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花園の剪定師  作者: 梟樂
第一章《蓮》
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第六話 訓練


時刻は午前11時を過ぎた頃。

工房と同じ階層にある訓練室は、風を切る音と金属音が響き合っていた。


「もう限界かしら。15分休憩!」


呼吸一つすら乱れていない塩見は、ペットボトルの水を一気に飲み干す。体を伝う汗をタオルで拭い、少し乱れた髪をもう一度しっかりと結び直した。

彼女の視線の先には、床に倒れ伏してピクリとも動かなくなった班員が居る。八郎である。


「八郎、起きれるか?」


頷く事すら出来ず、八郎は目だけを薬野に向けた。

立ち上がろうとして腕に力を入れても、プルプルと震えるばかりで意味をなさない。薬野の手で仰向けに転がされ、補助のおかげで漸く座る事が出来た。八郎は短い呼吸を繰り返している。


「へいへーい、体力無いねぇ八郎くん。そんなじゃやってけないよ〜?」


「サボってたお前が言えた口じゃないだろ......」


「適材適所だよ適材適所。俺は遠距離でサポート役、ゲームで言ったら僧侶、いや魔法使いかな? 後衛なんだから、別にムキムキになる必要ないしね」


「あら。郁人は元気そうね、私と走りましょうか」


塩見に腕を引っ張られ、そのまま二人は走り始める。

あれだけ過酷なトレーニングをした後なのに、塩見は随分と元気そうだなと、八郎は水を飲みながらそう思った。

今回のこの訓練は、武器であるプルニング・ギアの使用方法の講習を兼ねていた。名称こそ確かにギア、なのだが。


その訓練の始まりは、およそ一時間前に遡る。


「プルニング・ギアは鎮圧作業用に開発された特殊武器。私とムウと八郎くんの武器はブレードタイプって言って、言葉通り刃を持つタイプね。ブレードの部分には鎮静剤が入ってて、切り付けるのと同時に薬液を内部へと浸透させる構造になってるの。だから決して素手では触らない事」


「うす。でも、切り付けるって大丈夫なんですか? 暴れてるとは言えど、流石に危ないし、それこそ傷害とか」


「残念だけど八郎くん、ここはほぼほぼ治外法権なんだよね。この鎮圧作業も医療行為の一環として処理されてる。なにせ、かの少女達は切り付けられた程度じゃ死ぬどころか血の一滴すら出さないよ」


それは人間じゃないだろ、とは思ったものの、言葉に出来る程の勇気は無かった。先程から少女相手には相応しくない言葉のオンパレードである。

まるで彼等は、八郎がこれから出会う少女達の事を怪物とでも思っているかの様だ。


「プルニング・ギアは人を殺せない。親分がそう言ってた。昔」


「そうなんすか、それならまぁ......」


「よし、前置きは終わり。ここからは実践よ、八郎くん。あなたの武器を取りなさい」


「はい」


塩見に促され、八郎は己の武器を握った。

未だその重さが腕を地面へと引っ張り続けるが、意地だけでそれに抗い続ける。

だがこう思った。実践とは何だろうか。

今までの話を振り返っても、八郎は一度も武器の振り方なんて教えられていないのだが。

何故塩見は今、片手剣の形をしたプルニング・ギアを構えているんだ。


「ブレードの保護はしておいた。でも体は気を付けろよ、当たったらちゃんと痛いぞ」


「当たらないわよ流石に」


「当てないでくれよ流石に、訓練で怪我なんて勘弁してくれ。寸止めで頼むぞ」


「ちょ、ちょっと待って下さいちょっと!! 今から、あのっ、今から何が始まるんですか!?」


塩見は不思議そうに小首を傾げた。


「今から、使い方を教えるのだけど......? 実際に武器を振ってみた方が身に付くでしょう? 素振りみたいな感じで」


「素振りって言うか、え? ホントにやるんですか?」


「みんなこれで教えてきたもの、任せなさい!」


その声を皮切りに、塩見は一気に踏み込んで八郎に近付く。

大きく剣を振りかぶり、薪を割る様に真っ直ぐ刃が振り下ろされる。その勢いは、八郎の目でハッキリと捉えられる程遅い。振りかぶった際は、それにすら気付かない程速かったと言うのに。


