3.心の声が聴こえるピアス
それから二週間後。
この日、休日だったアメリアは恒例の差し入れをしたあと早々に立ち去ろうとしていたのだが、ハルフォードから「見せたい物がある」と言われ、研究室に引き留められていた。
「もう! なに? 私、今日は久しぶりに城下町で買い物でも楽しもうと思っていたのに……」
「一人で買い物に行くつもりだったの? 言ってくれたら僕、休みを取って付き合ってあげたのにー」
「女性はたまに一人で買い物を満喫したい時があるの! それで……見せたい物って、なに?」
「これなんだけど……実は性能実験のためにアミィにあることをお願いしたいんだよね~」
そう言ってハルフォードは机の上に菓子箱くらいのサイズの木箱と、アクセサリーが入ってそうな二つの小箱へとアメリアの視線を誘導させる。
「これ……なんなの?」
「心の声が聴ける魔道具~。ちょっと実験的に作ってみたんだー」
「はぁ!? なんでそんな物作ったのよ!?」
「だって最近のアミィ、ヴィクトリア殿下とライオネル殿の仲を凄く心配していたから。いっそ二人の心の声を互いに聴かせちゃえばいいじゃないかなーっと思って……作ってみた!」
「つ、作ってみたって……。なんでそんな凄い物、簡単に作れちゃうのよ!?」
「うーん、なんとなく?」
「なんとなくで、そんな凄い物を作らないで!!」
アメリアの指摘を華麗に聞き流したハルフォードは、小さな小箱の一つをパカリと開ける。
そこには小花のデザインの可愛いピアスが一組入っていた。
「これは?」
「身につけた人の心の声が聴こえるピアスだよー。このピアスの片方をヴィクトリア殿下に渡してほしいんだー。で、もう片方はアミィがつけてね~」
その説明にアメリアがギョッとした表情を浮かべた。
「ま、待って! それって私の心の声もハルに聞かれちゃうってことでしょう!? そんなの嫌よ!! そもそもさっき言っていた性能実験って、まさか姫様たちを対象に行うつもり!?」
「うん」
「『うん』って……それ、あきらかに王族に対する不敬行為じゃない!!」
「でも一番このピアスを必要としているのは殿下とライオネル殿だと思うんだよねー。それとアミィにつけてもらうピアスだけど、こっちは周囲の音と二人の心の声を拾う機能しかないから安心して~」
そのハルフォードの魔道具説明にアメリアが首をかしげる。
「それ、どういうこと?」
「ようするに片方は心の声を音声化する機能、もう片方は周囲の音を拾う機能のピアスなんだ。この魔道具は将来的に潜入任務中の王家の影が使えるように開発している諜報活動アイテムなんだよね~。でも、いくら装着した人間の心の声が聴けても周囲の音が拾えないと、どんな会話でそう思ったのか状況が把握できないでしょう? 一つの装飾品にこの二つの機能をつけることは難しいんだけど……。二つで一組のピアスなら、ターゲットに怪しまれずに周囲の状況の盗聴と、着用した人間の心の声が拾える環境を同時に整えられると思って今回作ってみた!」
その説明にアメリアが口をあんぐりとさせる。
普段はポヤポヤした雰囲気で子供のような口調のハルフォードだが、そこは王家が一目置くほどの優秀な魔道具開発研究員である。
考案した魔道具の性能を極限まで引き出すことに関しては、天才的な発想力がある。
同時にその性能を実用化してしまうほど、彼は物づくりの才能に溢れているのだ。
「殿下には、こっちの小花のピアスを一つだけ渡して身につけてもらってー。渡すときは……僕が試験的に作った魔法防御が上がるピアスの性能を知りたがっているから実験に協力して欲しいって言えば、殿下ならすぐに身につけてくれるんじゃないかな? ライオネル殿にも僕からそう言って渡しておくから~」
一切悪びれる様子がなく性能実験を決行する気満々のハルフォードは、ニコニコしながら心の声が聴こえるピアスのみ入った小箱をアメリアに渡してきた。
