2話-3
主人公の悩みや葛藤を、是非最後までお楽しみください。
寮の自室の前で鉢合わせた少女はこう名乗った。
「ボクはリーヴェ。リーヴェ・アグリージュ。君は?」
「私は……リスペス・ソルガー。……よろしく」
自分の名前はこの世界では聞かなさそうなので、尋問された時に、忘れたふりをしてそれっぽい名前を付けてもらったのだ。
ちなみにリスペスの意味はこの世界で"迷いし者"…なんだとか。一方ソルガーは適当らしい。
「素敵な名前だね!こちらこそよろしく!」
彼女が手を差し出してきたのでこちらも握り返す。
確認すると彼女はやはり同室のようだった。
寮は相部屋だが、それぞれの部屋の間にカーテンがあってとても過ごしやすい。
(予定表が配られるスタイルなのか。うわ、知らない単元ばっか…)
「明日は、クラス分けのための…魔法試験……」
「キミ、クラス分け不安なの?大丈夫だよ、言うて難しいことはしないから。センセーが言ってた事だけど」
「…そうなんだね」
「同室として、同じクラスになれるといいね!明日は頑張ろ!」
ファンタジーモノの王道イベント、魔法試験。
そこで意図せず目立ち、コイツすげー!と言われ噂になる…のがよく見る主人公だろう
だが私は目立つわけには行かない。
魔王城で働いて生きていくには、それなりの成果を残しつつ、決められた日数で卒業せねばならないのだ。
目立てば何か起こるかわからない。目立つな、とは言われていないが恐れるに越したことはないはずだ。
魔力は普通と判断されているので変に目立つ心配はないだろう。
―そう思っていたのだが。
授業前、今私は数人の魔物に詰め寄られている。
「テメェ人間だろ?よくスカしたツラして魔界来れたなァ!?テメェら人間が俺等に何したか知ってて来たってきたってんのか?あァ!?」
「………私は人間じゃなくて、魔物です」
ここは申し訳ないが嘘をつくしかない。この世界の人間は魔法が使えない…なら私はこの世界では魔物であると言える。
「何言ってんだよ…耳も!尻尾も、ツノも何もねぇじゃねぇか!!!」
(ここで異世界転移あるあるが来るとは…体験できて嬉しいけど、声を荒げられるのには慣れてないから普通に怖い)
「私は、魔法が…使えます。次の授業で魔法試験がありますよね…?そこで私が人間じゃないって、証明してみせます」
「チッ…嘘だったらテメェに今までの魔物達以上の苦しみ与えて殺してやるからな…!」
彼らの言葉は、単なる怒りではなく悲しみがこもっていた。実際殺すと言ってきた彼は涙目で、震えた声で叫ぶように話していたし。
彼らが怒りを通り越して涙が出るほど、人間は魔物に危害を加えたのだろう。
人間が…私と見た目が変わらない…人間が。
私はこの世界の人間を殺したいわけでもなく罰したいわけでもない。どういう立場で魔物に顔向けしていけばいいのだろう。魔王に仕えて、もし人間と会った時、私は魔物として振る舞えるだろうか。
―チャイムが鳴った。
魔法をほぼ知らない私より、彼らのほうが上の存在だろう。あれだけ度胸を示したものの、実際は手先が震えている。
「ごきげんよう、皆さん。私はモーグアーク魔法学校教師、キャシュへリア・シャリランアですわ。どうぞよろしく。
もうご存じだと思いますけれど、本日は貴方達の現時点での魔法技術、魔力を測定してクラス分けを行います。さぁ、並んで」
「……美人な先生だなぁ」
「はいそこ。その賛美は感謝いたしますけれど、無駄口は叩かないように」
生徒はボソッと呟いたはず…だが先生は反応した。すごい聴力だ。
…いやあまりにも地獄耳すぎないか?
でも生徒が言うようにキャシュへリア先生は美人でスタイル抜群な人であった。
紫がかった黒髪に大きな帽子、額には目のような美しい物、そして顔中にある大きなヒビ。
「ふむ…貴方はA組よ。あら…これはまた珍しい方にパラメーターが動くわね、貴方はB組。
次は貴方ね…っ……、リスペス・ソルガーさん」
先生は、私を見るなり顔色を変えた。まるで信じられないものを見るかのように
(人間って気づかれた…!?)
