5.心の声の需要は人それぞれ
それから二日後。
ハルフォードは、アメリアの差し入れの玉子サンドをモソモソと食べていた。
本日は仕事が休みなので多めに差し入れを作ってきたアメリアだが、いつも大喜びする幼馴染はなぜか元気がない。
「ねぇ~、アミィ。今回の件での処罰内容って決まった? 僕はね……一カ月間、新しい魔道具作りは禁止で、しばらくは問題があって回収されてきた魔道具の改善業務に取り組めって言われちゃったー。所長からも『せめて検証実験は自分よりも家格が下の人間にやらせなさい!!』って怒られちゃったよー……」
「えっ……? その怒られ方、おかしくない?」
「そうかな? でもこれなら何かあっても権力をかざせば文句を言われないよ~?」
「やっぱり魔道具研究所で働く人たちって変な人が多いのね……」
「アミィ、酷い!」
そういって保温ポットからダボダボとスープを注ぎ、飲みはじめる。
だが、やはり今日のハルフォードは少し元気がないように見える。
想像力と好奇心の塊のような彼にとって、一度作られてしまった魔道具の再構築作業はあまり楽しいものではないらしい。
「あと余った材料で勝手に魔道具作りするのも禁止だってー。作ってもいいけれど、その時は必ず上に何を作っているか報告するように言われちゃったー。でもそれをやると、すぐに実用化に向けて動かれるから、何個も案件抱えることになって僕、疲れちゃうんだよねー……」
ようするにハルフォードが暇つぶしで作った魔道具でも周囲からすれば、かなり画期的な物と判断されてしまうらしい。
今回なんとなく作ってしまったピアスも、よくよく考えればとんでもない代物である。
ヴィクトリアたちの件でピアスの存在が明るみになると、影部隊がかなりの食いつきを見せ、現在魔道具研究所では最優先で実用化することに取り掛かっているそうだ。
だが、悪用された場合のリスクが大きいため、完全に王家の管轄下でしか使用許可が下りない代物になるらしい。
そもそもなぜそんな効果の魔道具にハルフォードが興味を持って作りはじめたのか、この部分がずっとアメリアには引っ掛かっていた。
穏やかな性格の彼は、人を傷つけたり貶める可能性が高い魔道具を作ることが苦手だ。
特に魔道武器などの開発では技術上の助言はしても、開発メンバーには絶対に加わらない。
想像力が豊かなハルフォードは、魔道具を作る際にどうしても使い手のことを想像してしまう。
現在、彼がたくさん開発している生活用品に関しては、便利な機能に喜んでいる様子しか思い浮かばないそうだが、武器などはモラルが低い人間が使用したことを想像してしまうと、大惨事な状況を思い浮かべてしまうらしい。
それは今回のピアスでもいえる。
心の声が聴けるということは、簡単に相手を自分の思い通りに操れる状況が作りやすくなるので、人をだますことを生業としている人間たちにとっては、喉から手が出るほどほしい代物だ。
王家が抱える影部隊などの統率がしっかりとれている組織で使われる分には問題ないだろうが、もしこれが市場に出回ったら大変なことになる。
あのピアスは、そういう恐ろしい面もある魔道具なのだ。
アメリアでさえ、そのことに気づけたのだからハルフォードが気づかないわけがない。
「ねぇ、ハル。ずっと気になっていたのだけれど……。どうして人の心が聴ける魔道具を作ろうと思ったの?」
「え~? なんでそこ気になるの~?」
「だって、ハルが好んで作る魔道具って生活用品とかでしょう? 特に家事に特化した魔道具とか。それなのになんで今回は、日常生活では実用性が低い効果の魔道具を作ろうとしたのかなって……」
すると、ハルフォードが少しだけ考え込む仕草をする。
「そういうことかー……。そもそも僕、生活用品作りが好きってわけじゃないよ?」
「ええっ!? でもハルがこれまで開発してきた魔道具って、全部生活用品ばかりだったじゃない!」
「だって、その方がアミィに役立つ物が多いから~」
「えっ?」
「だってアミィの侍女のお仕事ってヴィクトリア殿下の身の回りのお世話だから、家事全般に特化した内容だよね? それが少しでも楽になる魔道具ってないかな~って考えると、どうしても生活用品系の魔道具しか思いつかないんだよねー」
