恋をしている。
喉の渇きに我慢できなくて、ゴクゴクッと飲んだ豆乳いちご味がまったりと喉にへばりついた。
1日1本の豆乳は、飲むべきタイミングを考えた方がいいかも。
これだからあたしは、せっかちだと言われるんだ。
一緒に買ったコロッケパンとジャムパンをぶら下げて、教室に向かった。
ふと、廊下の掲示板に貼られてるプリントに目が留まる。
『中間テスト結果』とあって、その下に20人の名前が連なっている。
いまどき成績順位を張り出すのもどうかと思う。
だけど、上位者だけを張り出すから確実に入ってない者たちはあまり気に留めない。
10番台は入れ替えが激しいけど、10番内になればそれほど入れ替わることもない。
常連連中なった自分の名前の上の名前を見る。
今回の1番は、自称『ベンキョー嫌い』。
・・・おもしろくなーい。
自分より後に連なる名前を一通り見て、もと来た廊下を歩き出す。
『ベンキョー嫌い』の首席は、たぶんひとりでいる。
あたしは足取り軽く、階段を駆け上がった。
「ワタ!」
予想どおりの場所に、予想どおりひとりでいた。
素速く状況を見て、もうお昼を食べ終わったことを確認する。
「あたしを見て怪訝な顔をするのは失敬じゃないか、綿貫朔也。」
「・・・」
「しかも無言でため息とは、友を失うぞ。」
何か言いたげに向けてきた視線を無視して、彼の隣に腰を下ろす。
すかさず綿貫はその距離をあけた。
「・・・淋しがってると思って来てやったのに。」
「頼んでない。」
「こんなところでひとりでゴハン食べてマンガ読んでるのに?見るからに淋しそうなのに。」
「余計なお世話。」
「つふぉふぉんなふぉ。」
「何言ってんのかわかんねぇよ。」
ジャムパンを頬張りすぎたらしい。
喉につかえそうになりながら、豆乳いちご味の力を借りて流し込む。
綿貫は嫌なものを見るようにあたしを見てから、読んでいたマンガに視線を戻した。
『強がんなよ。』
もう一度言ってあげようかと思ってやめた。
屋上の扉から差し込む日差しに綿貫の左耳のピアスが青く光って、綺麗だった。
「今回1番だったんだねぇ。」
呟きにも似たあたしの言葉に、彼は何がって顔をした。
まぁテスト順位に興味がないのは重々承知だけど。
「中間、張られてたよ。見てない?」
「知らね。」
「だろうね。2番は春日で、あたしは3番。」
そこまで言って、自分もそれほど注意深く気にしてるわけでもないからそれ以降はうろ覚え。
いつもいるメンバーの順番が多少違うくらいだろうし。
「つぅか、1番取るの初めてじゃないの?」
「そーだっけ?」
「そーでしょ。・・・アベちゃんに褒められてないの?」
「・・・ねぇなぁ。」
残りのジャムパンを頬張った。
二口かよ、って呆れたような声が聞こえたけど、無視をした。
おいしく食べられればそれで良し。
綿貫は相変わらずマンガを読み続けてるし。
テストの順位を知らねって言って、ひとりでゴハン食べて、マンガ読んで、ピアスは青くて、カノジョに褒められなくて、拗ねている。
・・・ガキ。
『好きな子がいる。』
綿貫朔也にそう言われたのは、1年前、この場所だった。
入学式で人生初の一目惚れして1ヶ月後に失恋。
あんなのは恋じゃなかった。
うわべしか見てなくて好きだ好きだと騒いでただけのあたしは恋に恋をしてた。
恋する少女のあたしが可愛くて、コクってうまくいけば万々歳。
振られても、”失恋したあたし”を楽しむんだと、思ってた。
「黛。」
ゴクリと飲み込んだジャムパンの塊に、返事が詰まる。
「先、行く。ひとりじゃ淋しいだろーから、これ貸してやるよ。」
そっと頭に置かれたマンガの下から、僅かに笑う綿貫が見えた。
ジャムパンが甘すぎて、ぎゅぅぅぅぅと心臓が苦しくなって、頷くように俯いた。
遠ざかる足音に、深く深く息を吐く。
置いてったマンガは、ギャグマンガ。
なのに彼は、ずっとつまらなそうな顔で読んでいた。
コロッケパン、から食べればよかった。
告白、なんてしなければよかった。
しなければ、恋に恋してたあたしで、すんだのに。
あたしは彼に、恋をしている。




