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18歳の頃

 高1の時から澤田メグミという同級生とつき合っていた。そして1年の夏休みに互いの初体験を済ませ、3年間、メグミは俺の彼女だった。だが卒業までつき合っていたのか、というと微妙だ。というのも、3年の夏休みにメグミが何人かの男たちと遊び歩いていると聞いてからおかしな関係になったからだ。


 当時のメグミは同じクラスの高根春菜という女子と親友だった。そして高根さんは宮田輝樹という男のことが好きだったのだが、輝樹はいつも数人で連んでるヤツでーーー俺はどうにも群れるのが嫌いなのだがーーー高根さんは一人ではそのグループに近寄ることができず、メグミを誘い、二人揃ってそいつらと遊ぶようになったらしい。その甲斐あって高根さんは輝樹の彼女になったというが、それ以降もメグミはそいつらと夜な夜な遊び続け、俺は無性に腹が立った。あきらかにジェラシーだった。そいつら全員をボコボコにしてやろうか、それともメグミをどやしつけようか、いや両方だ。っで、どっちを先にしようかと考え、先ずはそいつらがしょっちゅう行ってるカラオケがどこにあるのかを突き止めた。だが俺はそれら全部をやらなかった。ムキになるのがカッコ悪いと思っちまったのだ。それに嫉妬してる自分が嫌だった。っで、悶々としながらも面倒になって全部をブン投げちまったから、ハッキリ別れることもなく、いつしかメグミとはフェードアウトのようになり、そのまま卒業式を迎えた。もう何ヶ月も口もきいてないから別れたといえば別れた、のだろう………そこんところは自分でもよくわからない。


 卒業式はというと、その日になるまでは心がザワザワして落ち着かなかったのだが、なんの感慨もなく終わり、こんなものかという思いしかない。ただ、同級生たちの親が大勢来ていて、高校の卒業式にも親って来るんだと驚き、1〜2度会ったことのあるメグミの母親を見かけた時は居心地の悪さを覚えた。

 卒業式が終わると教室や廊下は凄まじいまでの喧騒で、何故だかイラついた俺は早々に生徒用玄関を出たのだが、見たことの無い女の子に、


「あの………一緒に写真撮ってもいいですか?」

「え…………俺?」

「…………ダメ………ですか?」

「いや…………いいけど………」


 2年生のバッチを付けていた。「君って誰だっけ」と聞こうと思ったが、どうでもいいやとその子と並び、それをやっぱり全然知らない女の子が撮り終えると、


「私…………来栖さんに憧れてました!」


 そう怒鳴るように言ったと思ったら逃げるように走って行ってしまった。


「………そうなの………でも誰?」


 などと呟きながら見送っていると、別の女の子ーーー今度も全然知らない女の子に捕まり写真を撮られた。それが3度繰り返されたが、どの女子も同級生ではなく、名前も知らなければ顔も知らない下級生ばかりで妙な気分だ。そして校門を出るとまた呼び止められた。


「来栖君モテルね。アタシもちょっと話あるんだ。家に来て」


 奈緒だった。

 俺に話し掛けてくる女子は限られていた。奈緒はその中の1人で、見掛ければ俺の方から話し掛ける事も度々あったが、家に遊びに行ったことなどない。それでも来て欲しいと言うだから、きっと大事な用事があるのだろう。


「このまま行ってもいいのか?」

「えっ………うん、いいよ。一緒に帰ろう」


 奈緒は俺にくっつき腕を絡めてきた。

 周りにいた大勢の同級生たちは腕を組んで歩く俺と奈緒を驚いたように見ていた。


「奈緒、俺が好きなのか?」

「えっ…………エヘヘへ………好き」


 そう聞いてしまって変に意識した。


「アタシ関東の大学に行く。来栖君は札幌の大学だね。4月になったらもう会えなくなるかもね」


 奈緒はそんなことを言っていた。俺はメグミ以外の女と腕を組んで歩くのは初めてだと改めて気づいてしまい、妙に緊張してきた。それにさっきから腕に柔らかいナニかが当たってるが、きっと奈緒のオッパイだ。本人は気づいてないのか? 普通分かるよな。それとも女のオッパイって少しくらい当たっても解らないくらい鈍くできてるのか。奈緒がいろいろと喋っていたが、俺はそんなバカなことを考えながら生返事をしていた。そして家に着くと自分の部屋に案内した奈緒が言った。


「アタシ決めてた………初めてのセックスは来栖君」


 大きな南向きの窓がある広くて明るい部屋だった。俺から目を逸らさずに服を脱いでいく。下着だけになった奈緒を抱きしめ、ベットに座らせそっと唇を重ねると、


「もっと本気でキスして。アタシがバージンってこと気にしてる?」


 押し倒して全部を脱がせた。仰向けで横たわる裸の奈緒を見下ろしながら服を脱いだ。そして何度も抱いた。日が暮れ、奈緒が作ったインスタントラーメンを二人で食い、食い終えるとまた抱いた。


