『はつ恋』ツルゲーネフ著を読んで2 竹久優真
偶然若宮さんと同じ電車に乗り合わせた入学二日目以来、僕はまた毎朝のように早すぎる電車に乗り、早すぎる時間に学校に到着。朝読書をする毎日となった。
やっていることは一年前とほとんど同じで、まったく成長していない。
「あー、ゆーちゃん。朝会うのは珍しいね。いつもこんなに早い電車で通ってるの?」
ある朝、駅から少し離れたところにある自転車置き場に駐輪している時に気さくに声を掛けてきたのは中学からのヲタクの友人、鳩山遥斗こと、ぽっぽだ。
「なんでゆーちゃんはこんな早い電車に乗ってるんだ? ぼくと同じ東西大寺駅で降りるんでしょ? おんなじ駅までだから高校に行くときは朝一緒になると思ってたのにいつもゆーちゃんいないからどうしたんだろうと思ってたけど……。何もわざわざこんな超満員電車に乗らなくたって充分間に合うでしょ」
「そう言うぽっぽこそ今日はなんでこんな早い電車なんだ」
「部活だよ」何かを自慢するような表情で言いながら、自転車を止め終わった僕たちは二人で並んで歩きながら気のホームへと向かった。
「ぼく、部活始めたんだよ」
「……ふーん。ぽっぽがねえ。で、いったいなんの?」
「コンピューター研究部。……いいよね、高校ともなるとなかなか面白い部活がある。中学の時なんてまるでぼくの興味を引くものなんてなかった……」
「そうか……。ぽっぽは将来システムエンジニアになりたいって言ってたっけ」
「ゆーちゃんも部活始めたの?」
「……ああ、まあ、なんていうかな。朝読書だよ、家じゃうるさい妹とかエラそうな妹とか厚かましい妹とかがいて、ゆっくり本が読めないからね。それで朝早くから学校に行って読書でもしようかなって……。まあ、そんなとこだ」
「ああ、ゆーちゃん本気で朝読書なんてする人だったの?」
「中学のころからそうだろ」
「あれはてっきり……まあ、いいや」
言いながら駅のホームに到着した僕たちはいつもの習慣でつい、そのホームの端まで歩いて行った。それは迂闊だったと言えるだろう。今日はぽっぽがとなりにいるという事をもっと考慮するべきだったかもしれない。
「あ、優真くんおはよう」駅のホームの端っこで肘から上だけで小さく手を振る黒髪の文学乙女、若宮雅。「あ、きょうは(、、、、)ぽっぽ君も一緒なんだね」
その瞬間、事情を理解したであろうぽっぽがジト目で僕を見た。
「……ふーん。きょうはってことは毎日なんだね」
僕はその言葉を無視した。
二人して満員電車の中で若宮さんを守り、ぽっぽと僕は東西大寺駅のホームに降り立った。
「ふーん、朝読書ねえ」
「いうなよ」
「ああ、安心して、明日からは、ぼくはこの時間の電車は使わないようにするから」
それだけ言い残してぽっぽは立ち去った。ぽっぽの通う東西大寺高校は駅の南口方向にあり、僕の通う芸文館高校は駅の北口方向にある。したがってそれぞれ別々の出口に向かって解散した。
朝一番の誰もいない教室で本を開いたが、どうにも読書ははかどらなかった。窓の外の穏やかな風を眺めながら昔のことをつい思い出してしまう。
中学三年の夏休みに入ると若宮さんは市街地にある大きな市立図書館に通うようになった。四階建ての大きな建物で、一階のテラスの向かいにはわりと広い公園がある。公園の隅っこには役目を終えた機関車(D―51と言うらしい)が展示してあり、僕たちは汽車公園と呼んでいた。汽車公園の向こうには西川という名のほとんど用水路にしか見えないような流れのとても緩やかな小さな河川と、それに沿って長い遊歩道がある。そこには様々な植樹がされていて、ここより下流の方に行けば長い桜並木もあり、いつともなく散歩者が絶えない。
