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Femto Boy  作者: 弘田宜蒼
19/41

内気

 構成会議でも発言出来ない状態が続いた。

「見習とは言え「作家」なんだからな」

 ディレクターに言われ、「作家」という言葉に悦に入る一方、落胆する。頭に言葉が浮かんでもそれを口に出来ない。思わず隣の陣内さんの顔を見てしまうが、フォローはしてくれず、笑って誤魔化すしかない。


 しかも、会議中にスマートフォンが着信音を鳴らした。幾つもの目がジロッとオレに集まる。

「……済みません」

 見るからに面目ない顔をして電源を切った。

 18時過ぎに事務所に戻るなり、オフィスエリアから外に出て一人タバコを吸った。他の人達は皆仕事に没頭している。一々心理状態に任せて一服する人はいない。


 欄干にもたれ掛かり、下を向いて紫煙を吐き出す。7階は結構たけーなあ。高所恐怖症の自分には、バンジージャンプは疎か、飛降り自殺など出来ようものか……。でも、何で人間は落込むと下を向きがちなのか? 上を見上げる。真っ暗。こんな空でも、見ていれば気持ちが明るくなるのかい?

 

 暗い顔をしていると、不幸の神様がやって来る。大分前に聞いた話。

「人間様は大変だねえ。落込んでも笑ってなきゃいけないんだからさっ……」

 『ガラガラ』。戸が開く音がして、「お疲れ様です」と振返りもせず、遠くの東京タワーを見詰て言った。『コツコツ』。足音が近付き、東京タワーがジュースの缶で隠れた。右を向いたら、陣内さんだった。

「挨拶する時は相手の顔見たら?」

 陣内さんはオレにジュースを渡しながら言った。


「済みません。ありがとうございます。話題になってますよね? これ」

「CMが目を引くからね」

 今年の3月から発売された無色透明のコーラ。ジャーナリストが出演するニュースリポート風のCMがセンセーショナルで、話題を呼んでいる。

「あんまり気にする事ないって。今は無理でも、その内発言出来るようになるから」

「そうですかねえ……」

 とことん弱気だった。

「そんなんでどうするの!」

 陣内さんに背中を叩かれる。


「まずは相槌とか、笑顔から始めて行ったら? 無表情だと参加してないみたいだから。暗い顔からは面白い案は浮かばないよ」

「はい……」

 その通りだ。笑顔は提供して貰うものではなく、自分から出して行くもの。

「それと、スマートフォンはマナーモードにしておく事」

「そうでした」

 忘れない内に、その場で設定した。


「私ね大学の頃、弁護士秘書を目指してたの」

 放送作家の経歴は、元芸人・キャンペーンガールに元ヤンキーと様々だ。

「数十箇所の事務所で面接受けたんだけど、中々雇って貰えなくてね。そんな時に、夕起が人気風俗嬢としてテレビで特集されたの」

「観た事ないですけど、一本じゃないとか」

「多分、3、4番組だと思う。当時はまだ一緒に住んでて私の状況をよく知ってたから、ある番組のディレクターさんに私の事を話したみたいなの。それでそのディレクターさんが「放送作家なんてどう?」って言ってくれて、紹介されたのが坂木社長だったの」


「きっかけは夕起さん、ですか」

「私も君も夕起には頭上がんないね。学んで来た分野とは全く違うけど、弁護士秘書も文章を書いたり、推察するセンスが必要だから、何事も挑戦だと思って事務所に入った。とはいえ、私も最初は戸惑いばかりだったよ」

「どうやって乗り越えたんですか?」

「飛行機ってさ、離陸する前に滑走するじゃない? それと同じで、人間も羽ばたくまでには滑走する時間が必要。そう思って乗り越えた。アルバイトもしてたから、睡眠時間も3時間くらいで体力的にもきつかったけどね」


「オレは、その滑走路にいる」

「そうよ」

 陣内さんはオレを指差し、

「考えたってしょうがない!」

 こう言い残して中に入って行った。それは無色透明なコーラのCMのキャッチコピー「考えたってしょうがない。飲んで頂ければ、解ります」だ。


 確かに、ここで諦めたら今まで頑張った証も、夕起さんと陣内さんの力添えも無駄にしてしまう。

 考えたってしょうがない。続けていれば、解りますっか……尻を『パンッ』と叩き、一息吐いて中に入った。


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