交際
取材を終え、彼女は出て行った。オレ達は少し座談会のような事をした後、AVスタッフに挨拶をしてスタジオを出た。外に出ると、空はすっかり暗くなっている。夜風の心地良さを感じながらワゴン車に乗ろうとした時、
「ちょっとあんた!」
大声が聞こえ、全員が声のした方に目をやった。最後に取材した女優が、缶チューハイ片手に近付いて来る。
「あんただよあんた!」
状態から見て一缶目ではないだろう。酒癖の悪い人間は苦手だ。さっさと車に乗ってドアを閉めようとした。が……。
「ちょっと逃げないでよ!!」
左腕を掴まれた。
「お前何かしたんだろう」
運転席の秋元さんがにやにやして訊く。助手席の田村さんは「言わんこっちゃない……」といった表情。 陣内さんと真崎さんは「知~らない」といった表情。
「何であんな事したのか説明してよ!」
彼女に腕を引っ張られ、仕方なく車から降りた。
「今日はこれで解散だから」
陣内さんがオレに耳打ちしてドアを閉めると、何とエンジンが掛けられ出発してしまった。「薄情者!」と言いたい所だが、こうなったのは自分のせい。観念して彼女と向合った。
「何本目ですかそれ? 大分酔ってるみたいだけど」
顔の色が、着ている赤のカーディガンに負けないくらいだ。
「3本目。そんな事どうでも良いでしょ」
独りでそんなに……余程癇に障ったのだろうけど、只の酒好きかもしれない。
「立ち話もなんだから、何処か入りましょう」
同意を得ずに歩き出した。通行人はそんなにいなかったが、やっぱり周りは気になる。彼女も黙って歩き出した。駅近くのカフェに入り、二人でアイスコーヒーを注文した。彼女は「そろそろ説明してよ」と訊きながら、タバコに火を点ける。
「ほんの遊び心です」なんて言ったら、タバコどころか全身に火が点くな……。
「でも、美男子と絡めたでしょ?」
「そんな問題じゃない!」
「じゃあ、おっさんの方が良かった?」
彼女は「それは……」と訥弁になったが、直ぐに顔をにやつかせた。
「でも見たでしょ? 私の身体。AVのスタッフでもないのにさ」
「まあ、確かに……」
オレが訥弁になってどうすんの……。
「お詫びにデートに誘ってよ」
「はっ? デート!?」
なんじゃい? その推測不明なお詫びは。
「そう。何処に行くかは任せる。その日に決めたって良いし」
そう言うと、彼女はハンドバッグから名詞を取り出し、スマートフォンの番号と一応メールアドレスを書いて差し出した。<文京区 Club Soft チハル>……。
「あんた名詞は?」
「生憎持っていません」
嘘。正式採用になって直ぐに百円ショップで名刺入れを購入し、十数枚は入っている。
「しょうがないなあ」
彼女はもう一枚名詞を取り出すと、裏返しにしてペンと一緒に渡して来た。
「これに連絡先書いて」
マジかよ……。この女アルコールのせいもあるのだろうけどガチだな。出鱈目に書いてやろうか、とも思ったが……。
「解ったよ」
リュックから名刺入れを取り出し、
「はい。これがオレの名刺」
愚直にも……というか、押しに負け出してしまうオレのメンタルの弱さ……。
「何だ持ってんじゃん」
「それよりあんたキャバ嬢?」
「そう。AVは副業。あんたもテレビ局関係だとは思ってたけど、放送作家だったんだ」
キャバ嬢が眼前に……。何度か連れられてキャバクラには行ったけど、自分からはまず行かない。
「まだ成って間もないけどね……キャバだと、オレよりは儲かってるね」
チハルは「そうでもないけど」と淡白に答えた。まっ、AVのアルバイトをするくらいだし、歌舞伎町とか六本木ではないからな。
今日はこれにてお開き。チハルの提案で割勘にして帰った。




