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二度目の正直  作者: 夏菜木
第一章 一度目の結末
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episode 1 『昇華する思い』

見えるものは死んだ後の人間だけだ。


もうここにはあいつらも、あいつらと一緒にいた俺もいない。


差し込む光が照らすのは、死者だけだ。


世界そのものだって、この結末も、この戦いも望んでいないに違いない。でも、結末を決めるのは当事者であって、世界という外野ではない。


目の前には、かつてのシンボルであったハンベルグ城が、下半身を残してもがいている。剥き出しになった鉄筋も、先の焦げた絨毯も、もはや無いも同然のガラスの窓も、この戦いの被害者だ。


こんなことを思う権利すら、俺にはない。


これは、俺と目の前でその瞬間を待つ灰色の悪魔の造物だ。


芸術という名目での戦争、それはもう赤色しか使わないキャンパス上での物語だ。でも、一度描き始めた絵は完成させなければならない。俺はその完成の潤滑剤であり、投資者になってしまった。


「もうやめろという言葉は必要か。」


なぜこんなことを聴いた。


「無用だ。もし言われても俺の選んだ色は同じだ。」


「この無益な戦争は気に入らないけど、この夕日だけは戦利品として貰おう。」


「洒落たことを。この地面にだって、それに準ずる色はあるだろう。」


そのときにはもう、俺の頭の中は赤色だった。


「やはり、俺は選択を間違えた。お前には赤の絵の具がお似合いだ。」


俺の足はもうそこにはついていない。ただ、円を描くように走っていた。言葉は引き金であり、一種の合図だ。目の前の悪魔だって、もう話す気は微塵もないようだ。お互いに弱点を知った、お互いの手の内を全て明かした戦闘は、もう競技ではない。数ヶ月という時間を犠牲にして習得した無詠唱魔法も、有効手段ではない。


「3727・水素爆発」


構えの動作も必要なしに発動した魔法は、最上級混合魔法のうちの一つだ。悪魔の方へと、風に音を乗せて進んだが、目眩し程度にすぎない。


「さすが、ここまで生きてた実力だ。無詠唱でも同じだということは分かっているようだ。38・位相反転」


会話よりも簡単だという素振りで、波動現象である俺の魔法は敵に背を向けた。


「お返しに付き合う気はない。06・低重力」


魔法の撃ち合いでは埒が明かないことは、多くの犠牲で得たことだ。近距離戦は剣というメディアを介した会話にすぎない。剣を抜いたのは俺だけだったが、それでも同じだ。


俺たちが話すべきことはもうない。これから聞こえる全ての声は、悲鳴と絶句の文言だ。


俺はもう、人にあらずという振る舞いで、悪魔に向かって近づいて、突きの体制で悪魔の心臓を狙った。


「エンチャント・プライムアビリティ・敏捷性。」


その魔法とともに、俺は悪魔の前から消えた。正確には、霞のように背後に回った。


「ハッタリのつもりか。」


「それでもいいだろ。普通なんてものはないんだ。」


先ほどの構えは言うまでもなく、悪魔に前方に守備を集中させるためのものだ。でも、それが通用したら、この悪魔は既に退場している。


「俺も付き合おう。手を抜けそうにはないようだ。05・風速補助」


そう言って悪魔も剣を抜いて、その素早さで俺と剣を交えた。間近で聞いたら混乱しそうなほどの音量と衝撃波がこの二つの加害者を襲う。だが、お互いに身体強化系の魔法を使っている以上、その速度と頻度は加速度的に上昇した。少なくとも、音と半分ほどの速度は出ていただろう。空気抵抗というよりも壁を一枚ずつ破っているような感覚だ。


