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10. 婚約者の心得

 エーリカが第一王子ユリウスの婚約者になってから三ヶ月が過ぎようとしていた。


 エーリカは私室に新しく設置されたばかりのユリウスの肖像画を眺めながら、少しだけユリウスの事を思い返す。


 と言っても、エーリカがユリウスについて知っている事は少ない。



 最初にユリウスと挨拶を交わしたガーデンパーティーでは、両親からユリウスは王子様だから学んだ通りにきちんと挨拶しなさいとしか言われなかったし、

婚約が決まった時にも両親からは、ユリウスの臣下としてしっかり仕えなさいと言われただけだった。


 『臣下』というのは、王子様を大事にして王子様の役に立つ事をする人なのだそうだ。


 エーリカがユリウスの婚約者である事は、役に立つ事であり、だからエーリカは婚約者としての勉強をきちんとしなければならない。



 けれどもユリウスとの婚約が必要なくなれば、いずれ婚約は解消されるだろうとアロネン伯爵(お父様)は言う。


 つまりはそれまでがエーリカが婚約者という役割を果たさなくてはならない期間であり、それをきちんと出来れば王様がきっとご褒美をくれる筈なのだとか。



 ユリウスと二人での勉強会をする事になってから、勉強会での出来事は両親にきちんと報告している。


 両親は報告の度に難しい顔をしていたけれど、ユリウスにはまだこちらからあまり話し掛けない方が良いだろうと言いつけられた。


 だからユリウスとは挨拶くらいしか出来てはおらず、勉強会もエーリカ一人で行う事に変わった。


 その方が勉強に適しているというのがその理由で、

確かに二人での勉強会ではあったけれど、教育係はエーリカに向けて話す事が多かったので、きっとエーリカ向けの勉強にユリウスは付き合っていたのだろう。


 それは『臣下』として良くないように思った。


 だからエーリカは一人でもしっかり勉強しなくてはと自分に言い聞かせた。



 とはいえ、そう思う気持ちも間違いなくエーリカにはあったのだけれど、

それをきちんとしていればお城のあれこれを色々見て楽しんでも許されるだろうという気持ちもあった。


 だからお城に行ってもユリウスに会わないでいると、ついうっかりと楽しむ気持ちの方が大きく膨れそうになってしまい、

そんなエーリカの気持ちに気づかれてしまったのだろうか、

勉強が終わった後に、ユリウスとお茶会をする事になった。


 もっともお茶会の席でも、やはりユリウスとは挨拶を交わすくらいしか会話は生まれなかったのだけれども。


 エーリカは両親からユリウスに話し掛けるのは控えるように言われていたし、ユリウスから話し掛けられる事はなかったからだ。


 だからユリウスについて、エーリカが知っている事は相変わらず王子様であるという事くらいで、付け加えるとしたら、好んでいるのだろう服装と好きなのだろうお茶やお菓子についてくらいだろう。



 ユリウスの肖像画は、エーリカの部屋の中でひどく浮いている。


 けれども、家のどこに第一王子の肖像画を設置するのが無難だろうかと両親が検討した結果、人目につく場所は避けたいし、仕舞い込むわけにもいかないだろうから、エーリカの部屋が適当だろうと決まったのだ。


 まあ、仕方がない。そのうち慣れるだろう。


 エーリカは、親しく会話を交わしていないとはいえ、何度も顔を見ている筈のユリウスが、どこかいつもと違う印象である事に首を傾げる。


 やはり絵なのだから実物とは印象が違うのかもしれない。


 そんな風に考えながら肖像画を見つめるエーリカを、肖像画の中のユリウスは真っ直ぐ見つめ返していた。



  *


 ユリウスとのお茶会を終え、エーリカが帰っていった後、第一王子の傍付きは頭を悩ませた。

 このままにするわけにはいかないし、何とかしなくてはならない。


 慣れないならば、何度も会っているうちに仲を深めていけるものだろうとは思うものの、会う機会を増やしたところで状況が改善するとはどうしても思えない。


 せめて会話を、とは思うけれども、ユリウスの様子を考えると、ユリウスから話し掛けるのはまだ難しいように思えるし、かといって、エーリカに話し掛けてもらったところで満足に言葉を返せるようにも思えない。


 …まずは挨拶を返せるようにならなくては、会話は無理だろう。


 侍従はそう考えて溜息を呑み込んだ。


 だとしたら、どうやって慣れていけばいいのだろうか。


 悩んだ侍従は、エーリカの肖像画を用意する事を思いついた。


 エーリカの絵を見る事で、エーリカに慣れる事が出来るのではないだろうか。



 それが効果を発すると自信を持つ事は出来ないけれど、やってみなければ進展もないし、そもそもお互いの肖像画を持つというのは悪くない行いであろう。


 侍従は画家を二人手配し、エーリカの勉強の後の時間に、エーリカとユリウスは二人の画家の前で、それぞれ椅子に座って時間を過ごす事になった。


 会話を交わす必要もなく、ユリウスとエーリカが同じ部屋で過ごせる時間は、侍従にとって胃を痛める事のない平和な時間だった。


 そんな時間を数度経て、急いで仕上げられた肖像画は、しかしユリウスの私室からは一日で撤去された。


 なぜならユリウスが一晩中それを眺めているという事件が起こったからだ。


 急遽肖像画の為の部屋が用意され、ユリウスは時間が空くとその部屋に通って肖像画を眺めている。


 そんなユリウスはとても幸せそうではあるけれど、

果たしてこれはエーリカとの仲の進展に役立つのだろうか。


 侍従は一度目を瞑ると、懸念から目を逸らす。


 今は進展がある事を信じていたい。

 侍従は目を開ける前に、そっと神に祈りを捧げた。

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