28. そして婚約は……
卒業パーティーで婚約の見直しなのか破棄なのか判然としない宣告をされたエーリカは、驚きから一度瞬いたものの、直ぐに頭を下げた。
「婚約破棄、謹んでお受け致します」
落ち着いた口調で告げられた応えは、内容に反した穏やかな耳ざわりで、周囲を更なる困惑に陥れた。
想定外の出来事に呆然としている人々へもエーリカは軽く一礼し、それからくるりと身を翻すと涼やかな足取りで会場を後にする。
それを見送るしかない卒業生たちは、何が起こっているのか理解する事も出来ないままで、もう見えないエーリカの後ろ姿に目を向けていた。
エーリカは宣告に驚きはしたものの、それ自体が予想外だったわけではない。
いずれ婚約解消するだろうと父親から言われていたし、ここまで婚約が続いているのだから、それは卒業のタイミングではないだろうかという推測があった。
ただ、こんな大勢の前で告げられるとは流石に想像しておらず、
おそらくは父親を通して伝えられるだろうと考えていた婚約の解消を、大勢の卒業生たちの前で告げられたことに驚いたのだ。
加えるならば、見知らぬ令嬢を虐めていたという罪も上げられたことにも驚きはあった。
けれども、どのような思惑での発言なのか分からない以上、肯定しないのは当然としても否定するわけにはいかない。
だからまあ、その辺のことは父親と王族で話すのだろうし、ここは大人しく受け止めるのが良いだろうと、言葉少なく了承を告げたのだ。
これで役目も終わりかと思うと少しだけ寂しさがあった。
突然の事だから、これからどの様に過ごそうかと僅かに困惑もある。
とはいえ、無事に役目を終えたのだという達成感が、エーリカの胸には大きく広がっている。
いずれにしても王立学院を卒業し、そして役目も終えたのだ。
今後については両親と相談してゆっくり考えればよいだろう。
エーリカは真っ直ぐに家に戻り、そして父親に婚約解消になった事を伝えた。
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娘から話を聞いたアロネン伯爵は、王城へと向かった。
婚約の解消を、第一王子が娘に直接伝えるとは思っていなかったし、
それが自分がいないだけではなく、大勢の他者がいる場でされるとも予想していなかった。
それを不信に思って、というよりも、切実なこととして、
自分の知らぬ場でなされてしまった事により、他家から何か尋ねられてもどう答えるのが正しいのか分からなかったのだ。
もちろん娘の今後について、はやく知っておきたいとも思う。
とはいえ、それはすぐさまではなくとも連絡を待つ事は出来ることで、
しかしながらそれを待っている間の対処を誤る事への不安の方が大きい。
王城へ行ったところで国王に直ぐに会えはしないだろうけれど、ひとまずの対処を聞かなくては王家意向に沿わぬ事態を引き起こしてしまうかもしれない。
突然の宣告には何か手違いでもあったのかもしれない。
唐突な終わりに困惑を感じたし、知らされていなかった事に焦りもしている。
けれども長かった娘の役目がようやく終わりを迎えた事に、アロネン伯爵は安堵の息を吐いた。




