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Femto Boy  作者: 弘田宜蒼
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出会うべきではなかった・・・

 溯る事2年前――

 オレは私立東明館大学の学生だった。定時制での高校生活を過ごした後、国立大学と私立を受験し、見事? 東明館大学の文学部史学科に合格した。

 定時制と合わせて通信制も受講した三年間、学校を除けばたまに単発のアルバイトをするくらいで、後は引き籠もり同然に過ごした。金はないが暇はあった訳で、受験勉強をする時間には事欠かなかった。

 

 史学科を受けたのは、小学六年の時に社会科の授業で日本史を習ってから、特に戦国史が好きになり、漠然とそっちの道に進みたいと思ったからだ。

 人生の分岐点で安易な決め方をすると、後にそれはそれは「イッテーー!!」目に遭う。

 

 確固たる志もないまま始まった大学生活。2ヶ月間は友達もいない「仮面一匹狼」で、キャンパスライフを謳歌する片鱗は微塵もなかった。

しかし、3ヶ月目に入った6月上旬。


「そこの席空いてる?」

授業開始前、男に声を掛けられた。オレは真ん中の列の通路側に座り、右に二席空いていた。「はい」と返事をすると、男は「サンキュー」と言いながら連れ立っていた女と座った。

隣に座った男の身なりをチラ見。平たく言えば、チャラい、といっても良いでしょう!

やがて授業が始まったが、隣の男女はペチャクチャお喋り。


「あのセンコー、桃屋のキャラに似てね?」

「えー。マス夫さんじゃない?」

おいおい。教授のお話を聞けや! そうは思いながらも、改めて教授の顔を見てみると、確かにどちらにも似ている。不覚にも「んぐ」と鼻で笑ってしまった。

「ね。似てるよねえ」

鼻で笑った音を聞き逃さなかった男が訊いて来た。

「五分五分だね」

そう答えながら今度は女をチラ見。ショートカットでボーイッチュな感じ。それにノリも良さそう、と判断しても良いでしょう!


 男の名前は舞田尚之。女は藤崎美登里(みどり、あだ名はミド)。予想した通り、舞田はチャラ男。ミドは誰とでも気さくに接し、ポジティブな性格だった。

2人は同じ中学に通い、高校は別々だったが、大学で偶然再会した。学部・学科も同じで、恋愛映画であれば奇跡と演出される所だろうが、当時舞田には彼女がいた。


 舞田はオレとミドより一つ上で、一年浪人しての入学。ミドは中学時代少しやんちゃだったそうで、全日制の高校を拒否し、通信制高校に入学した。「別に不良じゃないから」とは言っていたが、アルバイトをしながら学校に通い、一念発起して大学に合格したのだから凄い。


 2人と出会った事で、オレの大学生活は一変……は過言。0・5変する。

 3人でカラオケに行き、踊りはしなかったがクラブにも行った。たまには別の所で遊ぼうと言うミドの提案で、ゴルフ練習場にも行った事がある。舞田とは日雇いのアルバイトもした。


 2人と行動を共にしていると、一つ一つが新鮮で、楽しい時を過ごせた。

でも、時を重ねて2人には別の友達が出来、ミドにも彼氏が出来て、3人で遊ぶ事は少なくなって行った。          


 オレは人見知りと社交性のなさから、2人以外に友達は増えなかったが、二人と関係が途絶えた訳ではなかったので、特に寂しいとは思わなかった。


 大学4年になった、4月中旬の土曜の午後。舞田から電話が掛かり、

「ユースケ、久しぶりに行っちゃわない?」

 とクラブに誘われた。とっくに就職活動に入り、遊んでいる暇などない筈だが、週末だったので、

「はいはい。行っちゃいますよ」

 軽く承諾した。

 

 18時過ぎに六本木に行ってみると、舞田の他に、ミドと彼女の女友達2人が来ていた。

入口でIDチェックなどを済ませ中に入ると、4人はフロアーに出て踊り始める。舞田は直ぐに目当ての女性を見付け、リズムを取りながら声を掛けている。オレはカウンターで軽くリズムを刻み、2、3時間場の雰囲気を堪能したら帰ろうと思っていた。


「望も踊らない?」

三つ離れた席に座っていた女性に、友達と思われる女性が声を掛けた。

「うん。私はいい」

 ノゾミと呼ばれた女性が答えると、友達は「そう」と言ってフロアーに戻って行く。これが、早稲田望という人を最初に見た瞬間。色白で、サラっとしたロングヘアーの早稲田が気に留まった。だが、流石にガン見する訳にもいかず、気持ち悪いと自覚しつつチラチラ見て現を抜かした。


 その時、後ろから急に肩に手を回された。

「ユースケもたまには弾けちゃえよ!」

 振り返ると、舞田が知らない女性を連れている。

「望もだよ!」

 女性はさっきとは別の早稲田の友達だった。

「私はここで飲んでるのが好きなの!」

 勝手な推察だが、早稲田も進んで踊ったり人に声を掛けて行くタイプではないようだ。


「オレは場に慣れたら適当に動くから」

 オレがそう言うと、

「リズムに乗ってるだけでも良いんだよ。お二人さん」

 早稲田の友達が言った。舞田も「そうだぞ!」と言って、オレの肩を『ポン』と叩く。苦笑して早稲田の方を見ると、にっこりして会釈してくれた。

「気になるならガンガン声掛けちゃえよ」


 舞田が耳打ちしたが、会釈されただけで結構胸が一杯だった。完全な一目惚れ。この瞬間から呼吸が早まった。確かに声は掛けたいが、何を話せば良いのやら……。それ以前に、緊張してろれつが回りそうにない。


 舞田達がフロアーに戻って20分くらいが経ち、

「暑くないですか? ここ」

 途中で噛まないように、徐に言った。クラブの中は冬でも暑いくらいだ。

「そうですね。熱気がムンムンしてる」

「こういう所はがらがらって事ないでしょうしね。よく来るんですか?」

「いえ。さっきの友達に誘われて。でも彼女みたいには出来ませんね」

「オレもそうです」


 結局、この日はこれが精一杯だった。気持ちがアップしたのかダウンしているのか、何とも微妙な感じで、舞田に「先に帰る」と告げて帰った。

もう会う事はない。この時はそう思っていたのだが……。


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