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Femto Boy  作者: 弘田宜蒼
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逃げ場

 新年1月4日土曜日。陣内さんが「年明けなら」と了承してくれた事により、『ルーム ナイト』の放送と『カフェラテ』の会議が休みの今日、引っ越しを実行する事になった。

 運良く夕起さんとも連絡が着き、もう1人男性が必要だろうと、陣内さんが友達の若手ディレクターの山下さんを呼んでくれた。舞田にも声を掛けたが、栃木の実家に帰ると断わられていたので助かった。


 午前8時に夕起さんが、9時にレンタカー屋で貸りた4tトラックに乗って、陣内さんと山下さんが我が家に到着した。新年早々集まって頂いた事に対し、誠心誠意お礼を申し上げる。

 

 今日、小枝子は仕事でいない。

「食いっぱぐれになったらどうするの!?」

と言って最後まで引っ越しに反対していたが、時間が経って諦めがついたのか、

「洗濯機と電子レンジは買ってあげる」

 と言い出した。昨日現金で7万円を渡された時、ありがたいが申し訳なさも込み上げ、胸が締め付けられた。


 譲一は家にいたが、お三方が挨拶しても「息子を宜しくお願いします」と言ったきりで、手伝う気ゼロのようだ。

 秋久も「勉強があるから」と言って、朝食後に部屋に籠もった。


 簡単な掃除をしながら4人でトラックに荷物を運び、積み終わった頃には正午を回っていた。食器は家の物を勝手に拝借した。

 家を出発する時、「行って来ます」と譲一に一声掛けた。譲一は「ああ」と言っていつも通りだったが、

「たまには帰って来いよ。お母さんも心配だろうからな」

 ともう一言。この人、家族を顧みないふりをしているだけなのか? 意外な言葉に驚いた。


 オレは夕起さんの車で移動し、自宅アパートのある市に入った所で、スーパーで弁当を買った。

 そしてアパートに到着。築20年でオレの部屋は1階。1Rでクローゼットが1ヶ所あり、小型の冷蔵庫とエアコンが備付けられている。

「結構日当たりが良いね」

 陣内さんが窓を開けながら言った。


 駅までは徒歩10分。礼金はなく、敷金と1月分の家賃はなけなしの貯金から払った。

 荷物を入れる前に弁当を食べ、小休憩の後、作業開始。女性に床を拭いて貰いながら、男2人で荷物を運び入れた。ある程度終わった時、

「テレビとかはどうなってるの」

 夕起さんに訊かれた。

「おいおいですね」

「仕事柄あった方が良いんじゃない?」

 オレが「うーん」と唸っていると、夕起さんは笑顔で立上がった。

「良いよ。私からの引っ越しのお祝い」

「家電量販店行って来なよ。私片付けやってるから」

 陣内さんのお言葉に甘え、トラックで家電量販店に向かった。小枝子からの小遣いで一番安い洗濯機と電子レンジ、炊飯器を。夕起さんからは、テレビとブルーレイレコーダーを買って頂き、全てトラックに積んだ。


「出世払いで良いから。いつか美味しい物でも奢って」

 夕起さんは腰に手を当てて言った。

「この人には頭上がんないな」

 と山下さん。仰る通り。

 片付けと掃除が大方終わった頃には、18時を回っていた。山下さんが打上をやろうと言い出し、近くの居酒屋へ行く事になった。夕起さんは18時から打合せが入っているとの事で、一足早く抜けている。


「自分の家を持ったんだから、これからが勝負よ!」

「そうだぞ。今の気持ちを忘れずに邁進しないとな!」

「はい!」

 正直プレッシャーも不安もある。でも、それを良い緊張感にして行きたい。

「ここ笊蕎麦あるじゃん。引っ越し蕎麦に良いんじゃない?」

 陣内さんの勧めで蕎麦を啜った。


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