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卒業前祝い

作者: 直井

「受験に受かったらキスしてくれますか?」


 ガコン、と音を立ててペットボトルが落ちてくる。近所にあるあまり聞いたことのないメーカーの安い自販機。昔からあるけど、たまに商品が変わるから、なんとくつい見ちゃうんだよね。だけど大体買うものは決まってる。

 だけど今日は、いつもと違うものを押してしまった。まさか後ろから急に声を掛けられるなんて思ってなくて、ビックリしちゃって狙いを誤った。


 受け取り口からペットボトルを取り出して振り返れば、カチャカチャと忙しなく眼鏡に触れている年下の男の子。隣の家の子だ。昔は私に懐いていて、よく側にくっ付いて来てたのに、いつからか近寄って来なくなっちゃったんだよね。

 ……なんて、本当は懐かれなくなった原因は分かっている。玄関先でうっかり彼氏とキスしているのを見られてしまったのが多分そう。思春期に変なものを見せちゃったかなとか、何となく私も嫌な気持ちになって、それっきりその彼氏とは別れたんだけどさ。


 なんだか久しぶりに話しかけられた気がする。だけど変に拗らせちゃったのかもしれない。昔は確かに好かれているかなって自意識過剰になったものだけど、実は今もずっとそうだったのだろうか。だとしたらなんというか…………



 買ったばかりのペットボトルのフタを開ければプシュッと炭酸の小気味良い音。じゅわじゅわと弾けた水滴が指先についた気がする。

 コクリと喉を鳴らして一口飲めば、鼻腔を突き抜ける爽快さと共に僅かな痛みが走った。炭酸なんてここ何年も飲んでいなかったな。じんわりと瞳に涙が浮かんできた。


「はい、これ」

「えっ」


 しっかりとフタを閉めて、突っ立ったままの男の子に手渡す。戸惑いながらも反射的に受け取られたペットボトルに満足して、笑みが溢れる。


「あげるよ。卒業前祝い」


 私は炭酸なんて飲めないけれど、馴染みがあったそれはいつも男の子が買っていたものだ。

 今の好みなんて知らないけれど、きっとそう。この子はそんなに急に好みが変わることないと思うのだ。



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