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Femto Boy  作者: 弘田宜蒼
38/41

交際

 取材を終え、彼女は出て行った。オレ達は少し座談会のような事をした後、AVスタッフに挨拶をしてスタジオを出た。外に出ると、空はすっかり暗くなっている。夜風の心地良さを感じながらワゴン車に乗ろうとした時、

「ちょっとあんた!」

 大声が聞こえ、全員が声のした方に目をやった。最後に取材した女優が、缶チューハイ片手に近付いて来る。


「あんただよあんた!」

 状態から見て一缶目ではないだろう。酒癖の悪い人間は苦手だ。さっさと車に乗ってドアを閉めようとした。が……。

「ちょっと逃げないでよ!!」

 左腕を掴まれた。

「お前何かしたんだろう」

 運転席の秋元さんがにやにやして訊く。助手席の田村さんは「言わんこっちゃない……」といった表情。 陣内さんと真崎さんは「知~らない」といった表情。


「何であんな事したのか説明してよ!」

 彼女に腕を引っ張られ、仕方なく車から降りた。

「今日はこれで解散だから」

 陣内さんがオレに耳打ちしてドアを閉めると、何とエンジンが掛けられ出発してしまった。「薄情者!」と言いたい所だが、こうなったのは自分のせい。観念して彼女と向合った。


「何本目ですかそれ? 大分酔ってるみたいだけど」

 顔の色が、着ている赤のカーディガンに負けないくらいだ。

「3本目。そんな事どうでも良いでしょ」

 独りでそんなに……余程癇に障ったのだろうけど、只の酒好きかもしれない。

「立ち話もなんだから、何処か入りましょう」

 同意を得ずに歩き出した。通行人はそんなにいなかったが、やっぱり周りは気になる。彼女も黙って歩き出した。駅近くのカフェに入り、二人でアイスコーヒーを注文した。彼女は「そろそろ説明してよ」と訊きながら、タバコに火を点ける。


 「ほんの遊び心です」なんて言ったら、タバコどころか全身に火が点くな……。

「でも、美男子と絡めたでしょ?」

「そんな問題じゃない!」

「じゃあ、おっさんの方が良かった?」

 彼女は「それは……」と訥弁になったが、直ぐに顔をにやつかせた。


「でも見たでしょ? 私の身体。AVのスタッフでもないのにさ」

「まあ、確かに……」

 オレが訥弁になってどうすんの……。

「お詫びにデートに誘ってよ」

「はっ? デート!?」

 なんじゃい? その推測不明なお詫びは。

「そう。何処に行くかは任せる。その日に決めたって良いし」

 そう言うと、彼女はハンドバッグから名詞を取り出し、スマートフォンの番号と一応メールアドレスを書いて差し出した。<文京区 Club Soft チハル>……。


「あんた名詞は?」

「生憎持っていません」

 嘘。正式採用になって直ぐに百円ショップで名刺入れを購入し、十数枚は入っている。


「しょうがないなあ」

彼女はもう一枚名詞を取り出すと、裏返しにしてペンと一緒に渡して来た。

「これに連絡先書いて」

 マジかよ……。この女アルコールのせいもあるのだろうけどガチだな。出鱈目に書いてやろうか、とも思ったが……。

「解ったよ」

 リュックから名刺入れを取り出し、

「はい。これがオレの名刺」

 愚直にも……というか、押しに負け出してしまうオレのメンタルの弱さ……。


「何だ持ってんじゃん」

「それよりあんたキャバ嬢?」

「そう。AVは副業。あんたもテレビ局関係だとは思ってたけど、放送作家だったんだ」

 キャバ嬢が眼前に……。何度か連れられてキャバクラには行ったけど、自分からはまず行かない。

「まだ成って間もないけどね……キャバだと、オレよりは儲かってるね」

 チハルは「そうでもないけど」と淡白に答えた。まっ、AVのアルバイトをするくらいだし、歌舞伎町とか六本木ではないからな。


 今日はこれにてお開き。チハルの提案で割勘にして帰った。


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