景観こそいいものの若宮さんはいつも景色になんか目もくれず本を読みあさっていた。
僕はそこに時々訪れる。――偶然を装って。
そのころには若宮さんにとって僕は充分に読書好きのイメージが定着していて、偶然という言葉にもいくらか信憑性もあっただろう。本来ならば毎日のように通いたいのだが、さすがにあからさま過ぎて、なるべく日を空けながらに通った。
そのころには二人は随分と仲良くなっていて、会えばいろいろな話もするし、時には一緒に勉強もした。そうだ、その年僕は受験生だったのだ。
若宮さんが勉強のできるタイプだというのは言うまでもないが、僕の方はまあ、平均。どちらかというと理数系で文系教科はまるで駄目だった。夏の間に繰り返された読書と勉強会は僕の成績を飛躍的にあげることになり、考えてもみなかった有名進学校の白明を受験するまでに至る。(結果として付け焼刃の勉強は受験失敗に終わった)
そして中三の夏休みが終わり新学期が始まった頃、サッカー部のキャプテンの片岡君は僕のところへやってきた。
「なあ。オレ達も受験生だから今度の試合で引退なんだけど、お前も試合に出ないか」
意外だった。幽霊部員の僕がいまさら試合に出る必要なんてどこにもない。
「なんでいまさら?」
「記念だしな。それにオレとしてはお前のパスワークは結構評価の対象ではあるんだけどな。それに……。それにあの時、みんなは随分と文句を言っていたがオレには分かってたぞ。あれは敵にフェイントをかけてのスルー……。だったんだよな?」
どことなく上から目線な言葉にいちいち腹は立てない。サッカー部のキャプテンで背が高く、男前。勉強もトップクラスで15歳には思えない、低くて渋い声をしている。当然足も速い。僕に勝てる事なんて何一つない。むしろ僕が彼に少しでも認められていたことが誇らしかったくらいだ。そしてそんな彼があの時の僕の大失態の正体に気付いていてくれたことは素直に嬉しかった。だからといって今更どうということではない。
「いや、いいよ。今更練習もろくにしてない僕が試合に出ても足を引っ張るだけだよ」
「……そうか、じゃあ……しょうがないよな」
片岡君は淋しそうだった。
それから数日経ってからの放課後。図書室で若宮さんと二人で読書をして過ごしていた時に片岡君がやってきた。そのころには僕がそこにいるという事は校内でもそれなりに知られていた。
「わりぃ。邪魔したか?」
「いや、そんなことはない。それより試合どうだったの? 昨日だったんだろう?」
片岡君はシニカルに笑って見せた。
「……負けたよ。お前さえいたらな……」
「……あ、いや、ゴメン」
「謝るなよ。単なる皮肉だ。それより……今度の日曜日。引退メンバーで打ち上げしようかと思うんだけどお前も来ないか?」
「それこそどんな顔して出りゃいいんだよ。僕だってもう、ずいぶん長いこと部活になんて出ていないわけだし……」
少しの間をおいて片岡君は若宮さんの方を見た。
「じゃあ、若宮来ない?」
それを聞けば、僕だって黙ってはいない。
「どうしてそこで若宮さんなんだよ。それこそ関係ないじゃん」
「若宮来たら、お前も来るだろ」
「い、いや、それは……。どうしてそういう話になるんだよ」
「どうもこうも、そんなことわざわざいうこともないんじゃねえの? だってお前さ……」
「あ、あの……」それ以上の言葉を遮るように若宮さんが割入った。「あの……。わたしが行ったら優真君も行く?」
「いや、だからどうしてそんなことに……」
「出た方がいいよ。そういうの……。せっかくなんだし……。わ、わたしいきます」
「……わ、分かったよ。じゃあ僕も行くよ」
「よし、じゃあそういうことで、日曜日午後一時に校門の前に集合な」
片岡君はそう言って立ち去った。なんだか変な話になった。
