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25. 王子様

 リリヤが入学した王立学院には王子様がいた。


 物語の王子様は、金の髪に碧い瞳が多いのだけど、現実の王子様はグレーの髪色で紫の瞳だった。


 それが少しだけ悲しくて、リリヤはあまり王子様に近寄らない様にして過ごした。


 けれども、王子様とは同じクラスなのだ。


 顔を合わせれば挨拶くらいはしなくてはならないし、用があれば話し掛ける事もある。


 学院の生活に慣れるにつれ、少しずつ王子様がいる景色にも慣れていき、そうすると王子様の素晴らしさも見えてくる。


 王子様はとても頭が良い。


 授業で何を問われても的確な解答を返し、他の生徒たちに求められれば丁寧に教えてもくれる。


 だから多くの生徒たちに頼りにされているのだけれど、嫌な顔一つみせずに助けてくれるのだ。


 優しくて、そして麗しい。


 物語とは全然違うとがっかりした容姿の王子様であったけれど、同じ教室で過ごしているうちに段々と、他の男子生徒たちとは立ち振る舞いが全く違うと気がついた。


 いや、どこが…と問われると具体的に指摘は出来ないのだけれど、

とにかく動きが美しく、立っているだけでも気品を感じるのだ。


 流石王子様だと思った。


 やっぱり本物の王子様なのだなと思った。


 王子様と同じ教室で勉強しているなんて、まるで物語のようだと嬉しくなった。



 王子様は、お優しく賢くて気品に満ちていて、毎日そのお姿を見られるのは楽しかった。


 …けれど、少しだけ、現実は物語と違って淡々と毎日が過ぎていくのだなとも感じたかも知れない。


 変化。というものではないけれど、その日、リリヤは王子様には婚約者がいた事を思い出した。


 王子様の婚約者は別のクラスで。


 だからリリヤはそれまで王子様の婚約者を見た事がなかった。


 何でも幼い頃に高位貴族の令嬢が集められ、その中から選ばれた婚約者なのだそうだけれど、子爵家の娘であるリリヤには詳しい事は分からない。


 そんな遠い存在である王子様の婚約者の存在に気がついたのは、一年生で初めてのダンスの合同授業の時だった。


 その日、王子様は婚約者と一緒に、生徒たちの見本としてダンスを踊ったのだ。


 とてもとても美しかった。


 やはり物語のようだと思った。


 すぐに自分も踊らなくてならず、焦って。

 王子様と踊りたい女生徒が沢山で私は踊れなくて、残念で。



 だけど。


 合同授業の後はまた、それまでと同じ毎日。


 決して詰まらなかったわけではない。


 王子様が近くにいる毎日は、それだけで心が浮き立つ。


 けれど。


 合同授業で見た婚約者の事がリリヤは気になっていた。


 だって、あの日以来、婚約者を見掛けないのだ。


 いや、というか、あの日まで婚約者を見掛けなかった事も気になってきた。


 だって、クラスが違うとはいえ婚約者なのだ。


 どうして王子様と一緒にいるところを見掛けないのだろう。



 それが不思議で、

リリヤは王子様の婚約者をこっそりと見に行った。


 王子様の婚約者は伯爵家の令嬢だった。


 婚約者は王子様のように皆んなに頼りにされている訳ではなかった。


 一人でいる事が多くて、

特別の仲良しもいない様だった。



 王子様以上に見ていても特別な事は何もなくて、

リリヤは現実の平坦さを味わっていた。


 王子様と婚約者は、二人でどのような時間を過ごすのだろうか。


 平坦さを掘り起こしたくなったのは、物語のページを捲るくらいの気負いだったのだと思う。


 これはもう読んだのだから、次が読みたい。



 面識のない婚約者に話し掛ける訳にはいかない。


 だから接触出来るのは王子様だけ。


 機会を見つけ、王子様に話し掛け、婚約者との話を聞こうとした。


 ……けれど、真っ直ぐに婚約者との関係性コイバナなどを聞くわけにもいかず、

迂遠な問い掛けでは何も分かりはしない。


 だから、つい口が滑ったのだ。

 何か変化が欲しくて。


 王子様に話し掛ける事が増えたリリヤへの陰口を耳にした事も影響して。


 嘘をつくつもりはなくて。


 婚約者との話を聞きたいのに、正面から切り込めない思いと、そんな陰口を思い出した事がないまぜとなって。


 どうしてだか説明する事は出来ないけれど、気がついたらそう言っていたのだ。


 「アロネン伯爵令嬢が私に嫉妬して意地悪をするんです」


 口から出た言葉は取り消せず。



 だけど。


 不思議な事に。


 実態がなく口からこぼれた言葉は。


 リリヤの耳に入った途端。


 まるで物語の一行であった様に、リリヤの心に降り立った。

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