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14. お茶会

 エーリカが侍女とお喋りしながらお茶を飲んでいるその姿を

ユリウスはバルコニーから眺めていた。


 仲良くなった城の侍女に笑い掛け、時々庭園に咲く花に目を向けるエーリカはとても愛らしい。


 それを頬を緩めて眺めるユリウスの後ろで、侍従は溜息を噛み殺した。


 定例となったユリウスとエーリカのお茶会は、既に開始予定時刻を過ぎている。


 それなのにエーリカを一人待たせたままでいるユリウスの行いは、どう取り繕ったところで許されるものではないだろう。


 けれどーーー


実のところ、ユリウスがエーリカを待たせるのもまた定例になってしまっているのだ。


 不満を言うでもなくにこやかに待たされている時間を過ごすエーリカに侍従は感謝した。


 と同時に。バルコニーからエーリカを見る事に夢中でいるユリウスには、複雑な気持ちを抱いてしまう。


 フィンドラ王国では成人してからの婚約が一般的だ。

 王族の婚約も、これまでは早くとも成人の一年前がせいぜいで、ユリウスのように幼い歳で婚約するという事などなかったのだ。


 成人前の王子でも公の場に出る事はあるけれど、婚約者とはいえ王族ではないエーリカは基本的には公の場に出る機会はない。

 というか、参加する行事を慣例に沿えば、これまで成人していない王子の婚約者という存在がいなかった為に参加すべき行事がないのだ。


 しかしながら、必要に駆られて婚約したというのに、公の場に出さないのでは意味がない…とまでは言えないかも知れないけれど、出すべきではあるだろう。


 その結果、ユリウスが参加する場合は、婚約者が一緒に参加すべきかが検討され、その幾つかには一緒に顔を出す機会があった。


 そうした事情で、エーリカがユリウスと共に公の場に出る事はそれほど多くはなく、

参加しても挨拶くらいで退席する事も多い。


 そもそもユリウスが成人していない為に挨拶のみで退席する事も多いのだから、婚約者が一緒に下がる事は当然ではあるのだけれど、エーリカの姿を見る機会があまりに少ない事から、ユリウスとエーリカの仲が良くないのではないかと言う噂もないではない。


 このユリウスの蕩けた顔を見ればそんな噂など直ぐに消えてしまうだろうにと考えながら、侍従も庭園にいるエーリカをちらりと眺める。


 エーリカは特別優秀な令嬢ではないかも知れないけれど、好奇心旺盛で物怖じしない。


 だから、ユリウスの参加する公務にもっと多く付き添う事も出来ないわけではない。


 慣例がないのだから、参加しなくても問題にはならないかも知れないけれど、参加したとしても問題にはならない筈なのだ。


 だからつまり、問題はエーリカではなくて、ユリウスなのである。


 とても優秀な王子と評判のユリウスは、エーリカの前ではその評判を維持するのはとても難しく、言葉を選ばないのであればポンコツとしか言えない。


 いくらなんでもこんなユリウスを人目に晒すべきではないだろうという判断から、ユリウスの侍従とそして今まさにエーリカが話し相手にしている侍女が、どうにか改善すべく力を尽くし、よやく何とか一見では様になる程度の婚約者同士に見えるのではないかと言う状態までにしたのだ。…ただし外向けの短時間であれば、だけれど。


 つまりエーリカの前で舞い上がって頭が働かなくなるならば、とにかく体に覚え込ませて動ける様になるしかないと教え込んだのだ。


 とはいえ、未だにエーリカを前にすると、何を話したのか記憶に残らない様だから、傍にいる侍従や侍女が会話を後でユリウスに伝えなければならないし、エーリカに会う前から言うべき言葉を用意しておかなくては、満足な会話など出来ない。


 いや、決めておいた会話に誘導して、決めておいたセリフを口にする事が満足な会話と言えるのかどうかは…………。それは問わずにおこう。



 ユリウスは、エーリカの肖像画の部屋に入る為の条件である課題を熱心にこなし、どれだけ課題を積み上げてもやり遂げた。

 つまりは評判になる優秀さそのものが、エーリカを見たいという一心で身につけたものと言える。


 最近始めたのは、肖像画の部屋で侍女を相手に会話を交わす練習だ。


 それが終わってからでないと、エーリカの肖像画を眺めながらも侍女と話をせねばならず、返事をしないでいると、肖像画の前に侍女が立ちユリウスの視界を遮ってしまうのだ。


 まだまだ先は長そうに思うけれど、成人までには会話が多少は交わせる様になってもらわなければならない。



 一度ユリウスの予定が押してしまい、エーリカとのお茶会に間に合わない事態になり、慌てて部屋に戻って準備を整えたユリウスが、エーリカの様子を見る為にバルコニーから庭園を見た。


 それが……間違いだったのだ、と思う。


 エーリカを前にすると、真っ直ぐにエーリカを見る事が出来ないユリウスは、バルコニーからならば真っ直ぐエーリカを見る事が出来ると気づいてしまったのだ。


 それ以降、毎週の遅刻が続いている。


 諌めるべき事だ。…けれども、エーリカを見る事に慣れなければと考えれば、止めるのも憚られる。


 仕方なく黙認し、代わりにエーリカには毎週、お茶会を楽しんでもらえる様なお菓子を用意したり、花を贈ったりしている。



 エーリカにはユリウスからの心遣いであると伝える様にしているし、一応嘘ではない。


 エーリカとの会話の想定問答作成の為に、侍女はエーリカの好みを詳しく調べており、ユリウスとの事前の会話練習の中で、エーリカが好みそうなものを話題に上げ、選択し、準備しているのだから。


 今日はメレンゲクッキーにまつわるエピソードをエーリカと上手く話せれば良いのだけれど。


 侍従は息を軽く吐いてからユリウスに声を掛けた。


 「殿下、そろそろエーリカ様のもとへ参りましょう」


 ユリウスはうっとりとエーリカを見つめたままであったけれど、

侍従は気にせずユリウスの肩を叩いた。

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