「ええっー!? じゃあ、ハルは今まで私の役に立つも物はなにかっていう基準で魔道具開発をしていたの!?」
「うん」
「そんな話、聞いてない!!」
「今、初めて話した~」
あっけらかんとした様子で魔道具作りの動機を語ったハルフォードは、今度はハムサンドに手を伸ばす。
「あのピアスだってそうだよ? あれは最初アミィ専用で作りはじめた物だから~」
「ちょ、ちょっと待って! ハル、あれで私の心の声を聴くつもりだったの!? 最低! 人権侵害だわ!」
「違う違うー。あれは僕がアミィの心の声を聴くためじゃなくて、アミィに僕の心の声を聴かせるために作ったんだよー」
「はぁ?」
わけの分からないことを言い出したハルフォードは、先ほど手に取ったハムサンドをゆっくり咀嚼したあと、優雅にスープに手を伸ばす。
そんな彼をアメリアが唖然とした様子で見つめていると、スープを飲み切った彼は満足そうに一息ついた。
「だってアミィ、僕が何度も『大好き』って伝えているのに、いつも冗談としか受け止めてくれないんだもん……。このままじゃ、来年アミィが成人した時にプロポーズしても冗談として流されそうって思ったから、心の声を聴かせて僕がどれだけアミィのことが大好きか知ってもらったほうが早いと思って作ってたんだよ?」
「はぁぁぁぁ~!?」
天使の笑顔で爆弾発言をした幼馴染にアメリアが大パニックを起こす。
「ま、待って……。えっ? どういうこと? だってハルの『大好き』は子供の頃からの口癖でしょう!? そもそも来年プロポーズってなに!? 聞いてない上にそんな素振りまったくなかったじゃない!!」
「えー? ちゃんとプロポーズすることを匂わせてたよ~。『アミィが作ったご飯なら毎日三食しっかり食べたい』って僕、何度も言ってたでしょー」
「い、言ってたけど、そういう意味とは思ってなくて……」
「ほらぁー! やっぱり冗談としか受け止めてくれてない~!」
「あんなフワッとした言い方されたら冗談としか思えないわよ! 大体、来年プロポーズってなに!? 普通は先に婚約を申し込むものでしょう!?」
すると、ハルフォードがキョトンとした様子で首をかしげる。
「でも僕らの場合って婚約する必要あったー?」
「結婚を希望するのであれば、まず婚約が先でしょう!」
「でもアミィは、ほぼ毎日僕のために昼食と夜食を作ってくれて、しかも毎週部屋の掃除までしにきてくれてたでしょう? もうその状態って婚約者同士の関係だから必要ないと思ってたー。だから次はプロポーズかなって!」
「どうして、そういう発想になるのよぉ……」
魔道具作りに関しては天才的だが、一般常識に関しては突拍子もない考えである幼馴染にアメリアが盛大に肩を落とす。
「アミィがいけないんだよ? 僕が毎日気持ちを伝えているのに冗談としか受け止めてくれないから。だから強行手段に出てみました!」
「強行手段って……ハルは私に心の声を聴かれても平気なの? 恥ずかしいとかないの?」
「え~? 別にないよー。好きな子に好きって知ってもらうほうが重要だもん」
恥ずかしげもなく言い切るハルフォードに、赤面する気力もなくなったアメリアが力なく呟く。
「どうしてそういうことをサラッと口にできちゃうの……。そもそもあの心の声が聴こえるピアスの使い方の発想が、おかしいでしょう!? 普通は相手の気持ちが知りたくて、ああいう魔道具を作るんじゃないの?」
「えー? でもアミィが僕のこと大好きなのは知っているから、そこには需要性は感じなかったなー」
「なんで知ってるのよ!」
「だってそうじゃなければ、お昼ご飯作ってくれたり掃除しに来てくれたりなんてしないでしょう?」
「うっ……」
「アミィは自分の好意がダダ洩れだったことも気づいていなかったんだねー」
「やめて! これ以上、傷口をえぐらないで!」
どうやらアメリアは、ヴィクトリア以上に好きな相手に対する好意がだだ洩れだったようだ。
今までそのことに気づかなった自分を呪うように両手で顔を覆い隠す。
「だからあのピアス、毎日アミィにつけてもらって僕の気持ちを自覚してもらおうって思ってたんだよねー……」
「やめて! そんな恥ずかしいことされたら私、死んじゃう!」
