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24. エーリカの学院生活

 王立学院に入学してからのエーリカは、人間関係に気を配らなければならなかった。


 何故ならばエーリカはいずれ第一王子とは婚約解消する筈であり、けれどもそれまでは婚約者として振る舞わなければならなかったからだ。


 エーリカの両親は、だから上位の貴族との交流には気を使い、決して彼らと対等でも上に立っているわけではないと気を引き締め、けれども婚約(お役目)の事実がある以上、遜る事はせず、そして無闇にどこかの家との仲を深めない様にと心掛けている。


 つまりエーリカもそれに倣わなければならず、だからこそ自然、高位の家とはさりげなく距離を取るようになった。


 では下位の貴族はどうかといえば、高位の貴族と距離を置いた状態で、そちらと仲を深めるわけにもいかない。


 出来ることならば、第一王子との婚約の有無に利害が左右されない家の令嬢と友人になれればという希望はあるものの、全てに当たり障りなく過ごしているのが一番楽な方法だったのだ。


 特別に仲が良い友人がいないままであっても、孤立している訳ではなかったし、

第一王子の婚約者と近づきたいと考えている令嬢にとっては、やきもきする状況であったけれど、その控えめにも映る態度は好感を持つ者も多い。


 エーリカは、生徒との交流には一歩引き、その分…というわけではないが、教師との交流を持った。


 相手が教師であれば生徒相手よりも気楽に接する事が出来たし、何より興味のままに本を読み、音楽に触れ、絵を見ていると、知りたい事が次々と生まれてきたからだ。


 だからエーリカは色々な質問を教師達にして、図書室で本を読んで過ごし、学院内を散策して回った。



 もしも第一王子と婚約していなければ、違った学院生活であっただろうけれど、エーリカは今の毎日に不満はなかった。


 多少の面倒臭さはあるけれど、それもすっかり日常であるし、

それと引き換えに弱小伯爵家の令嬢では踏み入れられない場所や、学べない学問に触れられているのだから満足と言っていい。


 それに友人…とまでは流石に言えないけれど、思いがけず最近言葉を交わした女生徒の事をこっそりと気に入っている。


 彼女は子爵家の令嬢で、学院の音楽室でよくピアノを弾いている。


 エーリカは学院を散策している時に、たまたま彼女のピアノを耳にし、そしてそれが今一番興味のある作曲家のものであったために、立ち止まって最後まで聴き、そして彼女が弾き終わったところで、ついうっかりと、隠れて聞いていた事も忘れて拍手をしてしまったのだ。


 それで盗み聴いていた事が露見し、そして開き直って話しかけてみた。


 「トウイはミフフに対抗してこの曲を作ったと言われているけど、改めて聴くとむしろ、ミフフへの問い掛けなのかもしれないわね」


 魔が差したとしか言いようがないのだけれど、

聴いたばかりの曲で頭がいっぱいで、ついその作曲家の話を捲し立ててしまったのだ。


 彼女ーープシラ子爵令嬢はぽかんとした顔でエーリカの話を聞いていた。


 「……知りませんでした。アロネン伯爵令嬢は博識でいらっしゃるのですね」


 その言葉でようやく己の失敗に気がついたエーリカであったけれど、

幸いな事にプシラ子爵令嬢はエーリカの話に興味を持ってくれた。


 エーリカに聞いた話で、より作曲家への理解が深まったと言葉を返した子爵令嬢は、

王立学院に入学して初めてピアノに触れたのだと言う。


 プシラ子爵家にはピアノはないのだそうで、

だから学院にいる間にできる限りピアノを弾いていたいのだそうだ。


 エーリカは、そんなプシラ子爵令嬢の邪魔にならない様に、それ以来こっそりと彼女の演奏を聴いている。


 プシラ子爵令嬢に思わず話し掛けてしまったのは、たまたま彼女がエーリカが興味を持っている作曲家の曲を演奏していたからだけれど、

そんな風にたがが外れてしまったのは、学院入学前までは、お城の侍女を聞き役に、自身の考察を色々語っていたのに、入学以降はお城に行く頻度も減り、話す相手がいなくなってしまった事が大きい。


 プシラ子爵令嬢に話した事で少しの満足を得たエーリカは、すっきりした気持ちで日々を送れている。


 もしかしたらまたプシラ子爵令嬢、あるいは他の誰かに話をしたくなる日が来るかもしれないけれど、今は時々こっそりピアノを聞く楽しみが増えた事をエーリカは嬉しく思っている。

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