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Femto Boy  作者: 弘田宜蒼
11/41

監禁プレー

 3日後の水曜日。17時54分、夕起さんからメールが入った。

『急で悪いんだけど、明日ちょっと会えない? この前のカフェで同じ時間に。手ぶらでも良いからさ』

 丁度オリジナルの企画書を書いていたので、承諾の返信をした。

 2時間後にまたメールを受信し、スマートフォンがバイブする。

『良かった。それとさ、どんな薬飲んでるのか参考にしたいから見せてくれないかな?』

 何の参考だ? 小説のネタに使うのか? 解らないが、

「持って行きます。じゃあ明日」

 と返信した。


 翌日、書き掛けではあったが、企画書と薬を持参して原宿に向かう。カフェに入り、コーヒーと、今日はチョコレートパフェも注文した。

「書き掛けだけどこれ、見て貰いたいんですが」

テーブルの上に企画書を置いた。

「『この世に埋もれた殿方』……」

 夕起さんが目を通し始める。


『いつの時代にも、各分野で現れる主役達。そして、周りには脇役がいる。

 この番組は、映画やドラマでいつも脇役にされている人物に、敢えてスポットを当ててみようという番組である』

「うーん。もっと内容を詰めれば面白いかもしれない。でもさ、この手の番組って過去にもあるじゃん? そういう番組と何処が違うのか、はっきり区別しないと企画は通らないと思う」

「なるほどお」

「所でさあ、この前面接受けるって言ってたとこ、どうだった」

 思い出したくもない事を、思い出したように訊かれ、無言のリアクションで首を振る。

「駄目だったんだ。お金はないけど暇はあるってやつ?」

「……そうなりますね」

 情けないが現実だ。


 夕起さんが「出よっか?」と言って席を立ち、会計を済ませる間、オレは外で待った。夕起さんは外に出て来るなり「じゃ、行こっか?」と言った。

「行くって何処に?」

「まあ付いて来なさいな」

 そう言いながらオレの肩と腕を掴んだ。なーんか不穏な空気を感じる。その状態のまま駐車場まで行き、仕方なく助手席に座った。


『バタン!』と音を立てて閉まるドア。夕起さんが運転席のドアをロックすると、残りのドアにもロックが掛かる。エンジンを掛ける前、オレの眼前に黒い物を差し出した。アイマスク……。

 夕起さんは子細ありげな笑みを浮かべ「着けて」と言った。薬を持って来いって言う時点から嫌な予感はしていた。こういう予感だけ、なーんで的中するかなあ……。


「何で着けなきゃいけないんですか」

 努めて冷静に訊いた。素直に従う方が変だ。

「良いから」

 夕起さんは尚も笑顔だ。

「車から見る街の風景が好きなんですよ」

 従うつもりはないと意思表示する。すると「着けなさいよ!」と、笑顔を消して返って来た。この人が真顔で強い口調の時に抗うと危ないという事をオレは知っている。だからアイマスクを受け取り着用した。身の安全を考えたら、従わざるを得ない。


 2、三30分くらい走った後、車は停まった。夕起さんが助手席のドアを開け、

「手を繋いどけば大丈夫だから」

 オレの左手を握った。この状態で歩かされんのか……。それに、こんな場面、汐留の某キー局の企画で観た事あるような気がするんですけど……。

 当然何処なのか解る筈がない。「大丈夫だから」と言っておきながら、段差があるとは教えてくれず、ズッコケそうになった。夕起さんは「っあ、ごめん」とライトな謝り方。


「テレビに出て多少なりとも顔を知られてる人が、良いんですか? こんなとこ見られて」

 まだ明るい時間帯。車の通行量も結構あるようだし、通行人も少なくはないのではないか。アイマスクを着けた奴を連れ回していたら、好奇な目を向けられる事間違いなし。

「私は別に良いけど」

 またライトな返事が返って来た。

「そうですか……」


 5分くらい歩いて建物の中に入り、エレベーターに乗る。直ぐに目的の階に着き、また歩き始める。鉄扉を開ける音が聞こえ、また歩く。中では数人の女性の話声に交じってテレビかラジオの音がする。多分左に曲がり、真っ直ぐ進んだ後、木の戸を開ける音がして「座って」と言われた。

 ゆっくり腰掛けると、革張りの一人掛けソファだった。


「はい。アイマスクを外してください」

 見ると、眼前にテレビとデスクトップのパソコンがあり、白い壁の二畳半くらいの個室だった。マンガ喫茶? でもさっきの女性の会話は?

