15. 王立学院入学
「エーリカもいよいよ王立学院に入学か」
アロネン伯爵は、感慨深く娘に目を向けた。
娘のエーリカは事情により第一王子の婚約者に選ばれるという奇縁に見舞われ、
とはいえ第一王子と弱小伯爵家の娘が結婚出来る筈がない。
事情が解決するまでの限定的な婚約である事は明白で、だからこそアロネン伯爵は驕ることなく控えめにあろうと過ごして来た。
しかし第一王子に婚約者が必要だった事情は解決し、娘はとうとう王立学院に入学する歳になった。
どうして娘は未だ婚約を解消されていないのだろうか。
アロネン伯爵は首を捻る。
国王は王立学院在学当時に現王妃を婚約者として定めたし、これまでの王族も婚約者を決めたのは学院在学中である事がほとんどだ。
つまりは今尚、第一王子がエーリカと婚約しているというのは、将来の王子の妻となるべき婚約者を選ぶ上で問題にはならないだろうか。
「まさか、このままエーリカがユリウス殿下の妻に?」
心の疑問がぼそりと口から溢れたものの、アロネン伯爵はそんな言葉を散らす勢いで首を横に振った。
いや、有り得ない。
フィンドラ王国は長子が次期国王となるとは限らない。
国王は健在で、代替わりするのはまだまだ先の事になる。
だから第一王子より5歳下の第二王子が次期国王になったとしてもおかしくはなく、未だ次期国王が決まっていないからこそどちらの王子も王太子ではないのだ。
けれども第一王子のユリウスはとても優秀で、国民にも人気が高い。
仮に彼に兄がいたとしても、ユリウスを次期国王にと願う人は多いだろうと思えるのだ。
立太子していないとはいえ、どう考えたところでユリウスが次期国王でない筈がない。
であれば、
つまりもしも婚約解消されなかったとしたらエーリカが妻となり、つまりエーリカが次期王妃という事になるではないか。
…ないな。
そう改めて考えたところで、有り得ない未来としか思えずに、アロネン伯爵は現実に立ち返る事が出来た。
婚約を解消した後で、もしもアナンの末姫の件が解決していなかったらと警戒したか、それとも他に事情ができたのかも知れない。
アロネン伯爵は考え込んだけれど、結局結論はこれまでと同じだった。
第一王子の婚約者という役割をしっかりと務め、しかし驕る事なく慎ましやかに過ごす様に娘に話して聞かせた。
ふと思いついて伯爵は娘に尋ねた。
「王立学院へ入学すれば、週に一度の王城通いもなくなるだろう。
王城で親しくなった人と会えなくなるには寂しくはないかい?」
「そうね、殿下の侍女とは仲良くなれたから少し寂しいわ」
「ああ、いつも話している侍女だね。他には仲が良い人はいないのかい?」
「そうね、殿下の侍従の方は気遣って下さるけど、仲が良いという事はないかしら。従者の方たちもお話しする事はないし…」
エーリカは少し考えて「あ、殿下のお近くにいる騎士の方とも会えなくなるのね。…それは少し残念かも知れないわ」
「…そうか」
なるほど。娘は王城ではユリウス殿下としか会っていないと思い込んでいたが、殿下の周りには傍付きや騎士もいるのだ。
もしかしたら婚約解消後はその中の誰か、もしくはその息子などをエーリカの相手と考えているのかも知れない。
第一王子の傍近くにいるのだ。当然身分はある人物である。
どうやら娘も良い印象を持っているようであるし、だとすればやはり役目に徹しさせている事が大事であろう。
アロネン伯爵はほっと息をついた。
娘が楽しく過ごせている王城に勤める者と結婚させられのならば、これまでの娘の努力に見合うだろう。
「まあ頻度は下がるとは言え、城へ上がる機会はまだあるだろうからね。皆さんと仲良くしなさい」
アロネン伯爵の言いつけに、エーリカは笑顔で頷いた。