「でもあのピアス、ライオネル殿に取り上げられちゃって……。設計図のほうは所長に取られて王家で厳重管理扱いされちゃったんだー。そもそも今の僕は新しい魔道具作りは禁止されてるから作れないし……」
そのハルフォードの嘆きにアメリアが首をかしげる。
「え? ピアス、ライオネル様に取り上げられちゃったの?」
「うん。僕が持っていると、ろくな使い方をしないだろうからって制御装置ごと持っていかれちゃった……。今頃、城内の入室制限かかっている倉庫に入ってるかもー」
「それだけ管理しなければならない凄い物を作ったという自覚はないの?」
「アミィに使ってもらうことしか考えてなかったから僕、よくわからない……」
どうもハルフォードの魔道具作りの動機は、全てアメリア中心で発生するらしい。
そのことに複雑な気持ちを抱いていると、急にハルフォードがなにかに気づく。
「あっ、待って! 今のやりとりで僕がアミィにプロポーズしようとしてるほど大好きだって伝わったよね! だったらあのピアス、もう必要ないよね!?」
「そうね……」
「じゃあ、もういいやー」
「…………」
どうやらハルフォードのピアスへの興味は、今のやり取りによって一瞬で消えたらしい。
どうも天才の思考はよくわからないとアメリアが呆れていると、再びハルフォードがスープが入った保温ポットに手を伸ばす。
「でもこれからは、ヴィクトリア殿下がライオネル殿と過ごす時間が多くなるから、アミィも僕のところに来れる時間が増えるかなー」
スープを飲みながらのん気なことを口にするハルフォードの言葉で、アメリアはあることを思い出す。
「あっ! 言い忘れてた! 今回の件で私に下された罰なんだけれど……」
「うん」
「来月から一カ月間、姫様の就寝番を命じられたから、しばらくハルにご飯を作ってあげられなくなっちゃうんだよね……」
その瞬間、ハルフォードがこの世の終わりのような表情を浮かべる。
「ええ~!! なんで!! そもそもそれ、お仕置きなの!?」
「なんかね、ライオネル様と想いが通じ合ったことで姫様の就寝前ののろけ話に同僚のミリッシュがまいってしまっているようなの……。その点、私はロマンス小説とか好きで多少耐性があるから、しばらく姫様の興奮が治まるまで私が就寝番をすることになったのよ」
「そ、そんなぁー……」
スープカップを手にしたまま、ハルフォードが涙ぐむ。
「で、でもほら! 休日は普通にあるから、その時にご飯作ってあげるから!」
「でも週に二回くらいでしょう!? 一カ月もそんな生活、耐えられないよ!! もうアミィ、休日は僕の部屋に泊ってってよー!」
「未婚の男女がそんなことできるわけないでしょう!?」
「じゃあ、今からすぐ籍入れるー! 婚姻届って、どこに行けばもらえるのー!?」
「なんでそうなるのよ! 一カ月ぐらい我慢しなさい!!」
この日、アメリアは「すぐ入籍するー!」と騒ぐハルフォードを宥めるのに一時間近くかかった。
それから二週間後。
二人はハルフォードの強い要望で、互いの両親から婚約の許可をもらいにそれぞれの実家へと向かう。
しかし、どちらの家の両親からも「今さら!?」と驚かれてしまった。
職場でも婚約の報告をすると、同僚のミリッシュと主君のヴィクトリアから同じ反応をされてしまう。
そんな主君のヴィクトリアだが、一つ気になる点があった。
あの心の声を聴かせた件以降、彼女の両耳にはハルフォードが作ったピアスと同じデザインの小花のピアスがついているのだ。
そのことに気づいたアメリアは、ヴィクトリアたちの交流時間の際にそっとライオネルの耳元を確認してみた。
そこにはヴィクトリアと同じように検証で使われた例のピアスと同じデザインの物が両耳についていた。
そのことに少々複雑な気持ちにはなったが……。
「互いが納得しているのであれば……」と無理矢理その状況を受け入れる。
同時に自身の婚約者が胸の内を包み隠さず、口にしてくれるタイプでよかったと心の底から安堵した。
これにて『心の声を聴かせてみた』は終了となります。
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