「生き残るのはどちらだと、神は予想するのだろうな。」


悪魔は剣による音の妨害は存在しないとばかりに声をかける。


「どっちだっていいさ。予想は確率論だからな。」


「やはりお前は気に入らない。この世界に絶対が存在しないと考えるその思考が、俺の頭に血を注ぐのだ。」


言葉と態度が一致するように、悪魔は攻撃を巧みにしていく。


「思い込みが激しいな。絶対を人為的に確率へと昇華させるんだよ。お前達はその過程を怠ったから、それを信じたから、ここまで堕ちたんだ。」


「だまれ。神の存在が認められ、その教えを神は絶対だと言った。それを懐疑し、自らの価値観で教えに背き、忠告を聞き流すことのどこに意義がある。だから俺達も理屈にしたがったまでだ。この事実は変わることはなく、どの道でも、俺達はお前達と相対し、そしてこの過程で死んだ者も死んでいく。」


その言葉を聞いて、俺は一度手を止めて距離を取った。


何かを勘付いたように悪魔も身を引いた。


「その犠牲を払うときに、お前は躊躇したのか。」


これが最後の質問だという空気で、俺は言葉を吐いた。


「決められた道には、疑いも躊躇もないだろう。」


その言葉は俺の冷静さを一気に吹き飛ばした。


その犠牲には、俺の仲間が、もう、仲間だった者達が含まれている。


今は思い出したくもない思い出が、荒波のように次々とフラッシュバックする。白くて長い髪をなびかせる、絵に描いたような、優しさという言葉を具現したような少女が、真っ先に俺の頭に現れた。


『怒りは、何も生まないよ。良い結果は、良い感情に伴うんだよ。タロウは優しいんだから、きっと別の方法が見つかるよ。どうしようもないときは、みんなと過ごした時間がきっと、タロウを包むよ。』


この言葉はなんだ。あいつが過去に言ったことではない。俺の中のあいつのイメージが勝手にそう、話させた。まるでプログラムされているかのように。


それはあいつの言葉通り、俺にとっての即効の治療薬になった。俺は、もう、怒っていない。俺の、俺たちの小さな正義のために戦う。


「俺がもしお前だったら、どんな結末になっただろうな。俺が俺で、俺達で、本当に良かった。」


そう言った俺は、絶対に近いような自信で、ある魔法を構築した。


その絶対も、仲間との時間によって引き上げられた確率だ。第0番目の基本体系、そしてその中でも異彩を放つほどの難易度と威力を兼ね備えた奥義、でもその難易度はもう、乗り越えた。


「さようなら、また会おう。そのときはせめて中立であってくれよ。ロルス。」


その言葉を聞いた悪魔は、少し笑っているように見えた。



『09・昇華』




その言葉が出たときには、もう悪魔の上から神々しいシャワーが降り注いでいた。悪魔は苦しむ素振りを見せずに、ただその雨を受け入れていたように見えた。


でも、やはり少し笑っているように見えた。


この笑いはとても奇妙だった。



「グアッツ、ハアッ」



俺は久しぶりに混乱した。


時が止まったように感じた。


胸に穴があいたような感覚だ。


感じたことのない、感覚、その感覚も無くなっていくようだ。


目の前には悪魔はいない。


でも、悪魔の剣だけが、俺に剣先を向けていて、勢い余って食い込んでしまったようだ。


これは、なんだ。相打ちという結末か。


面白くない。


悪魔なりのもがきのつもりか。


俺は確かに悪魔に雨を降らせて、それで、刺されたのか。


「お前は、絶対を受け入れる選択肢しか持っていなかった。ただそれだけだ。」


悪魔は悪魔のように俺の目の前で上から囁きかけた。


俺はもう、立つことも相手の目を見ることも叶わない。


たったの一撃で、俺は死んだ。


長い期間の努力も、それに続く思いの強さも無力だった。


ばかばかしいとも感じてしまった。


俺はあいつの、あいつらの期待には応えられなかった。でも、これからは、一緒だ。生きる場所は違えど、空間は共有できるはずだ。


でも、もう一度、やり直せるなら、俺にもう一度


俺にもう一度、もう一度だけ、




チャンスをください。



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