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Femto Boy  作者: 弘田宜蒼
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永遠の別れ

「突然の発表で申し訳ないんだけど、村上奈美ちゃんは23日の放送で降板します」

 『カフェラテ』の下平プロデューサーは、神妙な面持ちで言った。3月中旬の土曜日。会議が終わり、解散直前での事だった。


「実は年明けから体調が悪かったらしくて、暫く休養に入りたいって(所属事務所から)打診があったんだよ」

 降板なら普通、2、3ヶ月前には発表されるが、急で唯々びっくりした。他の人もそうだったらしく、二十畳弱の会議室は静まり返った。


 病名は明されなかったが、今まで気付かなかった自分が悔しい。この間のロケの合間、村上が疲れた表情でベンチに座っていたのを思い出した。その時は敢て声を掛けずにそっとしておいたが、様子がおかしいと思ったのはその一回だけだ。


 でも正直、日々先輩達から技術を盗もうとし、ロケに出れば、ナレーションのネタになるものを見付けようと必死で、彼女の様子にまで目が回らなかった。

 オレは何一つ村上奈美の事を見てはいなかったのだ。それが悔しい。


 20日のロケから、新人アイドルのあおばが後を承け、30日の放送から出演する事になる事も発表された。


 23日の『カフェラテ』の本番。村上奈美はいつも通り笑顔を振り撒いていたが、中々声を掛ける事が出来なかった。勝手な推察だが、彼女は休養=仕事に穴を開ける事を忌嫌う人だと思う。そう思うと変に意識し、近寄り難かった。


 戸田ディレクターと加藤さんは何事もなかったような顔付で、本番前の打合せ中も淡々としていた。

「っさ、そろそろエンディングなんですが、今日で奈美ちゃんが卒業という事になりました」

 CM明け、MCの松村乱が視聴者に向け発表した。

「はい。一年半『K・D・S』のコーナーを担当させて頂いて、本当に楽しかったです。ありがとうございました」

 

 休養に入る事には一切触れず、村上奈美は松村から花束を受け取った。もう一人のMCの中野涼子アナは、

「本当にお疲れ様でした」

 花束を渡しながら涙を浮かべていた。

「ありがとうございます」

 村上も目が潤んでいる。スタジオのスタッフから拍手が沸き起こり、そのまま放送は終わった。


 終了後、彼女の楽屋に向かう。いつもなら、「お疲れさまー」と挨拶し、軽く会話をして「じゃあ、来週のロケ宜しく」と言って別れる。だが、今日は緊張している。固い表情のまま入らないように、入口前で笑顔を作ってノックした。


「お疲れ様」

「お疲れ様。これからも頑張ってね」

 彼女は笑顔で言ってくれた。本当は、オレが先にお礼を言わなければいけなかった。


「どうかゆっくり静養してください。そうする事が、また仕事をバリバリやれる事に繋がると思うから」

「ありがとう……戻って来たら、また一緒に仕事したいね」

「そうだね。楽しみにしてる」

 やっと彼女と笑顔で会話が出来、充実感に浸った。


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