 場所を特定させようと頭をフル回転させていると、

「トイレはここを出て真っ直ぐ行って、右に曲がった突き当たりにあるから。それとタバコ、一つ買っといた。ここ吸っても大丈夫だから」

 夕起さんは早口で説明し、タバコをテレビの横に置いた。

「ちょ、ちょっと、施設案内の前にこの状況を説明して貰えますか?」

「解らない?」

「解りゃあテンパリませんって!」

 夕起さんは右手を腰に当て「監禁したから」と徐に言った。???……。

「放送作家に成りたいんなら、ここでひたすら企画書を書いて」

 そう言うと、バッグから企画書用紙とボールペン、修正液を出し、パソコンの横に置いた。この展開も、さっきの汐留のキー局で似たような企画があったと思いますけど。


「ネットは使い放題だから」

「……」

 反論したくても頭がこんがらがって言葉が出ない。

「まだ解ってないようだね。「監禁」したから、貴方を」

「監禁……」

 二の句が継げない。やる事が犯罪まがいで過激……なんだよね、この人。

「スマートフォン、没収したいけど、急に連絡着かなくなったら親御さんが心配するだろうから、まあ良いわ」

 自由に外部と連絡出来る監禁なんてあんのか?


「っあ、夕起さん。お疲れ様です」

 19か20代前半くらいの女性が夕起さんに声を掛けた。

「おう! セイラちゃんお疲れー」

「どうしたんですか? 今日は」

「うん。この子が風俗店を見学したいって言うからちょっとね」

 おいおい……ん! 今この人、夕起さんを源氏名で呼んだ? セイラという人が去ったら、誘導尋問開始だ。

「じゃあ私、指名入ったんで」

「うん。噛ましといで!」

 夕起さんがオレの方を向いた。

「今の人、「夕起さん」って呼びましたよね? って事は、ここは風俗店」

「さあどうでしょう? ばったり会っただけかもしれないじゃん?」

「じゃあ「指名」って何ですか? 勤めてた店、確か池袋でしたよね?」

 勝ち誇った笑みを見せると、夕起さんも負けじと微笑んだ。

「っさ、そんな事は良いから企画考えよう!」

 両手でオレの背中を押して個室の中へ戻す。

 話を掏替えやがって……やれやれとソファに座る。


 予想だと、さっきの女性の会話は集団待機室からだ。という事は、ここは個室待機室。

 居場所は大体特定出来た。スマートフォンも没収されない。逃げようと思えば逃げられる。これは「監禁」というより場所を考慮すれば「監禁プレー」……だな。

 そんな事を考えていると、夕起さんは真剣な顔付になっていた。

「企画書、何枚書けとは言わないけど、本気で考えてみて」

「……やってみます」

 オレも真面目に……答えるしかなくね?

 そう思った刹那、急に壁に備付けてあるスピーカーから耳慣れない曲が流れ始めた。


「「監禁」は理解しましたけど、この曲は何なんですか」

 しかも突然過ぎ。素っ頓狂に訊いてしまうのも無理もない……。というよりこれくらいは説明して頂きたい。

「ああ、この音楽は19時になったよって合図。全国各地のイメージソングとか掛けて、コンパニオン達が少しでも心安らぐようにって、店長が提案してくれたの。こういう業界だしさ」

「ふぅん……てか店長の提案とかこういう業界とかって、「監禁」場所の答えを言ってるじゃないですか」

「マジな顔で訊いて来たのはユウ君でしょ。私は答えてあげただけだよ」

 夕起さんの落着いた気取り方が何とも澄ました様に見えてムカつく。


「フー……まあそれは解りましたけど、それで、この曲は何処の自治体のイメージソングなんですか?」

「えっ? ちょっと待ってよ。ねえ淳君聞こえてた? ……ああそう、なら良かった。今流れてる曲って、何処のイメージソングで何てタイトル? ……解った。ありがとう。宮崎県に高千穂町って町があるんだけど、そこのイメージソングでタイトルは『輝きの故郷まち』だって」

