幸せな思い出
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「ミーシャ殿!ファイアボールを飛ばす時、魔力射出は短く強くを意識してください!さあもう一度!」
「わーん、もう魔力残って無いですよ〜!」
「魔物相手にそんなことを言っていては死にますよ!私をキングゴリラだと思って、さぁ!」
魔術学園の競技場にて、ミーシャが騎士団長のバンカーさんに熱血特訓を受けているのを眺めながら、私は少し胃を痛めていた。私よりずっと体力があるミーシャがあんなにヘロヘロになっているのに、私の番になったらどうなってしまうんだろう。
「─────────ミーシャはすごいね。口では色々言うけれど、団長の指導に食らいついている」
隣でミーシャを眺めていたエルウィン様が呟く。親友を褒められて嬉しくなって、少しだけ胃の痛みを忘れた。
「そうなんですよ、あの子すごいんです!夢に向かって全力っていうか、怖がらずに挑戦していくし、それにすごく優しいんですよ!」
自然と笑顔になりながら追随すると、エルウィン様がじっと私の顔を観察し始める。
「………………?なんでしょう?私の顔に何かついてます?─────あっもしかして、さっき食べてたクッキーが歯についてました!?」
口を手で隠しながら慌てていると、エルウィン様の表情が安心したように緩んだ。
「…………よかった。大分元気になったみたいだ」
「え?─────────ああ、ライナスのことですか。エルウィン様が気になさらなくたっていいのに」
「そういう訳にもいかないよ…………。友人ながらあまりに失礼な返事の仕方だし、それを断り切れなかった僕にも責任がある」
「そんなことないですって。もう本当に吹っ切れましたし」
本心からそう答えると、エルウィン様が困ったように笑いながら遠慮がちに尋ねる。
「…………あれから、ライナスとは話した?」
「あー、そういえば話してないですね。事業の準備で忙しくてそれどころじゃなくて。そっか、もうしばらく会えなくなるからお別れ言っておかなきゃ。ミーシャにも言っておきますね」
私がそう返事をすると、エルウィン様が軽く片眉を上げて私を見つめた。
「…………あれ、…………本当にもう平気なのかい?顔を合わせると辛いとかはない?」
「え?はい。もう終わった話ですし。それに、友達でいたいと言ってくれたのですから、これからも友人として付き合っていければと思っております」
正直な気持ちを伝えると、エルウィン様は目を丸くして私を見つめた。そしてフッと力を抜くと、騎士団長の方に視線を向けて続けた。
「───────その、…………正直驚いているよ。僕はてっきり、強がっているのかと…………」
そう言われて、少しだけ困ってしまう。強がりでも気遣いでもなく、もう遠い日の幸せな思い出になりつつある“それ“で、一体どう悲しめばいいのか分からずにいる。
「…………エルウィン様は、幸せだった思い出で泣くことができるのですか?」
「…………それは、………………」
私たちを沈黙が包んだ。それが風船のように緩やかに膨らんでいくその向こうで、ミーシャが苦悶の声を上げながらファイアボールを打つのが見える。
騎士団長がミーシャの頑張りを褒め称える拍手の音が鳴り響く中、エルウィン様は小さく首を横に振って答えた。
「それは、難しいかもね」
「……………私もそう思います」
そう答えた時、よろよろとこちらに歩いてくるミアが大きな声で私を呼んだ。私はエルウィン様に会釈をしてから騎士団長の方へと向かう。歩きながら、ふいに脳裏にライナスの顔が思い浮かんだ。もう全く焦がれはしないけれど、向き合うことすらしてくれなかったことを思い出して腹立たしくなってしまって、慌ててこれからのことを色々考える。沢山の今に押し出されて、全部がなるべく遠くの方に行ってくれたらいい。思い出は遠くにあればあるほど綺麗に見えるから。