日曜日に僕は今更どんな顔してみんなと会えばいいのかを考えながらためらって、少し時間に遅れ気味に到着した。若宮さんはきちんと早めの集合を心掛けていたようだ。
それこそ場違いな若宮さんがこんなとこに来る理由もなく、浮いてしまうんじゃないかとも懸念していたが、それは過ぎた心配だったらしい。
そこに集まっていたのは僕を含め三年のサッカー部員、来ていない人もいたが十数名。それに加えてそれと約同数の女子生徒。ひとりはマネージャーを務めていた子だったが、あとの女子生徒のほとんどはどういう理由で集められたかは解らない。が、やはりそれは片岡君のカリスマ性ならではといったところだろう。
僕たちはみんなで歩いてそこから近くのカラオケ店(それは田舎にとって髄一、そして唯一の娯楽施設)へと移動した。
男女合わせて三十名近く、ほとんどそれは部活動的なものというよりは大がかりな合コンにさえ近い。一番広い大型の部屋に入り、それぞれが仲のいい者同士のグループで勝手にワイワイする感じ。長い間部活に出ていなかった僕と、本が唯一の友達のような若宮さんとは当然のように部屋の隅っこの方で二人の世界を作り上げることとなった。
これだけの人数がいればカラオケで歌を唄わないやつがいたところで誰も気にはしないだろう。それに後ろの方にいる僕たちに誰が気を止めるだろうか。
またいつものように若宮さんと二人で最近読んだ本について意見を交換していた。そこに割り込んできた男が一人。
「ああ、読書だったらオレも結構読むぜ。太宰治とか。『人間失格』は最高だよな」なんて、ベタにもほどがある。そんな意見はとても読書好きの意見とは思えないな……ってほんの数ヶ月前の僕だってそんなものだっただろう。そう思えばあの頃の僕の薄っぺらい(今だって大したことはないが)〝読書家気取り〟なんて、本物の文学乙女には見抜かれていたに決まっている。そう思うと少し恥ずかしい。
ともあれ、誰にでも気が使える片岡君にとっては部屋の隅っこでみんなの輪から外れている姿が気になったのだろう。
そしてそこに彼が割り込んできたという事は……。
この会に出席しているほとんどの女子生徒はおそらく片岡君のファンなのであろうことは明白であり、彼のいるところが常に会の注目すべき中心地だ。
会場全体の視線はおよそ僕たちのいる隅っこへと向けられた。そろそろカラオケにも飽きてきたころの思春期の少年少女たちの関心事と言えば――。
「ねえ、ところで竹久君と若宮さんは付き合っているの」と誰かが言葉を投げかけた。
「やだ、そんなの聞かなくってもわかりきってるじゃない」
「そうそう、なんだかいつも二人でいるもんね」
次々に繰り出される勝手な言葉に僕たちは反論することも、肯定することも許されなかった。むしろ顔を真っ赤にしてうつむいている若宮さんの姿はそれを肯定しているようにしか映らなかった。僕たちは恋人同士だと決めつけられたようだった。僕は別段そのことを不快には思わない。むしろ嬉しいとさえ思っていた。
そしてテンションの上がりきった思春期たちはやがて暴挙に至る。
――王様ゲーム。
それは王様の名をかたる悪魔が自由奔放にふるまう悪魔の遊び。そのルールの凶悪さゆえ、現代において絶滅の危機に瀕しているこの遊びも、こうした田舎においてはかすかに生き続けていたのだ。
しかしそこは中学生。それなりに分別をわきまえた程度の軽いお遊びだった。しっぺ、デコピン。まあせいぜい好きな人の名を発表するというくらいにとどまっていたし、三十人近い人数だ。犠牲者になる確率だって低い。ほとんど傍観者のつもりで部屋の隅っこに鎮座していただけだった。
だが、それは突然訪れた。
「じゃあ、12番と26番がキス!」
