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Femto Boy  作者: 弘田宜蒼
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ロースタート

「何処で何やってたの!?」

「だから友達んちに行ってたんだって!」

「一週間も人様のうちに迷惑掛けてた訳!?」

 夜になって帰宅すると、待ち構えていた小枝子にリビングに引摺り込まれ、問質される。

「そいつは一人暮らしなんだよ」

「そんな問題じゃないでしょ!?」

「っち。もう良いだろう! うるせえな」

 譲一がうんざりした様子で言った。小枝子はそんな夫を一瞥し、大きく溜息を吐いた。

「そうね。あんたはもう子供じゃないもんね」

 口は皮肉。顔は嫌味たっぷり。小枝子は立上り、夕飯の支度を再開した。


 1月30日。今日から陣内さんからの連絡を待つ事になる……が、気持ちは低空飛行なり。何にしてもそう。転換期が訪れるとうつが始まる。

 現実逃避の為か、気だるさと眠気を感じるが、横になっても気が立って眠れない。全く、何の為に薬を飲んでいるのやら……。

 横になったままスマートフォンを手に取った。この15センチ強の物体に精神を左右されるとは……ここ最近、残念な連絡ばかりを受取りトラウマになっていた。


 2月上旬の土曜日の夕方。遂に陣内さんから電話が入った。

『社長と会う前に、私が担当するラジオのスタジオに来て欲しいの』

「いつですか?」

『今日』

「今日、ですか……」

 自分からお願いしたくせに戸惑ってしまう。

『そうですよ。都合悪いの?』

「いや……」

『だったらおいでよ。そんな受身じゃ作家には成れないよ!』

 真剣な声で指摘され、やっと我に返った。落着きと清楚さを兼ね備えた女性……と思っていたが、存外苛烈で勝気な人なのかも。まあ、放送作家ってそういう業界なんだろうけれど。

「分かりました」


 ラジオは21時からの生放送。本番30分前にラジオ局に来てとの事だったが、1時間前には着いた。タバコを吸い、音楽を聴き、局の周りをうろうろして腕時計を見たら、25分が経っていた。安定剤を一錠飲み、陣内さんに電話を入れて玄関まで迎えに来て貰った。

 受付で入構証を貰って中に入る。初めての放送局に周りをきょろきょろ見ていると、

「私が紹介したら皆さんに元気良く挨拶して」

 念を押された。早速「はい!」と1オクターブ上げて気を引締めた。


「まだ良いから」

 苦笑される。

「喉を慣らす為です」

「まあ普段から意識するのは良い心掛けだね。感心する」

 陣内さんの表情が苦笑から惚けた笑みに変わった。目が「それで良し!」斗言っているように見えた。


 3階にあるブースに入った。

「石倉さん。この子、お話した中山君です」

「中山裕介です! 宜しくお願いします!!」

 石倉さんと呼ばれた男性に深々と頭を下げた。

「そんなに畏まらなくて良いから」

 また苦笑された。

 暫くして中年女性が入って来た。多分、陣内さんが「プロデューサーの人だから」と耳打ちした。耳打ちされた事を失念する程、オレの緊張はMAXに達している。

 陣内さんに紹介され、挨拶する。

「緊張しなくて良いから。確り見て行きなさい」

 優しく言って貰えた。

「はい!」


 本番直前、陣内さんが「ここで見てて」とパイプ椅子を用意してくれた。スタジオの隅に座り、陣内さんはブースに入る。

「本番10秒前ー……8、7ー6、5秒前ー4、3、2……」

 ディレクターのカウントと共にテーマ曲が流れ、放送が始まった。

「ゆとりのある土曜の夜、皆さん如何お過ごしでしょうか? こんばんは、YUKAです。今日東京は晴れてましたけど、北風が強くて寒かったですね。全国的にも――」

 陣内さんと同世代と思われる女性DJが送る番組。今年で4年目に入るそうだ。今日から、所謂「職場見学」が始まった。


 陣内さんが担当するラジオ2本、テレビ3本のスタジオ、構成会議に出向き、隅っこで見学する。会議や本番は大抵午後から。無職な立場も手伝い、時間には融通が利いた。


 スタジオは収録現場を見て感覚を掴むだけだが、会議はカルチャーショックだ。特にバラエティの会議は全員明るいし、テンションが高いの何の。


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