本物登場
監禁3日目となる1月下旬の土曜日。情報番組を観ながら朝食のパンを齧っていると、夕起さんからメールが届いた。今日の夕食を届ける時に、友達の放送作家を連れて来るとの事。読んだ瞬間から緊張し、心は大きくに揺蕩させられ脇から脂汗が流れる。さあ、3日間で書いた企画書がどう判定されるのか?
夕起さんは1日一回は顔を出し、二、三食分の弁当やパン。スナック菓子を届けてくれる。飲み物は、集団待機室にあるお茶やコーヒーを失敬していた。
18時過ぎ。夕食の牛丼弁当を持った夕起さんが、友達の作家さんを連れてやって来た。
「彼女が美貴。前に話した事あるよね? 一緒に住んでたって」
「ああ、はいはい。初めまして、中山裕介です」
陣内さんは「初めまして」と言いながら名詞を差出してくれた。『放送作家 陣内美貴』。名刺を手にして初めて本物の放送作家なんだと自覚する。
夕起さんと比べると、落着きと清楚さを兼ね備えた女性……に、オレには見えた。
「夕起からずっと噂は聞いてたよ。こんなとこに監禁されちゃって、君も大変だね」
にんまりとして言われ、「ええ、まあ……」と苦笑するしかなかった。
個室は狭いので集団待機室へ移動し、企画書を採点して貰う。
「ごめんね。ちょっとの間声のボリュームを下げてくれる。向こうで大事な話をするから」
夕起さんが待機室にいるコンパニオン達に声を掛けた。中には初日に見たセイラという人もいる。
「分かりました」
皆素直に従ってくれる。きっと夕起さんは良い先輩だったのでしょう。
陣内さんはコーヒーを一口飲むと、企画書に目を通し始めた。暫し沈黙が流れる。緊張の為、コーヒーが進んだ。
最後の一枚を読み終えた陣内さんは、頷きながらテーブルの上に置いた。
「内容は分かった。面白そうなのもあるけど、全体的にこの企画は既存のものと何が違って何が狙いなのかを、もっと明確にする必要があるね。それと、放送時間と主要なキャストも決めないと」
素直に受入れ、メモを取った。
「今度来るまでに手直しと、新しい企画を幾つか考えてみて」
「はあ……」
「「はあ」じゃなくて「はい!」でしょ」
「済みません。何が良いか考えてたもので」
「私は優しいよ。年配の人だと「百個考えて来い!」とか言う人いるんだから」
「百個も!?」
夕起さんがオレより早く目を丸くした。
「それも一晩でね」
オレも夕起さんと、同じ気持ち。
「今「えー!?」って思ったね?」
陣内さんが鋭い目で指摘して来た。
「私も最初はそうだったから気持ちは解るよ。でも企画を量産する事が求められる仕事だから」
優しい口振りの中に厳しさが滲む。
「はい。分かりました!」