「っ…失礼しましたわね、気にしないで。少しむせただけだから。気を取り直して試験を始めます。まずは――…」
(よかったバレなかった。でも先生、なんか引っかかるんだよなぁ)
魔法の試験は割と大変なものではなかった。
炎を出したり、いくつか魔法詠唱をした程度のもの。
言われたことをやり終えてすぐ、先生は私に向かって笑顔でこう言った。
「かなりいいステータスね。やっぱり貴方は魔法の習得が速いタイプですわ。基礎知識に欠けるように見えますけれど、基礎ステータス・習得速度は平均オーバー…、練習すればきっと難しい魔法も使えるようになりますわよ。頑張って。貴方はA組よ。」
先生の顔は、とても優しく温かかった。まるで子供を撫でるような、母のような、そんな優しさだった。
授業終わりの移動廊下で後ろから声をかけられた。
「お、おい」
「あ、さっきの」
「………見た目だけで判断して悪かったよ。謝って許される事をしたとは思ってねぇ。だけどよ、謝罪は…聞いて欲しい」
正直、罵声を浴びせられることは経験がなかったので、崖から落っこちる程のショックだったのだが…
今、ここで何か言い返したり、ドヤりでもすれば目立つことになるだろう。
正解の解答を探して目立たずここを乗りろう。
「謝罪、受け入れました。私は気にしてないですよ、むしろごめんなさい。紛らわしい見た目で」
(自分なりの精一杯の相手を刺激しない返し!どうだ…!?)
「…………許してくれたうえに逆謝罪とか……」
彼は肩を震わせ、拳を握る
(駄目だったか!?この形の謝罪は地雷だったり…)
「流石っス!!!!!!!
俺、誤解してました…。その寛大さ、めちゃ尊敬っス」
「え、は…?はい…?」
「失礼な絡み方してすみませんでしたっス。ほら、お前らも!」
「「すみませんでした!!!」」
私は対して大きなトラブルは起こすことなく1日を終えた…のだが。
数日たって彼らとばったり会った時、
「「「お疲れさまです!!!」」」
と頭を下げられたのは悪い意味でいい思い出である。
私はマフィアのボスか!!!と脳内で突っ込むしかなかった。
「ど、どうしてこんな目に……」
「あはは!!リスペスアイツらに何したのさ?舎弟とかいたんだね笑」
ここ数日で同室のリーヴェとは呼び捨てで呼び合う仲になった。
大体はリーヴェが話して私が相槌を打つだけ…くらいなのだが。
「いいなーー自分に従う奴がいるってかっこよくない?魔王城の魔王様みたいだし」
「ま、魔王…?えぇ…嬉しくないな…」
(魔王は、そう名乗るだけあってかなりの実力者で尊敬されている凄い人物なんだろうな…とは思うけど)
「……話は変わるけどさ、リーヴェは何組だったの?私はAって言われたんだけど…」
「ボクもA!一緒じゃん!!やったね!!!
………でもお互い運勢向いてないかも」
彼女は本を読みながら目を細める。
「前ここに通ってた魔物の情報なんだけどね?新入生でA組に分類される奴はみーんな魔力的に問題を持つ魔物。優れた能力を持ってもコントロールが下手だったり、周りに危害を加えかねない、ヤバいヤツらをまとめてるんだよ。他のクラスじゃ抱えきれないから」
「……問題児って事?」
「そうじゃないと思うよ…多分。
まず前提として、魔力が多い事はこの世界では誇れること。それはリスペスも知ってるでしょ?
ただそれを、社会に出た時…うまく扱えるようにさせるのがここってこと」
(つまり私は、意識せずして危険人物扱いされてるってワケで、目立つ可能性が大幅アップってこと…。
それにしてもリーヴェはかなりの情報通っぽいなこれからも頼ることになりそう)
「………なるほどね」
リーヴェ自体はそのクラスに当てられた事が嬉しそうではなかったので、これ以上問うことはなかった。
―魔法を使える事は、魔法が存在しなかった世界にいた私にとっては嬉しいことでしかない。
だがこの世界は、アニメや漫画のようにポンポン魔法を撃てる世界ではない…ということを、私は理解しなければいけない。
(技術力向上を命じられてるけど、コントロールさえやりづらいってんなら、難易度高すぎやしない?命じられた事だからこなさないとだけどさ…)
今思えば、なぜこの世界の人間と同じ見た目の私を、魔物たちは殺さなかったのか、どうしてここまでサービスしてくれるのか…魔王軍側も何か裏がありそうな感じがする。
もしかしたらそれは私の杞憂で、ただの人材不足とか、そこら辺かもしれないが…
そんなことを深々と考えていたら、魔王の顔が頭に浮かんだ。
以前謁見した魔王は、他の魔物とは違い、
何かを見透かすような―…
こちらの奥の奥を見つめていたような―…不思議な視線を、こちらに送ってきていた…そんな気がする
(真っ黒な髪に、蒼い目、すっげぇ綺麗だったんだよな)
この学校で魔法をコントロールする術を学んでいくなかで、色んなことを知っていきたいな……
―そう思いながら、私は自分のベッドで眠りについた。
ご覧いただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。