「ほら、これを受ける。クロスさせて? 真っ直ぐ突っ立ってるだけだと、今の八郎くんじゃ受け切れないから、膝を曲げて」


言われるがままに膝を曲げ、武器を握る手に力を込めた。

再び速度を増した刃が、弱々しく構えられた両の剣に直撃する。鳴り響いた金属音が、その一撃の重さを証明する____訳ではなく。明らかに手加減をされた一撃が、軽い金属音をだけを残した。


「そう、その感じ。上手ね。けど一旦それ渡してくれる? ちょっと気になる事があるの」


「どうぞ」


塩見は八郎のプルニング・ギアを手に取る。

二対の剣であるそれを、最初ケースに入っていた通りの鋏の形に戻した。そのまま何やらあちこちを弄っている。


「やっぱり。硝間さんが素人に二刀流をやらせるなんて、ちょっと変だと思ったもの。両手剣の方が扱い易いわね」


「えと、どう言う事すか? これって二刀流じゃ......」


「あなたも見たでしょう? ムウのにもあった変形ギミックよ。なんて言えばいいかしら、メインとサブ? みたいな。硝間さんは『見込みがある奴』にしか、このギミック付けてくれないのだけどね」


その『見込みがある奴』の中に、どうやら八郎が入っているらしい。千草の大鎌に変化するハルバード状の武器、双剣に変化する鋏を模した両手剣、硝間の変形ギミックは随分と凝った仕様である。こう言うのを浪漫とでも呼ぶのだろう。

八郎の元に剣が戻る。

重さは変わらないものの、両手で持つ方が何となく安心感があった。


「よし、しっかり握ってね。そしてしっかり踏ん張る。一回一回の攻撃は間隔が広いから、下ろせるまで耐えて。まず5分振りましょう。素振り開始!」


号令と共に大きく振りかぶる。

ゴウ、と重く風を切る音が、確かに聞こえた。

またもう一度、また一度。時間が許す限り、八郎は剣を振るった。汗が目に入る事も気に留めずに。


「頑張ってるねえ。ムウも混ざったら?」


「今日は疲れた。もう遊べない」


「終わったら昼にするか。作ってもいいが」


「ラッキー、じゃあ何にしよ。オムライスは?」


「炒飯食べたい」


昼ご飯の会議が視界の端で繰り広げられているが、八郎は剣を振り続ける。だがもう、その腕は悲鳴を上げているのだが。


時計は進み、そして今に至る。


地面にへたり込んだままの八郎は、昼ご飯は結局何に決まったんだろうと考えていた。かなりお腹が空いただろうし、結構ガッツリ食べたい気分だろう。


「どうした、大丈夫か?」


「あ、はい。薬野さん、昼ご飯って何になったんですか」


「ムウが勝ったから炒飯になった。八郎の分は大盛りにしておくよ」


「やったー、ありがとうございます!」


休憩時間とされた15分は、もう少しで過ぎようとしていた。

その時だ。ブザーの様な音が、訓練室を埋め尽くしたのは。


『嵐山より連絡。アルファ班班長、塩見夕凪、ベータ班班長霜山玄悠。二名は至急モニタールームへ集合。繰り返す。アルファ班班長、塩見夕凪、ベータ班_____』


「あ、呼び出されちゃった。ごめん皆、お昼先に食べておいて! 類、戸締り任せたわ!」


塩見は急いでタオルで汗を拭い取り、武器を収納して駆け出していく。とっくに姿は見えなくなって、訓練室には四人だけが残された。

先程の音は緊急時用なんだろうか。随分と心臓に悪い。


「よし、帰ろ〜......疲れた、飯〜......」


「そうだな。みんな、片付けて撤収しよう」


八郎はケースに武器を戻してそれを背負う。背中の汗が滲み、言いようのない不快感があるものの、気分までは曇らない。けれど、戻ったらいの一番にシャワーを浴びようと八郎は思った。


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