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Femto Boy  作者: 弘田宜蒼
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闘う女

 ユウ君と久しぶりに逢った日から、9日が経った。今日の午後3時に原宿で待ち合わせて、さっそく書いたっていう企画書を見せてもらうことになっている。

「今日はいい天気だね」

「そうですね……」

 ユウ君の表情が固い。緊張しているな。


 カフェに入ってお茶してたら、緊張も解れるかな? って思ったけど、ちょっと無理みたい。

「じゃあ見せてもらおうか」

 ユウ君が出した企画書のタイトルは、『世界遺産の、もう一つの遺産』。

「NHN(日本放送ネットワーク)でやってる歴史番組で特集したらって思って書きました」

『西暦79年8月24日。イタリアのナポリ近郊にあった都市国家ポンペイは、火山の大噴火によって一夜で消滅してしまった。

 18世紀から開始された発掘調査によって主要部分が発見され、一般に公開されている事で有名だ。


 所変わって日本。16世紀にポンペイと同じように、自然災害によって一夜で消滅した町がある事は、殆ど知られていない。

 場所は、合掌造りの家が世界遺産に登録されている、岐阜県白川村。


 1586年1月18日の午後10時頃。現在の岐阜県北西部を震源とした、マグニチュード7以上の大地震が発生。

 当時白川村一帯を治めていた武将、内ヶ島氏理うちがしまうじまさの本拠、帰雲かえりぐも城とその城下町は、地震によって発生した土石流に丸ごと呑み込まれた。この惨事により、内ヶ島一族郎党、町の住民全てが犠牲となる。


 だが、話は終わらない。当時白川村一帯は、金銀銅の鉱山資源に恵まれていた。帰雲城という童話に出て来そうな名前の城には財宝が納められていて、それも一緒に埋没しているという伝説がある。

 これまで財宝目当て、学術的調査目当ての人達が、幾度も発掘調査を実施したが、城も町も未だ発見には至っていない』


「日本にもこんな所があったんだ」

「領主の家柄もよく解ってないんですって。だから教科書には載らない。よって知名度も低い」

「そこよ問題は。ポンペイは世界遺産だから番組にし易いだろうけど、発見もされてないんじゃ、幾らNHNっていっても扱い難いんじゃないかなあ」

「そうですか……」

「それと、なぜこれをリサーチしたのか、説明が長くてゴチャゴチャしてる。この時点でボツにするディレクターさんもいるよ」

 ユウ君が無言になった。また悄気たか? 本当は「よく調べたね」って褒めてあげたいけど、この国には褒めて伸ばそうって人少ないし、プロに成ったら、もっと強い口調で採点されると思う。


 この子は大丈夫か? と心配しつつ、もう一言。

「後さ、10日近くもあってこれだけ?」

「仕事の面接にも行ったんです」

「そう。……でもまだ見付かってないんだ?」

 「毎日面接に行ってたんじゃないでしょ?」と口にしそうになったけど、抑えてあげた。でも、時間には余裕があるわけだ。

 お会計をして、私は駐車場に、彼は駅に向かって歩いていく。途中ユウ君の方を振り返った。シャンとしていて、トボトボしていない。それだけでも安心した。


 私だって小説家に転身できたっていっても、安心してはいられない。

 処女作が5万部売れたからって、一過性で終わったら意味ないし、売れなくなったらアマチュアに逆戻りだ。

「夕起さん。今度は○○賞を狙いましょう!」

 出版社の担当が力強く言ってくる。一応「ええ」とは返事するけど、やっぱりプレッシャーだ。

 テレビに出演していても、番組を引立てるコメントを残さないとオファーはなくなる。それに、

「もっと胸元が開いて、谷間が見える服をお願いします」

 男性ディレクターがにやついて言ってくる。元風俗嬢の肩書きがそうさせる。セクシー路線でいく気は全くないし、そんなのすぐに飽きられるとは思っても、「はい」と笑顔で返事をするしかない。


 自分が何を理想としているのか見失っていく、今日この頃……。

 ユウ君。もしプロに成れても、最初は理想と違う仕事ばかりだと思う。けど、強い信念を持ち続けてね。


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