「……態々ご説明ありがとうございます。急にジャケットのピンマイクに向かって……インカムをお付けになられていたとは……」

 気付きませんでした。看破出来なかった自分にげっそりしてしまう。まさかここまで用意周到だったとはーー


「看破するの遅っ。ユウ君なら気付いてると思ってたけど。私の髪型もいつもと違くない?」

「あっ、そういや両耳を髪で隠しやがってる……」

 夕起さんはショートカットで、いつもは両方とも耳掛けヘアだ……。つまり、イヤホンを髪で隠していやがった。この憎らしい得意げな表情……まんまと術中に嵌まった。降参……お手上げだ。

「恐入りました。高千穂町って、何かテレビで観た事ありますよ、東国原英夫が宮崎県知事になってから。神話の里とか、パワースポットとか。でも、なくても良いもの、も、なきゃ困るもの、も、両者共なさ過ぎのような町な印象受けましたけどね」

「田舎だからね。都市部とは違って当然だよ。それと一つ注意しとく。メディア業界に就職するんなら、東国原英夫「さん」、敬称付けなきゃね。呼捨は失礼千万だよ。目上の人達は礼儀作法を見るから」

 今度は子供を窘めるような表情で指導者の顔。だが間違ってはいない。確かに失礼。


「そうですね、失礼しました。で、この曲話してる間に聴き逃したんで、もう一度最初っから聴きたいんですけど。お願い出来ますか」

「はっ!? また流すの」

「僕もパワースポットのイメージソング聴いて心安らぎたいんで」

 細やかな仕返し。

「解った。特別だよ」

 夕起さんは態とムッとした表情を浮かべ、「淳君、今の会話も聞こえてたでしょ? もう一回『輝きの故郷まち』って曲掛けて上げて」態と投遣な口振り。言わずもがな夕起さんは寛大な人だから。

「ユウ君、良く聴いときな」

『♬ ふるさとの川には 温かい色がある そよ風の微笑み いつでも優しくて 触れ合う季節には すばらしい歌がある 山々を見上げる 瞳が輝いて キラキラでいようよ いつだって キラキラでいようよ この街で この高千穂の輝きを あなた一緒に感じてみませんか 感じてみませんか ♬ 


♬ ふるさとの空には 果てしない夢がある 雲海のパノラマ 勇気が湧いてきて はばたく未来を 感じてる人がいる 見つめ合う笑顔に 言葉はいらなくて イキイキでいようよ いつだって イキイキでいようよ この街で この高千穂の感動を あなた誰かに伝えてみませんか 伝えてみませんか ♬』

「……消滅可能性自治体にランクインした高千穂町なのに……神話の里の図太さ、を感じる曲ですね」

 消滅可能性自治体な事は、この前暇でスマートフォンを弄っている時にたまたまネットニュースで知った。故郷が消滅してしまうのは、切ないし虚しい。尚且、宮崎県自体が「陸の孤島」と呼ばれているらしいから……後は日本国、政府の「役目」だ。

 

 譲一も小枝子も「今の曲はリズムが早いし覚えられない」と口を揃えて言うが、オレは一発で大体覚えた。若い脳って素晴らしい。

「センチメンタルになるとこが違くない? まっ、ユウ君らしいけど。それじゃあ私は一旦仕事に行くから。Studio alé(ストゥーディオ アッレ、勉強頑張れ)!」

 えっ? 何て言ったの? っていうか何語? 夕起さんが解読不明な言葉をにこやかに発して去り、取敢ずリュックからさっきの企画書を取り出し、パソコンの横に置いた。


 しっかし、初めて足を踏み入れた風俗店が「監禁場所」って、「人生一寸先は闇」とは、よく言ったものだ。「只今池袋の風俗店で監禁なう」……昔乍ら文言で、Xに投稿してやろうか。


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