17. 合同授業
ユリウスとエーリカは、王立学院では別々のクラスである。
学院側は二人に配慮して同じクラスにするべきだろうと考えていたのだが、婚約者とは学院外で交流出来るのだから、むしろ別のクラスとする事で、多くの生徒との交流の機会を与えて欲しいと指示されたからだ。
だがそれは建前であり、実際のところは不測の環境下でユリウスをエーリカと会わせる事に、傍付き達が不安を感じていたからだ。
授業中では侍従は同席出来ないし、となるとフォローは不可能だ。
もちろんユリウスも幼い頃に比べれば随分とエーリカへの態度が改善した。
事前に予測していなかった会話が起こったとしても、反応速度には問題があっても、返事らしき事は出来るようになっている。
とはいえ、それもエーリカのそれまでの言動や嗜好から予測に予測を重ね、都度都度主旨を考慮し、話すべき事を見極めた上で会話を主導するように準備し、段取りをしっかりと叩き込み、予定通りにこなし、その上で発生する不測の会話など、予測が足りなかったとはいえ、取り繕える程度のものだった。
けれども、同じ歳の学生の中でのエーリカとの交流など、予測し得るわけもなく、そのような環境に身を置くのはまだ早いとユリウスの傍付きたちは考えていたのだ。
幸いユリウスはエーリカの姿さえ見れるのならば満足であるらしい。
…もちろん、このままで良い訳がない。
そしてまた、このままでいては改善する筈もない。
そういう意味でも、これは必要な試練であろう。
侍従はそう心で唱えながら、ユリウスとともに今日の日を迎えた。
まあ、何かと言えば、多くの人…というか第一王子の傍付き以外には何でもない事であろうけれども。
この日、王立学院の一年生は合同ダンスの授業が予定されているのである。
もちろんダンスの授業自体は、これが初めてというわけではない。
ダンスに於ける礼儀作法やマナーを学び、姿勢、ステップ、体の動かし方を学ぶ。
ダンスの音楽についても当然学習し、そうして形になってきた頃に行われるのが学年全体での合同授業である。
とうとうその日がやってきた事に侍従は胃を痛めていた。
準備はしてはいる。
ダンスそのものはユリウスは眠っていたとしても出来るくらいなのである。
エーリカとダンスする事に関しては、今は心配など必要ないと思っている。
だから問題なのは、そもそもエーリカと同じ空間にいて、ユリウスが助力もなく臨機応変に立ち回れるのか、という事だった。
けれども例えば侍従の胃に穴が開こうとも、ダンスの合同授業は避けられはしない。
いや、正確にいえば、今避けたところで、ユリウスが侍従を安心させるほどになれるのであれば先延ばしにするだろうけれど、そんな目処など立っていない。
となれば、もう出来るだけの対処を考え、送り出し、あとは祈るしかない。
侍従は、学院の控室で一人、神に祈っていた。
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ユリウスとエーリカはダンスの合同授業で、お手本としてダンスを披露していた。
これまでダンスをする機会などなかった学院生の中で、間違いなく二人はダンス経験が豊富だからだ。
これは、ユリウスの側付き達の策の成果…と言えるかもしれない。
つまり頭が回らなくては会話は難しいかもしれないけれど、考えなくても踊れるくらいに体に叩き込めばダンスは可能だろうと考えた…というか、その方法に掛けたのだ。
だからエーリカを伴ってユリウスが参加しなくてはならない場で、ダンスのみを披露してエーリカをユリウスの婚約者であると印象付けして退出する。という作戦が多用された。
その甲斐は、合同授業でも如何なく発揮され、傍目には完璧に息の合ったダンスを披露した二人は拍手に包まれた。
エーリカとのダンスを終えても、ユリウスの意識はずっとエーリカに向けられたままだった。
けれどもそんな状態でもユリウスは次ぎ次ぎと女子生徒達とのダンスをこなしていく。
目の前の女性に礼をして踊りそしてまた礼をして次へ。
その繰り返しの中では、話し込む機会などなく、ユリウスは問題なく授業を終える事が出来た。
中にはダンス中にユリウスに言葉を掛ける女子生徒もいたのだけれど、それには笑顔を返す事まで自動的に行われている。
ユリウスの記憶に残っているか怪しいという点では、多少問題と言えるかもしれないけれど、軽やかに躱されたのだと受け取った女子生徒が他言するはずもなく。
つまりは無事に授業を終えたのである。




