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Femto Boy  作者: 弘田宜蒼
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憾み

『原宿表参道にはワセダノゾミちゃんがいます。ノゾミちゃーん!』

 12月に入った平日の18時過ぎ。普段は聴かないラジオに何気なく電源を入れ、ベッドに寝そべっていた時、女性DJから発せられたワセダノゾミという名前に、近頃運動不足のせいで患っている腰痛も忘れ、素早く起き上がった。


『はーい。私は今表参道のケヤキ並木に来ています。先月30日からケヤキ並木のイルミネーションが始まりました。今年は90万個の電球が153本のケヤキを彩り、幻想的な夜を演出しています』

 ワセダという人の声を聞き、獲物に襲い掛からんとするライオンのように、ラジオに向かって四つん這いになっていた。


????……。自分でも何故こんな体勢になったのか説明がつかないが、そのくらい衝撃を受けた。

 オレの心境とは裏腹に、ラジオの中では女性二人の会話が続く。

『私もたまにケヤキ並木を車で通るんだけど、運転しながらでもうっとりしちゃうんだよねえ』

『本当にそうですよねえ。私もロマンチックな気分になって見惚れてしまいました。去年は一千万人以上が訪れたそうなんですが、今年はクリスマスまで1ヶ月を切ったこともあり――』

 

 四つん這いになって数分。ずっとラジオを凝視している。いつまでこの体勢でいるんだよ……。我に返り、直ちにノートパソコンの前に座り起動させる。立ち上がるまでが何とももどかしく、貧乏揺すりが止まらない。

 やっとデスクトップの画面が出てネットに繋ぎ、さっきの名前を検索する。その名前は芸能プロダクションのホームページの中にあった。クリックすると、にこやかに微笑んだ宣材写真が現れる。早稲田望。間違いない。


「アハーーアー」

 「ア」なのか「ハ」なのかはっきりしない呻吟をして頭を抱えた。悔しさと、信じたくはない現実……。今頃悔しがっても遅い。忌まわしいあの人の声が蘇る。

『彼、何にもなさそうなんだよね。将来の目標とか――』

 顔を上げ、改めてページに目を通す。

『癒しのナレーションならお任せ!!』

 太字で書かれたキャッチフレーズの下に、簡単なPRが載っている。

『ナレーションスクールで正しい発音を身に付け、アルバイトで笑顔を身に付けました。他の人にはない、自分のカラーを持ったナレーターを目指しています』

僕はここ最近、笑顔を失っています。

 そして、主な活動が紹介されていた。イベントコンパニオン・イベントMC・リポーター。

 

 始めは心が大きく揺蕩していたが、観ている内にスーっと落ち着いて行く気がした。頼むからこのままの状態でいてくれ!


 翌日の午前9時過ぎ。外からはもがり笛が聞こえる。平静を願って就寝したものの、目覚めれば反故同然。歯痒いというのか、腹の底で何かが涌いているような感じがして、のたうち回りたくなる。

 元はといえば、こんな気分を味わうのも全部自分のせい。自業自得なのだ。


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