「今日、親いないんだ。泊まってく?」


 俺は夜中の2時過ぎに帰った。部屋を出ようとする時に裸の奈緒が言った。


「メグミのことハッキリさせた方がいいよ」



 メグミとのことはそのまま放っておこうと思ってた。メグミは地元で就職すると聞いていたし、4月になれば俺は札幌に行く。

 なんとなく直接会って喋るのが気が引け、電話を掛けるのもやっぱり気が引けた。その理由は分かっていた。自分では認めたくないが引きずっているのだ。これってジェラシーなんだろうか、とずっと思ってたが、今改めて考えてみると、不思議と引きずっていない自分に気がついた。胃にズッシリとナニかが入っているような嫌〜な感じが無くなってる。

 だけど今更な話だ。メグミとは何ヶ月も喋ってない。どうしようかと考えながら数日が過ぎた。暇つぶしに歩いてコンビニに行った時だ。店内で商品棚の角を曲がると女と鉢合わせとなり至近距離で目が合った。メグミだ。


「あっ…………ちょうどいいや。話したいことあって…………直ぐに済むから、ちょっと表で………いいか?」


 何も言わずに俺の後に続いてコンビニから出てきたメグミ。向かい合っても下を向いたままで顔を上げない。


「今更だけど…………別れよう」


 もうとっくの前に別れてるでしょ、と言われるかと思ったが、下を向いたままのメグミが僅かに頷いた。


「引き留めて悪かったな……………俺、行くわ…………元気でな」


 それでも何も言わないメグミから離れた俺は、家に帰った。

 俺は何しにコンビニに行ったんだ、と笑おうとしたが、何故か胸が苦しかった。これってなんだろう? そういえばメグミはコンビニで一人だったか? 誰か友達でもいたんなら、ちょっとバツが悪かったんじゃ………



 2月の後半から自動車学校に通っていた俺は、毎日夕方になると送迎バスに揺られていた。自動車学校には、つい数日前に、様々な高校で卒業式を終えた同い年の輩で溢れていて、その中には俺と同じ高校だったヤツも何人かいた。その中の一人、大柴ミクが珍しく俺の傍に寄って来た。

 メグミはこの大柴ミクとも仲が良く、まだ俺とメグミが上手くいってる頃は、大柴さんの方からしょっちゅう俺に話し掛けてきていたが、つき合ってるのか別れたのかハッキリしなくなってからというものは、明らかに俺を避けていた。


「来栖君、隣に座ってもいい?」

「いいけど、バスの座席って狭いぜ」


 俺も大柴さんも太ってなどいないが、隣同士で座ると、寄り添うようにピッタリとくっついてしまう。


「嫌なの? 私と座るの」


 そう言いながらも座ってきたから俺は窓の方ギリギリまで寄ったが、それでもケツや太ももがくっついた。大柴さんは細い方だと思っていたが、女ってやっぱりケツがデカいんだ。


「大柴さんの方こそ嫌じゃないのか? 俺のことずっと避けてたろ」

「それは………」


 なぜだか言い淀んで黙ってしまった。それでも隣に座ったばかりの大柴さんは立ち上がることもできないようで、余計なことを言っちまったと後悔した。それに気まずい。


「大柴さんって卒業後どうすんだっけ?」

「え…………私? 高看に行く。来栖君は札幌の大学だよね。来月になったらもう会えなくなるのかなぁ………寂しくなる…………ちょっといい? メグミのことなんだけど…………聞いちゃっても」

「別に、いいよ」

「別れたんだよね?」


 ズバリ聞いてきた。でも聞くんだったら、なんでもっと前に聞いてこなかったんだ? ギクシャクしてたけどまだつき合ってると思ってたのか? まぁどうだっていいか。


「ああ、別れた」

「私ね、あの時コンビニにいたんだよね」


 マジか、やっぱりあの時メグミは一人じゃなかったんだ。


「来栖君は私に気づいてなかったみたいだけど………あの時に別れたんでしょ。戻ってきたメグミ、目ぇ真っ赤で………泣き出すんじゃないかと思った。なんだか無理に笑おうとしてたようだけど、口元が震えて喋れないみたいで………」


 ナニ?

 俺はてっきり、もう別れてるでしょ、と言われそうで言い出し難かった。アイツはいったいどういうつもりだったのか、今更だがイライラする。


「絶対にメグミが悪いの分かってたから、今更泣いてどうすんのって思ったし、同情する気もなかった。メグミを引っ張り込んだのは春菜だけど、来栖君が嫌がるの分かってるクセになんで付いてくのってずっと思ってて、ハッキリ言っちゃうとね、ハラ立って、なにこの女、って思ってたんだ。最初のウチだけならまだ分かるけど、春菜だって一人でも全然平気になってんのに、それでも一緒に遊んでたし…………。でもメグミの気持ちなんとなく分かるような気がして。なんて言ったらいいのかな……………来栖君って怖いよ。女子にだって凄い目で睨むし、不良グループも来栖君のこと避けてた。そんな来栖君とメグミがつき合ってるの皆んな知ってて………来栖君の彼女に言い寄る人なんかいないよ。それ一番知ってたのってメグミだと思う。メグミって変な余裕あった。自分は来栖君の彼女なの、だからこんなことしてたって誰も言い寄ったりしないし、嫌な事もされないみたいな。実際にそうだったみたい。私が来栖君の彼女でも変に余裕持っちゃったかもーーー」


 余裕を持つってナニよ? ダメだ、意味が分からん。

 そして大柴さんは「来栖君も同じだったでしょ」と続けたが、俺も同じ?

