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22. 初恋に惑う少年

 ユリウスが登校前に見る肖像画が一枚増え、エーリカの私室の肖像画が新しいものに掛け替えられた頃、つまりは二人が王立学院へ入学してからまもなく一年が経つ。


 ユリウスがエーリカへ向けている想いが恋なのだと気がついて、エーリカに近づく男子生徒に嫉妬を感じているのを、学院に同行する侍従は温かい気持ちで見守っていた。


 まさか二年生にまもなく上がるという頃まで、さしたる変化のない関係を見守る事になるとは予想していなかった侍従であったが、思い返してみれば、傍付きからみたらあからさま過ぎるくらいの恋心を自覚すらしていなかったユリウスである。

 恋なのだと自覚したところで、なぜ二人の仲が深まるのではないかと考えてしまっていたのだろうか。


 新しい肖像画を幸せそうに見つめてから城を出て、今はエーリカが通り掛かるのを待って窓から中庭を眺めているユリウスに目を向け、侍従は溜息を呑み込んだ。



 もしもこの時、侍従がユリウスに、初恋に惑う少年へのアドバイスらしき事をしたとすれば、この先の悲劇は避けられたのかもしれない。


 けれどもユリウスが恋心を向けているエーリカは既にユリウスの婚約者であり、この先二人は結婚するのだ。


 だから優先すべき事は、恋した相手との関係を深める事ではなく、恋によって第一王子の体面を傷つけない事。そして滞りなく公務をこなす事である。


 その判断が間違っているなどとは誰も言いはしないだろう。



 しかし窓から眺めているだけで深まる関係などない。


 いや、正確に言えば、時折合同授業で顔を合わせる機会もあったし、公務で会う機会もある。


 だが、授業は個人の仲を深める時間ではないし、公務も決められた対応を決められた様にこなすだけである。


 少し前に、毎年の恒例行事となっている肖像画作成の為に、エーリカが城へ通う期間があったけれども、絵を描く間はおしゃべりに興じるでもなく、二人ともただ大人しく座っているだけである。


 もっともユリウスの意識は、座っているエーリカに向いているのだけれど、意識しているだけでは何の進展もない…というのは、現状が物語っている。


 しかし肖像画を描く為の時間の後には、二人でのお茶会の時間を持った。


 お茶の時間は、ユリウスのそれまでの努力を遺憾なく発揮し、話題を用意して、回答を予測して、返答を準備して。

 作り上げたシナリオを立派にこなすユリウスは、だからとても優秀である事は間違いない。


 ただ、その進む先に恋の実りがなかった………。いや、結婚を実りと考えるのであれば、やはりそのまま歩めば良かったのだろう。



 二年生になってもエーリカとユリウスの仲は相変わらず……つまりは特別仲が良いわけでもないが、悪いわけでもないままであり、そしてユリウスに近寄ってくる生徒の顔触れは変化していた。


 一年生の頃は、第一王子と一緒に学院に通う事に浮かれた生徒が近寄ってきていたけれど、徐々に第一王子の様子を伺っていた生徒に変わってきていた。


 とはいえ、ユリウスは話し掛ければ誰にでも気さくに応じたし、卒なく周りと交流していた。


 第一王子と懇意にしたいという思惑を持って近寄られているのだとしても、ユリウスだって将来に備え、優秀な人材を見極めたいという気持ちもあるのだからお互い様である。


 友人と言えるのは変わらず、エンシオとヘンリクくらいであったけれど、闇雲に友人を増やそうとユリウスは思ってはいない。


 ユリウスに熱い視線を向ける女子生徒もいないわけではないけれど、既に婚約者がいると知られているのだから、言葉を交わしたという思い出で十分であるという考えがほとんどである。


 もっともその思い出を何度も享受しようと試みる女子生徒も数名いるわけだけれども、

ユリウスにとっては一様に、ただの同級生という認識でしかなかった。



 ちなみに、エンシオの想い人は先頃婚約した。


 ぐずぐずと近づくでもなく過ごしていたエンシオは、泣きそうな顔で「………これで良かったんだ」と呟いた。


 無理矢理にでも女友達を紹介してやろうとしたヘンリクも、あまりにも暗い顔のエンシオを連れ出す事が出来ず、二人はエンシオを心配してやきもきとした。


 少しずつは元気を取り戻しているエンシオに、おそらく近いうちにはヘンリクが女友達を紹介するのではないだろうか。


 一途に思い詰めたエンシオと、次々と女友達を増やして行くヘンリクは両極端で、ユリウスの恋の道行の参考には少しもならなかった。

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