いつも悪ふざけばかりしている男子生徒がそういった。
「いや、ちょ、それはいくら何でもマズイんじゃね」
そんな声が飛び交った。どうかこのままそんな命令は却下されてほしい。僕は12と書かれた割り箸を誰にも見られないように握りしめていた。
「てか誰だよ。12番と26番! とりあえず名乗り出ろよ」
不穏な空気が流れ、いくら僕でもそこを無視するわけにはいかなくなってしまった。「12」とつぶやくように立ち上がった。
「26番誰だよ!」
その言葉の後しばらくの沈黙の後、若宮さんがゆっくりと立ち上がった。
「……なあーんだ。じゃあ問題ないじゃん」
「そうよね、どうせあんたたち初めてってわけじゃないんでしょ」「いいじゃん、いいじゃん。しちゃえよキス」「えー、あたしみたーい」
口々に好き放題の発言が飛び交う。周りに恋人同士だと感違いされてしまったことがここにきて大きな
痛手となってしまった。
「キース、キース、キース………」
いつの間にかコールと、手拍子が始まる騒ぎとなった。もうどうにも後に引けないような状態。若宮さんはうつむいたまま握り拳を強く握りしめていた。そしてあるとき彼女のタガは外れてしまった。
「……あ、あ、あの……。わたしたち! べつにつきあってるわけじゃありませんから!」
まさか若宮さんがこんな大きな声が出せるなんて思ってもみなかった。それにはっきりとした否定発言に会場は凍りつき、さらなる険悪なムード。誰も、一言も発しないまま。それはわずか数秒のことだったのかもしれないが、果てしなく長い時間にも思われた。
「あーあ、雰囲気台無しだな」片岡君の思いっきり皮肉を込めたような言葉で沈黙は解かれた。
「お前ら、どうでもいいからさっさとキスしろよ。しないっていうんなら今すぐ帰れ」
僕はおそらく人生で初めて誰かを憎いと感じた。殺気立つ目で片岡君を睨み付けた。足が半歩、片岡君に向かった時、「いい、もう帰ろう」僕にだけ聞こえるような声で若宮さんがささやいた。おかげで僕は少しだけ正気を取り戻し、若宮さんの手を強く握った。
「帰ろう!」
皆にはっきりと聞こえるような声で言いながら若宮さんの手を引っ張ってカラオケ店を後にした。背中の方でヒューヒュー言いながら拍手をする音が響いた。
それからしばらくの間は片岡君と口をきくことはなかった。校内では若宮さんの宣言とは裏腹に僕たち二人は付き合っているとささやかれた。僕たち二人の関係はというと何も変わらなかった。今までどおり図書室で本を読んだり雑談をしたり。そんな毎日の中で僕は少しは気づくべきだったのかもしれない。時々彼女がうつろな目をしたり、何かをぼんやりと考え込んだりする姿を……いや、もしかしたらもっとずっと前から……。彼女が時々校庭の中を走りながら皆に激を飛ばす誰かの姿を眺めていたのかもしれないし、あの日、あの会に彼女が参加しようと言い出したのだって、そのためだったのかもしれない。
僕はひとり、彼女の姿を眺めながら自分にとって都合の良い世界を想像していただけかもしれなかった。
あるときちょっとした巡り会わせで片岡君と二人きりになった時に彼は言った。
「優真。あの時は悪かったな……。あの時はああ言うしかなかったんだ」
ただそれだけの言葉だったが、その時、僕はようやく気付いた。気づいてしまった。
片岡君は恋をしていた。あの、地味で目立たない黒髪の文学乙女に。
あの時、あの言葉は僕に対してどうこう言ったものなんかじゃない。
彼女を守るため。そのために行った苦肉の策。
片岡君は自ら憎まれ役を買ってあの会場から文学乙女を逃がしたに過ぎない。
〝ああ、これが恋なのだ〟〝恋のため、自らを犠牲にしたいと思うことがある〟
ツルゲーネフの『はつ恋』の中にあるセリフを思い出す。
