27. 夢見る物語のよう
「アロネン伯爵令嬢に睨まれてしまいました」
後に引く事も出来ず、かと言ってあからさまな虚偽を口にも出来ずに、リリヤはユリウスにそう告げた。
ユリウスは頷いて返すと、リリヤに慰めの言葉を掛けてくれる。
ユリウスはリリヤの言葉を信じてくれているのだろうか。
リリヤに不安がないわけもなく、だからこんな事を言うべきではないと思わないわけではない。
けれども、不安と後悔でいっぱいになったリリヤが落ち着きを取り戻し、少しだけユリウスとのお喋りが恋しくなった頃合いに、ユリウスはまたリリヤに問い掛けるのだ。
「意地悪されてはいないか?」
だからリリヤはついまた応えてしまうのだ。
「わ、私なんかが…殿下と話をするなど許されないと……」
重ねる毎に罪悪感は薄らいで。
重ねる毎にリリヤ自身がそれを事実であるかのように感じる様になった。
だからそうユリウスに伝えた時、リリヤは無邪気ですらあったのだ。
「こんな意地悪をするような方との御婚約など、お考え直した方がよろしいのではないですか?……けれど、そんな事になれば私はまた意地悪をされてしまいますね」
「また…意地悪を……」
はっとしたようにリリヤを見つめるユリウスが、言葉を溢す。
その眼差しに誘われる様にリリヤは言葉を続ける。
「え…ええ………。えっと…、そう、嫉妬をぶつけられてしまうでしょう、きっと……」
「嫉妬を……」
それはもう卒業を間近に控えた頃であり、リリヤはユリウスと過ごした夢がまもなく醒めるのだと、どこかで分かっていたのだろう。
だからこそいつもより少し大胆な事を口にしてしまったのだろうけれど、いつも通り咎められる事もない代わりに、ユリウスに近づけるという事もなく、今だけが白昼夢の様な時間で、それは現実と関わる事はないのだと、そんな風に漠然と感じていた。
ユリウスがリリヤの言葉をどのように感じているかなど分かるはずもなく。これが最後だろうかと感じながらユリウスに言葉を返す。
きっと慰めの言葉で締められると思っていた会話は、けれどもいつもとは違った結末に辿り着いた。
「卒業パーティーで婚約破棄を告げたらきっとアロネン伯爵令嬢は嫉妬から殿下に縋り付くはずですわ」
「……ああ…それは……」
ーー見たい。
ユリウスの気持ちは吐息に溢れ、けれど声にはならなかった。
リリヤは、物語で見かけるような場面を口にして、
そして気がつけば、段取りはまとまってしまっていたのだ。
だからもう、リリヤには夢の中を進む事しか出来はしなかった。
こんな事が起こる筈はなくて、それならばこれは醒めない夢の様な物語なのだろう。
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そして卒業パーティーで、婚約破棄は告げられるーーー




