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18. 友人の恋の話

 ダンスの合同授業の日からしばらくーーー

最近溜息が多い様に感じていた友人エンシオが搾り出すような声を溢した。


 「クヤラ子爵令嬢の事が頭から離れないんだ………」


 それを聞いたユリウスはクヤラ子爵を思い出そうと目を細め、ヘンリクはぱちりと瞬きした後ににんまりと笑った。


 「クヤラ子爵令嬢というと、ヒッラ嬢か……ああいうのが好みなのは意外だなぁ」


 揶揄うヘンリクをエンシオは弱々しく睨んだ。


 「まさか彼女にまで手を出してるんじゃないだろうな……」

 「人聞き悪い事を言わないでよ。僕は皆んなと仲良くしたいだけさ」

 「彼女に手を出したら許さないからな」

 「だからそんな事しないってば、…って言うか、なんでエンシオにそんな事を言われないといけないのかな?」

 「…っ。そ…れは………」


 エンシオが言葉に詰まるのをヘンリクは面白そうに見つめ、「それでエンシオは僕に彼女との仲を取り持って欲しいのかな?」とにやりと言った。


 …と。

 それを聞いたエンシオは眉を寄せた。


 「いや………」

 頭を振るエンシオに、ヘンリクが「遠慮しなくていいよ」と揶揄い交じりに返す。


 …が。

 「そうじゃない…。…どうしたら彼女を忘れられる?」


 エンシオの言葉にヘンリクが「は?」と瞬きした。


 「…えっと……恋の相談だよね?」


 訝しげな顔のヘンリクに、エンシオが「まあ…そうなるかな」と目を泳がせながら答える。


 「何で忘れる必要が?え?まさかもう振られたの?」

 「振られてない!」


 不思議そうにしていた顔を一瞬で驚愕の色に変えたのに、直ぐさま否定された事でヘンリクが訳がわからずに首を捻った。


 「彼女は子爵家の一人娘だぞ、サルミネン侯爵家が婚姻の申し出をする訳にはいかない」

 「いやいや、それはそうかもしれないけど、好きならひとまず付き合ってみればいいじゃないか」

 「そんな不誠実な真似が出来るか!」

 「とか言って、本当は振られるのが怖かったりして」

 「…そんな訳があるか!」

 「へえ、自信があるんだな。じゃあとりあえずデートしてみれば?僕が取り持ってあげるよ」

 「…だから!そんな真似はできないと」

 「でも、頭から離れないんだろ?」


 ヘンリオの言葉に、エンシオが唇を噛んだ。


 「……だから…忘れる方法を聞いている……」


 俯いてそう告げたエンシオに、ヘンリオが軽やかに答える。


 「そんな方法ないよぉ。…だから一度付き合ってみればいい」

 「…………そ」

 「そうしたら、もしかしたら思った娘と違うなって、好きじゃなくなるかも知れない」

 

 ねっ!とにこやかに告げたヘンリオにエンシオが顔を顰めた。


 「……お前なら、忘れる方法を知っているんじゃないかと思った俺が馬鹿だった…」

 「えー?んー、じゃあ僕の友達誰か紹介する?どうしてもって言うなら」

 「そう言う事じゃない!」

 「でもさ、新しい恋をすれば忘れられるよ。…けど僕の友達にはヒッラ嬢みたいなタイプはいないからな…。うーん、エンシオは彼女の顔が好きなの?それとも性格?」

 「もういい!それ以上口を聞くな」


 ヘンリオが肩をすくめたところでユリウスが不思議そうに尋ねた。


 「つまりエンシオはクヤラ子爵令嬢に恋をした…のだな?どうして忘れないとならないんだ?」

 「…婚姻できる訳でもないのに好きでいるのは苦しい」

 「…苦しいのか?」


 ふむ。と考え込んだユリウスにヘンリクが「あ……と、そうかユリウス殿下は婚約してるんでしたね。それじゃあ気軽に恋は出来ないか」と呟くと、エンシオが「婚約者が恋の相手ではないか」と呟き返す。


 「…好きでいる事の何が苦しいんだ?」

 二人のやりとりが聞こえたのか聞こえなかったのか。ユリウスは考えても答えが出なかった様で、エンシオに問い掛ける。


 「え……と……」エンシオは少しだけ目を彷徨わせてから、ユリウスに目を向けないままで答えた。


 「彼女に会いたくて……」

 「会えばよいのでは?」

 「いや、しかし婚姻出来ないのに」

 「しかし会いたいのだろう?」

 「し…しかし愛人にするには不誠実ですし」

 「いや待て、なぜそうなる。友人では駄目か」

 「あ………」


 ユリウスの言葉にエンシオが顔を赤くした。


 「ははっ、愛人にする妄想でもしてたんだろう」

 揶揄うヘンリクを、エンシオが口を開かないままで睨んだ。


 エンシオは一度目を閉じた。


 そしてユリウスへの返事を続ける。


 「友人でいるのは…俺にはたぶん無理だ。…彼女が他の男とダンスをしているだけでも腹立たしかったのに、友人としてそばにいて、彼女に恋人でも出来たら…いや、無理だ。考えただけでその男を殺したくなる」

 「そうなのか……」


 む。と考え込んだユリウスに目を向け、ヘンリクがぼそりと呟く。


 「殿下は婚約者がいるから恋も出来ないんだな」

 「だから!その言い方は不誠実だろ。殿下に失礼だ」

 「けどさ、恋の辛さも知らないなんて……あ、エンシオが殿下の代わりに恋の辛さを堪能して……」

 「やめろ!…そうじゃなくて、婚約者と円満だから辛さが分からないんだろう」

 「ああ、そういう考え方もあるか………」


 こそりとした話す二人にユリウスは目を向けたけれど、もう一度考え込むように俯いたユリウスは何も言わなかった。

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