だが、アメリアはその小箱を受け取ることを一瞬、躊躇する。
小箱を受け取ってしまえば、王族に対する不敬行為に完全に加担することになるからだ。
「で、でも! 王族相手に勝手に魔道具の検証実験をするなんて……。それ、絶対に不敬行為になるじゃない!」
「どうして? 性能はどうあれ『魔道具実験に協力してください』ってお願いして同意を得ているのだから問題にはならないでしょう? もし心の声が聴こえたことで怒られても『そういう効果が出るなんて実験するまで気づきませんでした~』で逃げちゃえばいいんだよ~」
「ハル……あなた、いつからそんなずる賢い考えをする子になったの?」
「アミィ、酷い~。その言い方、僕に対して失礼~」
アメリアに白い目を向けられたハルフォードは、しょんぼりしながら二つの小箱から一つずつ音を拾うための機能しかないピアスを取り出し、アメリアに手渡す。
ヴィクトリア用のピアスは小花のデザインだが、ライオネル用は丸い台座に青い魔石がはめ込まれたシンプルな物だ。
「とりあえず次のティータイムには、アミィはこのピアスを片方ずつつけてね~。これでアミィにも殿下とライオネル殿の心の声が聴けるようになるから~」
「わ、私が聴いてもいいのかしら……。ハルはお二人の心の声を聴かないの?」
「もちろん、僕も聴くよー。そうでないとちゃんとこの魔道具が機能しているか確認できないし。ただ僕はこの制御装置を通して、お二人の心の声とアミィが拾ってくれた会話を合わせて聴く感じかなー」
「制御装置って……そのテーブルの上にあるボタンつきの箱のこと?」
「うん。ここのボタンで殿下たちの心の声を拾ったり、切ったりできるんだ~。あと誰にその音声を聴かせるかもこれで切り替えられるよー」
「す、凄い! これ、たった二週間で作っちゃったの?」
「いや~? もっと前から作ってたよ。でもあくまでも個人的な好奇心で作ってたんだよねー。納期もないから、余ってる素材で空いた時間にコツコツ作ってたんだ~。でも最近アミィがやけに殿下たちの仲を心配しているから『これ、使えるかも!』と思って急いで完成させてみたー」
かなりの技術が集結されていると思われる魔道具を「気が向いたから完成させてみた」と言い切れるハルフォードの魔道具作りの才能は、底が見えないほど計り知れないものなのだろう。
改めて幼馴染の凄さを実感すると同時に、全くその威厳がないことにアメリアが噴き出す。
「ハルって凄いんだか抜けてるんだか、よくわからないわよね……」
「え~? 僕、実は凄い人だよー」
「そんなのんびりした口調で言われても凄さなんて感じないわよ」
「僕、本当に凄い人だから!」
「そうね。ハルは本当に凄い人だと思う」
「あ~! ちっとも心がこもってない言い方~。アミィ、酷い~!」
口をとがらせて不満を訴えるハルフォードだが、ただ愛らしいだけで全く責められている感じはしない。
そのチグハグ感がなんだかおかしくてアメリアが苦笑していると、ハルフォードは先ほど取り出した聞き取り専用のピアスと、小花のピアスが入った小箱をアメリアに手渡してきた。
「それじゃ、この小箱のピアスはヴィクトリア殿下に渡して必ずつけてもらってねー。あとこっちの二つはアミィの分! ティータイムの時は必ずつけてねー。でないとアミィはお二人の心の声が聴けないし、僕も室内の会話が聴けなくなっちゃうからー」
「私……もしハルが不敬罪に問われたら共犯になっちゃうの?」
「大丈夫、大丈夫~。そんなことには絶対にならないから~」
「もし罪に問われたらハルが責任取ってよね!」
「罪に問われなくても、ちゃんと責任とるから安心して~」
適当な返事をする幼馴染に呆れつつも、アメリアは受け取ったピアスを混ざらないように小箱にしまい込んだ。




