった。連絡を取合った結果、2人の休みが合う日が今日だった。9時半に渋谷で待ち合わせる事になっている。10分前に着いてハチ公前の喫煙エリアで一服した。程なくして彼女も到着。


「何処連れてってくれるの?」

「ちょっと考えさせてよ」

 一服する彼女の服装をさり気なくチェックする。この前と同じ黒いブーツに黒のミニスカート。オレは、スニーカーに迷彩柄のパンツ。大丈夫だな。

 スマートフォンを使い路線情報で行く先を調べた。


「じゃ、行こうか?」

「何処に?」

「取敢ず品川」

 この機会だから、昨日インスピレーションで浮かんだ所に行こう。早い時間に待ち合わせたのも、それが狙いだから。プライベートで女性と2人で行動するのは、夕起さんとミド以来。内心胸が躍った。そのくらい僕は異性とは縁遠い男なのです……。


 山手線内回りで品川に向かい、そこから熱海行きの列車に乗った。

「訊いても教えてくれないみたいだね?」

「着いてからのお楽しみ、か解らないけどヒント。チハルさん歴史好き?」

「チハルで良いよ。歴史は戦国時代ならちょっと好きだけど」

「なら良かった」

 チハルは子細ありげそうな反応を示したが、職業柄調子を合わせただけかもしれない。

「ユウって作家になって何年目?」

 ユウって……。


「1年目」

「じゃあゴールデンの番組とかは任されないね」

「キー局はね。発展出来るよう、努めております」

 チハルは「ガンバレ!」と言って微笑んだ。

「でも会議とか長いんでしょ?」

「そう。朝から晩まであっちで拘束されこっちで拘束され。それでも時給に換算したら、コンビニのアルバイトより安いと思う。終電乗れなかったら、事務所に泊まり込んでるよ。タクシー代勿体ないし」

「身体壊さないでね」

 チハルは神妙な顔をして、オレの左膝に手を置いた。


「ありがとうございます」

 笑顔で励ましてボディータッチで気遣う。キャバクラの基本的な営業技術ですね。

「この前風俗嬢の友達がいるって言ってたけど、キャバから風俗に転身する人、増えてるみたいだね?」

「うん。私みたいに兼業の子もいる。景気悪いとキャバの世界も厳しくなるから。「儲かってるね」って言ったけど、ドレスとか髪のセットで出て行くお金も大きいんだよね」

 じろっと目を合わせて来た。


「それは、キャバとAVってだけで言っただけだから……」

 浅はかな発言でございました。リーマン・ショックもあったしね。思わず外に目をやった。


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