去り際に片岡君は僕に言った。それは僕を見下す風な言い方ではなく、あえて言うなら僕に対して羨望というか、敬服といった印象を受ける言い方だった。
「――お前さえ、いなけりゃあな……」
片岡君は握り拳をそっと僕の脇腹に突き付けた。
僕はすっかりそのタイトルに騙されていた。ツルゲーネフの『はつ恋』は、そのタイトルからウラジミールとジナイーダの恋の話だと思っていたのだが、実際に読んでみると後半部分に少し違う印象を感じた。ジナイーダという一人の少女を巡り、恋の火花を散らした二人の男の物語……僕はそう感じたのだ。
かくして僕は高校受験に失敗し、若宮さんは合格した。
二人が離れ離れになることが確定し、僕は卒業式の日にその想いを告げることにした。
勝算はあった……
それはいつの日だったか、たぶん夏休みのころだったと思う。
昔から記憶力が悪いというか物忘れが多いというか、特に消しゴムをよくなくす。そして、いつも一緒に勉強している若宮さんに借りるのだ。そしてまたそれを返すのを忘れてしまう。まったく。自分が嫌になる。
さらに言うと僕は消しゴムに対し、変なフェティシズムを持っている。消しゴムについているキャップを外し、そのキャップを左手の人差し指にはめて、右手人差し指でその真新しい消しゴムの腹の部分を撫でるのだ。滑りやすくするためか、粉を吹いていて、すごくスベスベしている。背筋を這うような快感が走る。これを人知れずひそかに行っている。
と、ある時、キャップを外したところの真新しい部分にペンで文字が書いてあった。
――あなたのことが好きです――
よくよく見ればそれはもともと僕の消しゴムではない。考えるまでもなく若宮さんから借りてそのままにしているやつだろう。彼女はいつしか僕に密かなメッセージを送ってきていた。
それをたしかに僕は受け取った……。つもりになっていたのだが……。
『……わたしはね……。片岡君のことが好きなの……』
何がどこでどう間違ってしまったのか……。本来行動を起こすべきタイミングを誤ってしまったのかもしれない。もしくは初めからあのメッセージは僕あてではなかったのかもしれない。
ただ、単に自分の都合のいいように解釈していただけ。
今から思えばあの『はつ恋』と同じだったのだ。
僕はこの話をウラジミールとジナイーダの恋の話だと思って読んでいた。だけど若宮さんはそうではなかった。彼女はあの話をジナイーダ目線で読み取り、ジナイーダとその想い人との恋に悩む少女がいつもその隣にいたウラジミールに相談したという話として読み取っていた。
事の次第はつまりそう言うことだったのだ。
中学時代の僕はウラジミールで物語の主役だと思っていた。しかしジナイーダの目線で語ればウラジミールは傍観者でしかなかった。ただそれだけなのだ。
そしてこの物語、結局のところ二人の恋物語なんかじゃなく。ウラジミールとその恋のライバルとの友情物語に過ぎない。
そして、相も変わらず僕はこうして朝早く、誰もいない教室でひとり読書を開始した。一年前は二人だったが、今はもうひとりだ。坂口安吾全集を開きながら、やはりその内容はあまり頭に入ってこず、めぐるのはあの頃。
消しゴムに書かれた文字――あなたのことが好きです――を思い出しながら、センチメンタルに浸っていた。
いつしか僕のすぐ隣にとある生徒がいることに気付いた。目をやると教室で一番の美人の笹葉さんだった。いつもは強気な彼女が恥ずかしそうに、もじもじとしながらその白いほほを赤く染めていた。
「ねえ、竹久――。つきあって……ほしんだけど……」
その言葉を聞いた瞬間。僕の脳髄は一気に沸点に達してしまい、
――愚かにも、再びとんでもない勘違いをして、そして玉砕するのだった。