 確かに高校の3年間で俺にコクって来た女子などいないし、俺も誰にもコクったりしてない。それはメグミがいたからだ。だけど余裕って………やっぱり分からん。それを言おうと大柴さんを見ると、顔が近過ぎる。そして何故だか可愛いと思ってしまって、直ぐに前を向いた。


「ちょっと〜〜なんで目ぇ逸らすのぉ」

「いや、逸らした訳じゃ…………顔近過ぎちゃって、バス揺れてるし、間違ってチューしちゃったら………」

「いいよ、みんなに言いふらすけど」


 思わず大柴さんを見ると、ニッ、て感じで笑っていて、それもさっきよりも顔が近く、慌てて前を向き直した。


「冗談かと思った? マジだよマジ。バスの中で来栖君にチューされたってきっと言うわ、ヒッヒッヒ………さっきさ〜俺のこと避けてたろって言ったよね。うん、避けてた。来栖君ってさ〜、変なバリアみたいのあるよ。だからメッチャ話し掛け難いの。女子は皆んなそうだった。それがメグミとつき合うようになって、アレ? 普通に笑ったりするんだ、って分かってきて、それで喋るようになったらさ、意外と面白い人だよね、来栖君って。それがメグミとおかしくなって…………さっきも言ったけどメグミにはムカついた。だからメグミなんか無視して来栖君と今まで通り仲良くしようかとも思ったんだけど…………女子って面倒なんだよね。…………来栖君には分かんないだろうけど、避けるしかなかったの。でも、メグミとはハッキリ別れたみたいだし、もう卒業しちゃったからぜーーんぜん平気。チューされたら速攻で電話掛けまくるわ。………1軍が誰だか知ってる?」


 ナニ? 急に1軍って、プロ野球の話か? 誰って………


「出た……………なんで私がプロ野球の話なんかするの!!」


 ちょっとそんな近くで興奮しないでほしい。ツバ飛んでるって。


「来栖君ってちょっと変。知らな過ぎ。……………1年の時からメグミとつき合ってたからかな〜〜……確かに知る必要ないか………とにかくね、1軍って呼ばれてる人がいるの。来栖君のクラスだったら………あれ? いないかも。でもウチのクラスじゃメグミが1軍だった。それって彼氏が来栖君だったからだよ。誰が決めるかっていうと、男子の評価がメインなんだけど、女子の中で嫌われてたりしたらムリ。っで超可愛いかったり、運動部のエースだったり、でもバカはダメ。成績もそこそこ良くって、ダサイのは勿論ムリで暗いのもダメ。コミニュケーション力って重要かな~~、っで決定的なのは超かっこいい彼氏がいること。まぁ高校ん時の話だから、卒業しちゃった今思えばくだらないけど、高校生にとっては重要かな。さっきメグミが余裕あったって言ったけど、1年の時からずっと1軍だったからだよ。でもね、メグミって確かに可愛い顔してるけど、ちょっと色黒で超が付くほどじゃないし、スタルもそんなに良くなかったし、成績だって普通。だから彼氏が来栖君じゃなかったら1軍にはなれなかったと思う。ウチらの学年でスタイルが良くって凄い美人って言ったら……奈緒だよ。成績も良かったし、男子からも人気あって随分コクられてた。だけどゼーーンブ断ってたから、影の1軍って感じかな。そう言えばさ~~、卒業式の日なんだけど、奈緒と腕組んで一緒に帰ったってマジ? …………マジなんだ………。メグミさ~~あの日、来栖君のこと探してた。なんとか仲直りするつもりだったんじゃないかな~~、っで誰かが言ったの、奈緒と腕組んで帰ってったよ~って」


 自動車学校も終盤となり、仮免となって路上講習に変わってからも、大柴さんは俺の教習時間に合わせ、送迎バスではいつも隣にいた。


「そろそろ自動車学校も卒業だね。なんかさ~~1ヵ月だけど来栖君とつきあってるみたいで楽しかった。………ねぇ……チューして」


 あれから奈緒とは会っていないし、連絡がくることもなかった。それに俺も大柴さんのことが可愛いと思っていた。


「いいけど………ここで?」

「うん、ここで………近くの席に誰もいないし」

「………どこがいい?」

「くちびる」

「チュッて感じのやつ?」

「そんなのヤダ」

「なら、ちょっと口を開けて」

「……うん………こう?」


 目を閉じて口を僅かに開けている大柴さん。うん、すごく可愛い。



「…………えへへへへ………来栖君とベロチューしちゃった~。どうしよう………誰かに言いたい。……ダメ?」

「別に構わないよ」



 4月になり、俺は札幌へと行った。

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